氷帝学園で過ごす

□6月、部室にて
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※日吉視点





「おいお前ら、話がある」
部活後、着替え中の部室内。一番最後に入ってきた跡部さんは、着替えもせずに仁王立ちで腕組みして言い放つ。その相手は向日さんと芥川さんだ。向日さんは早々に着替え終わりお菓子を食べていて、芥川さんはいつも通り寝ていた
「?なんだよ?」
「むがー」
「なんだよ、じゃねえ。おいジロー!てめえもよく聞け」
きょとんとした顔の向日さんと、むにゃむにゃ言ってる芥川さんに対して跡部さんは青筋を立てている。どうしたんだろう、と隣で鳳が呟くが俺がそんなのわかるわけない。とりあえず向日さんと芥川さんが悪いのだろう
「お前らな、余計なマネすんな」
「はあ?なんのことだよ?」
「わからねぇとは言わせねー」
「いや、わかんねーよ。なんかしたかぁ?今日は基礎レンもマジメにやったし…」
「そう言うことじゃねえ」
「ええ?」
「…本当にわかってねえのか」
「な、なんでそんな怒ってんだよ…おい、おいジロー!お前も言われてんだからな!」
「ん、ん〜…なにがぁ」
「チッ…」
まったく心当たりありません、と身の潔白を主張する向日さんだが、跡部さんを見る限りやはりどう考えても向日さん達が何かやらかしているようだ。このふたりならやらかした出来事をすっかりさっぱり忘れていてもおかしくない。荒れてるねぇ、と滝さんが苦笑しながら小声で呟く。何か知ってるんですか?と鳳がこれまた小声で尋ねる。滝さんは、知らないけど予想はつくと言った

「向日、今月末にやる青学との練習試合に苗字を誘ったらしいな」
「おっ!そうなんだよ!苗字から言われたか?へへん!どうだ、俺もなかなかやるだろ?」
「執拗に誘ってくるからお前が今年は公式戦に出られないのかと心配してたぞ」
「はあ!?」
「ジロー、お前は関口にやたらと絡みにいってるらしいな」
「そうそう〜!俺は苗字とあんま喋んないから、関口と仲良くなろう作戦してるんだC〜!」
「それに関して宍戸から被害届けが出ている。間接的に宍戸を巻き込むのはやめろ」
「ええ!?なんでー!?亮、なんで!?俺めっちゃ頑張ってるじゃん!」
「いやジロー、お前が頑張れば頑張るほど俺が関口に睨まれるんだよ…。なんかそろそろキレられそうでな…」
「でも俺とは仲良くしてくれてるじゃん!」
「お前今日5回は無視されてたじゃねーか…」
はぁ…、と宍戸さんと跡部さんが同時に溜息を吐いた。それを見て滝さんが予想通りかなと苦笑する。ああなるほど、と俺と鳳は納得した

(ほぼ)芥川さんと忍足さんが跡部さんの好きな人を暴露してから、テニス以外の話題と言えばコレに定着しつつある。まあ無理もない、何せあの跡部さんだ。人間なのだから好きな人くらい居たって当然だがどうしても驚いてしまうし、まさかひっそりと片想いしているだなんて普段の姿からは想像つかなさ過ぎて衝撃がすごい。中でも向日さんは跡部さんの好きな人(以下苗字さんと呼ぶ)と仲が良いので何かと出しゃばろうとしていた。そしたらそれに続けとばかりに芥川さんまで動き出したらしい。例えば滝さんや忍足さんならまだしも、この二人に動かれるとか俺なら絶対に嫌だ。恋の終わりを予感する。俺ですらそう思うのだから跡部さんもきっと思ったろう。あの人たちは善意が空回るタイプだ。亮に迷惑かけんなよーと言ってる向日さんは、忍足さんに可哀想な眼差しを向けられてることに気づいていない
「…わかったらお前らはもう何もするな」
「え〜!?」
「いやでもよ跡部、じゃあ跡部は今すぐ告白でもすんのかよ?」
「…はあ?」
ずいぶんと飛躍した話だ。いきなり話をそんなところに持って行くのはどうなんだ。跡部さんの眉間にさらにシワが寄るのも当然だがここで突如、第三勢力が現れた
「ああ、それは俺も気になってたなぁ」
まさかの滝さんだ

これには跡部さんだけでなく、俺と鳳もぎょっとした。ついさっきまで俺達の側で成り行きを見守っていたと思ったのに。しかし滝さんは俺達の驚きなどどこ吹く風で跡部さんに詰め寄る
「ほら、俺B組だろ?だから体育とかの合同授業なんかはA組と一緒の事が多いんだけどさ、跡部を見てても苗字さんと全然会話してないみたいで気になってたんだよね」
「…授業中に会話する必要は無ぇだろ」
「うーんそうかい?合同授業の時ってわりとみんなお喋りしてるだろ。俺のクラスにA組の女子と付き合ってるヤツ居るけど、合同授業の時は二人で居たりするよ?」
「…授業に集中しろよ」
「えぇ?せっかく休み時間以外にお喋り出来るチャンスなのに。跡部ってそんななのに根が真面目だよね」
「そんななのにとはどう言う意味だ」
「派手好きでチャラそうなのに実は生真面目ってこと」
「チッ…」
跡部さんはそれはもう不満そうに舌打ちした。しかしそれ以上返さないのは、やはり苗字さんに関しては跡部さんなりに滝さんの言葉に思うところがあるのだろうか。滝さんは案外ズバズバ物を言う人だし、向日さんと芥川さんに比べると段違いに人が出来ているので発言に重みが感じられる
「ほらな!滝もそう言ってんじゃん!」
「そうだそうだ!」
アンタらは黙っていたほうがいいです
「まあ、俺は岳人とジローみたいに苗字やその友達と普段から関わりがあるわけじゃないし、無理して行動を起こす気も無いけど。でも跡部が苗字とどうなりたいかによっては出来る限りの協力は惜しまないよ?」
「……」
滝さん、流石です。隣で鳳が目を輝かせて言った。いや、どうだろう。それって要は向日さんと芥川さんみたいに首を突っ込みたいってことでは…?
「せやな。正直言うと俺も気になってしゃあないわ。宍戸もやろ?」
「えっ!?俺か?俺は、いや…あ〜、まあ…そうだな。気にならねえってのは嘘になるけどよ…」
「なんだよやっぱみんな気になってんじゃねーか!苗字マジイイ奴だから跡部とうまくいったらスゲーイイと思うよな!」
「俺も苗字はあんまわかんねーけど、跡部が好きになるなら間違いないって思うC!」
「お、俺もっ!俺も、2年だから出来る事なんて少ないですけどっ!でも跡部さんの為に頑張りたいです!」

ええ…?なんだこの展開…。よくわからないが突然盛り上がりだしたぞ。こわ…。よっしゃーみんなで応援しよーぜ!とはしゃぐ向日さんに各々が賛同しているのを、俺と樺地は黙って見ている。跡部さんは…あ、跡部さんが誰にも気づかれずに退室しているだと…?全校生徒が集まっていても確実に見付けられる存在感のあるあの跡部さんが気配を消してひっそりと部室を出て行くなんて、ここ最近の跡部さんの新たな面がすごい。まあ普通逃げたくなるよな。跡部さんが出て行ったのにまったく気付いていない皆は、次の練習試合で跡部さんと苗字さんを近付ける計画を打ち立て始めた。それなら俺が頑張ろうかなと滝さんがヤル気に満ちている。アンタやっぱ首突っ込みたかったんじゃねーか。このあと少しして、跡部さんが居ないことにやっと気付いた樺地が慌てて部室を出て行くまでの間に、跡部の恋を応援しちゃい隊(命名・芥川慈郎)が発足された

俺か?俺は黙って輪の中にいた。あの天下の跡部景吾の片思いの行方なんて、そんなスクープ気にならないわけがないだろ


























いやいやながらの王様



(ねえ日吉、俺たちはどうやったら苗字先輩と知り合いになれるかな?)(……練習試合で声かけてみたらいいんじゃないか?)(そうだね!挨拶してみようかな!)



















ーーーーー
日吉は案外ノリが良いはず

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