氷帝学園で過ごす

□5月、球技大会にて
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※岳人視点





あの跡部が!あの、跡部景吾が!!なんと俺の友達である苗字のことが好きらしい!!!ひえー!!!

なんかもう嘘みてーだろ?それが嘘じゃねーんだぜ。侑士とジローのカミングアウトは部活終わりの部室で、レギュラー陣プラス滝が居るっつー、プライバシーをフルシカトした状況だった。跡部は心底嫌そうな顔してたけど黙ってた。そんな跡部が何も言わないって事はそれはもう肯定ってことで、逆に俺は絶叫したね。マジかよいつからだよなんで苗字なんだよ嘘だろ?マジかよって跡部に聞きまくってたらゲンコツされた。すっげー痛かった。他のヤツらは今のは岳人が悪いとか言ってたけど、ホントは皆も気になるくせによ!侑士とジローは跡部を応援するとか言うから、その場の空気はソレ一色になって最終的には皆で跡部を応援しようってなった。跡部はもう帰って居なかった。それから俺も協力してやろうって試みたけどうまくいかなかった。キューピッドって難しいのな

「よー苗字、どうだった?」
『負けちゃったよ!がっかりだー』
球技大会。バレーを選んだらしい苗字と体育館で会った。負けたがあと1試合残っているらしく、体育館の中で観戦しつつ時間を潰すらしい
『向日はなに選んだの?』
「もちバレー」
『3年連続じゃん。もう向日はバレー部員でも通用すると思う』
「まーなっ!俺の華麗なるスパイクを目に焼き付けろよ!」
運動部に所属している人は、所属している部活動以外の種目を選ばなくてはならない。なので俺は何気に好きなバレーを選んでいる
「あ。なあ、跡部は?跡部はなに選んでる?」
『跡部?たしか、』
きゃあああああ!!!!跡部様ぁぁぁ!!!!
「……」
『……あそこで今からバスケの試合みたいだわ』
「…おう」

俺達の会話を掻き消す女子達の絶叫が苗字の代わりに教えてくれた。バスケ側のコートを見るとかなりの人数の女子が観戦していて、そのコートの中心ではひときわ存在感を放つ跡部が指パッチンで周囲を黙らせていた
「バスケは…ウチのクラス優勝取れねぇな」
『うーん…どうだろうね。まあ、跡部が負けるとも思えないけど…』
「俺もそう思う」
試合が始まったらしく、跡部が何かしらアクションを起こすたびに黄色い歓声が上がる。テニス以外のスポーツをする姿はレアだから、女子の眼差しがいつも以上に熱い
『向日はいま体育館に来たってことは次あたり?頑張ってね』
「あ、おう…って、えっ待てよ!跡部見てくんじゃねぇの?」
対戦相手やりずらそーとか思って心の中で合掌してたら苗字が会話を終わらせ何処かに行こうとした。何処かって言ってもバスケコートに背を向けたのでソコ以外に行くつもりなのかと、なんだか焦る
『ええ?そりゃ自分のクラスは応援したいけど、人多すぎて見えないでしょ』
「…たしかに」
『それにアッチでやってる女子バスケもA組が試合してるから、ソレ応援してくる。みんなもアッチ行ってるし』
「そ、そうか…」
『うん、あたし次の次だから向日の見れたら見るね』
じゃあね、とスタスタ歩いてく苗字を何と言って引き止めたらいいかわからなくて俺も思わず手を振ってしまった。みんな、と言うのはバレーのチームメイトだろう。苗字の歩いてく先には数人の女子が居て、女子バスケの観戦をしてる
(まあどうせ跡部のチームが勝つだろうからまだチャンスはあるか)
それにしたって苗字のあのアッサリした態度を見れば、跡部をそう言った対象としてないのがわかる。教室で跡部と苗字がどれだけ仲良くしてるかわかんねーけど、俺と苗字が仲良くしてたほどじゃないだろうなと思う。俺は2年連続同クラだったのもあるけど、跡部の性格とか考えてもさ

侑士とジローからまさかの話を聞いた直後、実を言うと少し複雑な気分になった。それは俺が実は苗字を好きだったとかじゃなくてな。いや、好きだからってのはある意味そうだ。俺は友達として苗字のことが好きだから。だから、複雑だ。今さら言うまでもないけど跡部の人気はスゴい。中学のときからスゴいが高校生になってさらに加熱した。クラスが同じになった事はないけど部活で一緒なんだ、その人気ぶりは間近で見てきてる。侑士もかなり騒がれてるし俺や他のヤツらだってそれなりに告られたりもしてきた。それでも跡部はやっぱり抜きん出てる。跡部が誰かと付き合ってるとか聞いたことがない。本人も言わないし噂とかも多分ない。だいぶ変わったヤツだけど元々がマジメだし頭も良いから陰で遊んでるとかはあり得ないだろう。ぶっ飛び過ぎててついてけねー事も多いけどイイ奴だし。そんな跡部が好きになったヤツならソイツがどんなでも、間違いはないんだろうなと思ってきた。けれどそれがまさか苗字だなんて

いや、確かに間違いはない。苗字は外部生だったのがあるから、中学の三年間で造られたテニス部の立ち位置も、俺がテニス部だと言うことも知らずにただのクラスメイトとして話しかけてきた。中学から氷帝に居たら仲良くはならなかったかもしれない。それはわかんねーけど、でも今こうして友達になった苗字はめちゃくちゃイイ奴だ。さすが跡部見る目あんなって思う。それなのに、なんでよりによって俺の友達を好きになっちゃったんだよって理不尽なことも頭の片隅で考える。もしもこの先、ふたりが深く仲良くなって仮に付き合いでもしたら、苗字は学園の女子達に傷付けられるのではないか。いや、付き合う前の段階で何かしら起こるだろう。事実、1年のときに俺と仲良くなったことで苗字と関口は一部の女子と揉めた。せっかく純粋に仲良くなれたのに俺のせいでって、一瞬ぎくしゃくしたりもしたけど今では俺達の仲をとやかく言うヤツは(表立っては)ほぼ居ない。でもそれは俺だったからだ。これが跡部ならもっと大事になってただろう。それだけ跡部の存在は他と違う

(苗字のことは心配だし、でも関係無い周りのヤツらのせいで跡部が苗字を好きで居られなくなるのもちげぇよな)
なんて言うか、跡部が誰かを好きになってソイツと付き合ったとしてもソレはなんかスゲーお嬢様みたいなお姫様みたいなヤツだろうって勝手に想像してた。俺とは次元の違う別世界の住人、みたいな。男子バスケを見ると跡部がバスケ部員でもないくせに綺麗にスリーポイントを決めていて、黄色い悲鳴が上がる。女子バスケに視線を移すと自分のクラスがシュートを決めたらしく、苗字が隣に座るヤツとハイタッチしていた。お姫様はきっとハイタッチなんかしないし、よっしゃ行け!とか叫ばない。けど俺様何様な跡部は王子ではないにしろ、正真正銘の御曹司だ

(けどふたりを並べて見ると案外悪くなさそーなんだよなぁ…)
それは俺がどちらの事もよく知ってるからだろう。だから複雑ながらも上手くいくといいなぁとか思ってしまう。苗字はいま彼氏も好きなヤツも居ないはずだから、跡部にとっては絶好のチャンス。6年関わって初めて聞いた跡部の恋バナだ(話したのは侑士とジローだけど)、なんだかんだ協力するのは仕方ない
(ま、苗字は物事をハッキリ言えるヤツだから、なんかあってもどうにかなるだろ)
多少は俺も助けてやれるからな!と意気込んで、もうすぐ始まる自分のバレーの試合へと意識を戻す

何試合目かのA組の男子バスケで、苗字が大声で跡部の応援をした直後に跡部がシュートを外したとジローから聞いた


















不器用な王様



(なんや今日、跡部静かちゃう?)(そっとしといてやれよ)














ーーーーー

良いとこ見せれなくて落ち込む

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