氷帝学園で過ごす

□6月、学部交流会にて
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氷帝は幼稚舎から大学部までの一貫校であり、その為に各部間の交流会と言うものがある。と言っても、さすがに幼稚舎の子が大学生と絡んだりはしない。幼稚舎なら中等部、中等部なら高等部と続いていき、あくまでも進級する学部の紹介の意味合いがある。生徒は本人の希望で案内する側とされる側に分かれるが、だいたい最上級生は翌年進級する学部のカリキュラムや方向性を定めるため、案内される側にまわることが多い。けれど最上級生だからこそ、案内する側としてその存在を示さなければならなかったりもする。なのにどうして、外部受験で他の生徒よりも圧倒的に氷帝を知らないあたしが案内する側に居るかと言うと、1年2年の時に大学見学をしていたので今年は必要無いだろと先生に言われてしまったからだ

「よし、次は図書室へ案内する。20ヶ国以上の言語を取り扱っているから選択科目で外来語を深く学びたい者はよく見ておくといい」
校舎の間取りを簡単に説明して、跡部の指示で中学生を引き連れ図書室へ向かう。案内する側は、各学年混合でいくつかのグループを作り、訪れた中学生をそれぞれ招待する。案内した事のないあたしは、3年連続で案内しまくりの跡部と同じグループで流されるまま動いている。ちなみに、跡部は生徒会として大学への訪問や交流があるので見に行く必要は無いらしい。さすが。中学生達は口々に「本物の跡部様だ」「跡部様に案内してもらえるなんて」と男女共に頬を赤らめ興奮気味だ。噂によると跡部の存在は幼稚舎にまで知れ渡っているとかなんとか。さすが。一緒に案内する子達までぽやんとして跡部を見ている。みんなが一歩も二歩も引いた状態なので自ずとあたしが跡部の補佐のような立場にまわっているけど、あまり役に立っていない。後輩達の跡部を見つめる眼差しが眩しい。せめてクラスメイトがあと一人居てくれたらなぁ。A組のみんなは比較的、跡部に対して普通だ。 日常的に同じ教室で過ごしているせいだろうか。やたらめったら騒いだりしないし、ごく普通に会話もする。まあ、超仲良し!って人が居るわけでもなさそうだけど。それに慣れると一歩教室を出たときの周囲の跡部への熱い眼差しに若干とまどう。それすら慣れてくるわけだけど

図書室の案内が終わり昼休みに差し掛かったので、中学生達をカフェテリアへ案内がてらお昼ご飯を食べる。交流会のときは中学生はもちろん、在学生までカフェテリアのメニューが無料で食べられる。オサレメニューが溢れているので高いのに、それら全てが無料。ハッキリ言える、今日一番の楽しみだ。むしろこの為に今日がある。お弁当派のあたしは滅多にカフェテリアでご飯を食べないのでかなりテンションが上がっている。中等部のカフェテリアもかなりのものらしいけど、やっぱり高等部と言うだけで思いは変わるようで中学生達ははしゃいでいた。あたしは先輩としての威厳を少しでも保つべく平静を装い一緒にメニューを選ぶ。が、先輩のオススメは何ですか?と無邪気に訪ねられて動揺した。え、どうしようわかんない…あたしココのは一番安いオムレツしか食べたことないよ(おにぎり持参)。でもそれっぽくメニュー見てたのに答えられないのはツラいので、どれも美味しいけどせっかくなら中等部に無いものにしたら?と当たり障りなく答えた。そうですね!と笑顔が返ってきたので問題無い

結局、カフェテリアに不慣れなあたしは迷いに迷った挙句に跡部と同じものにするという戦法を取った。これなら中学生達も、あたしが普段からカフェテリアを利用してると思ってくれるに違いない。目にも美しいいくつかの前菜がついたパスタのプレートを手に、国産牛の牛丼に少しだけ後ろ髪惹かれたのはしかたないだろう。どれもこれも美味しそうだからさ。昼休みと言うことで食べる相手は自由なんだけど、あたしが仲良くしてる子はほぼ大学部へ行ってるので半強制的に跡部を誘った。少し離れたところで眠りの慈朗がコッチを見ていたから断られるかと思ったけど跡部はすんなり了承してくれた。芥川と食べなくていいのかと聞くと、約束してないからなんともないらしい。いざ席について食べはじめれば、ウチのグループはみんな一緒に食べる感じになっていた。あと後輩達が選んだメニューが揃って跡部と同じものでウケた

「あの、苗字先輩は跡部様と同じクラスなんですよね?」
『そうだよー』
「よくお昼をご一緒されるんですか?」
『え?いや、普段は仲良い女子と食べるよ。みんな大学部行ってるんだよね』
「そうなんですか。…な、なんか私、跡部様のお側で食事摂るの緊張してしまって…」
『あー、跡部って食べ方キレイだもんね。緊張するの少しわかるかも』
「え、あ、いえ、それもありますけど…その、存在が凄すぎて…!」
『そっちか』
中学生だけでなく高校生達まで、感無量!みたいな顔してる。跡部見てるだけでお腹いっぱいのようだ。当の跡部は注目されることに慣れてるので気にする様子もなく食べている。これくらい普通だろ、と言われたがソレは食べ方についてのことだろう。や、跡部のスマートな食べ方はきちんと教育受けてないとムリでしょ。口いっぱいに頬張りたいのをガマンしてるあたしとは心のゆとりに差があるわ
「苗字先輩は、その、普通なんですね…跡部様とご一緒でも」
『クラス同じだからね。クラス一緒の人達はわりとこんな感じだよ。ねえ?』
「…ああそうだな」
「へえ…!」
跡部様と同じクラスだったらオレ手が震えて字が書けねえよ…!と呟いたのは一個下の後輩くんだ。それに頷く中学生達。同じ学年よりも、後輩と関わるときのほうが跡部の偉大さがよくわかる

胸いっぱいな後輩達だけど、女子はやはりデザートは別腹らしく、あたしがデザートを買いに立つと何人かついてきた。カフェテリアはデザートも格別に美味しいからね
「わ、先輩の選んだやつ美味しそう!」
『これいいよ、オススメ』
ちっちゃいケーキが何種類か盛りつけられてるケーキセットを迷わず選んだのは、もちろんいろんな味が一度に楽しめるからだ。コレは自信を持って勧められる。あたしのを見て、みんな同じのに決めたようだ
「あ、あの…苗字先輩って跡部様と同じクラスなんですよね?」
『うん』
「よくお話されますか?」
『え、うーん、まあ普通に?』
「じゃ、じゃあ聞くだけ聞いてみようよ…!」
「う、うん…!」
『えぇ?なになに?』
「あの…!あ、跡部様ってお付き合いされてる方はいらっしゃるんでしょうか…!?」
中学女子達が頬を染めて訊ねてくる。さながらアイドルのゴシップが気になるファンの顔だ
『ごめん、わかんないや。聞いたことないかな』
なのであたしの言葉にガッカリしたような安堵したような不安なような、ごちゃごちゃになった表情をされると申し訳ない気持ちが込み上げてくるわけで
『気になるなら直接聞いたほうが早くない?』
「えっ!でも…」
『ねえ跡部、跡部』
「えっ!」

驚いてる後輩達を気にせず、席に着くなり跡部に声掛ける。なんだ?とこちらを見た跡部はあたしが手に持つケーキのプレートに目をやり、気に食わねぇのがあるのか?と聞いてくる。そんなわけない。どれも美味しそう過ぎて震えるわ
『全然。チーズケーキ以外ならどれか好きなの食べてもいいよ。てかさ、跡部って彼女いるの?』
「いや、大丈夫だ………アーン…?」
ゆるく首を横に振った直後、跡部が固まった
「…どう言うつもりで聞いている」
『や、今みんなで跡部って彼女いるのかなー?って話しになったからさ。あたしのイメージだと許婚とか居そうだなって思って』
「……」
眉間にシワが寄った跡部に、後輩達はあわあわしている。聞いてしまってなんだけど、傷心中とかだったらどうしよう。跡部に限って、なんて頭のどこかで思ってたけどそんなのわからない。反応的にもなんだかよろしくなさそうな…
『でもあれだよ、デリケートな話だし無理に答える必要もな、』
「いねえ」
『えっ』
跡部は呆れたようにため息を吐きなが言う
「彼女も許嫁もいねえし、気を遣われるようなこともねえ」
『そうなの?いやでも、それとは関係無しにごめん、いつものノリで聞いちゃった。跡部ってそう言う話しなさそうなのに』
「…たしかにな。話したことねえ」
『うん想像しにくい』
「するな」
あたし達の会話を聞いて後輩達はホッとしたようだ。気まずくさせて申し訳ない、が、小声で「跡部様お付き合いしてる人いないんだ」「出来れば卒業するまで彼女の話は聞きたくない」などと囁き合う女子達は本当に跡部のファンしてる

その後は特に何事もなく選択科目の教室を案内したり中学生からの質問に答えたりした。結局、最後の最後まで後輩達は跡部を前に緊張きていて内容が頭に入っているのか若干怪しい。あたしはあたしで特に役にも立たず、でも優しい跡部は苗字が居たからスムーズだったと労いのお言葉をくださった。さすが。途中、すれ違った別のグループの中にこの前見かけた…か、樺地くん、だったかを見た。落ち着いていて一歩引いた雰囲気から先生なのかと思っていたが、向日がテニス部の後輩だとあたしをバカにしながら教えてくれた。落ち着きのない先輩が居る故に樺地くんはああも落ち着いているに違いない。樺地は跡部のなんだぜ!と言うこわい発言はスルーした




























ほかの誰でもないあなたの為だけの椅子がある



(なあなあ跡部!苗字と何話しながらメシ食ってたの!?)(ああ?…別に普通の世間話だ)(えーほんと!?なんか盛り上がってたから気になるC!)



















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ジローもほんとは一緒に食べたかったけどガマンした模様。
がっくんは二人をくっつける気無い。

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