氷帝学園で過ごす

□6月、委員会にて
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※忍足視点






俺がなぜ苗字さんのことを知っていて、かつ挨拶を交わす仲なのかと言うともちろん岳人の存在が大きいが実は他にもあって、委員会が同じなのだ。海外交流委員会。その名の通り海外にある氷帝の姉妹校との交流を主とする委員会だ。俺は中学のときからずっとこの委員会に所属している。外国語の勉強になるのと、活動回数が少ないのが続けている理由だ。少ない、と言ってもそれは日々の活動が無いだけで、盛んな時期は拘束時間は長くなるし活動内容もなかなか大変だ。似たような委員会で、校外活動委員会なるものもあるが、そちらは氷帝にやってきた海外生徒とのレクリエーションの企画・進行が主になる。ウチの委員会は何ヶ国かある姉妹校の中のどの学校を今年呼ぶか呼ばれるかなどの、土台部分を担っている。地味ゆえに大変なのだ。そしてそれはまさに現在進行形だったりする

『忍足、こっちはまとめ終わったよ』
「おおきに」
『ソレはホッチキスで留めてく?』
「せやね」
『やるわ』
「ほんま?助かるわ」
ありがとう、と言えば気にしなくていいと返ってくる。この短い会話のやり取りが、女子相手だと成立しないことが多いので新鮮だ。委員会が一緒になって初めて会話した時も苗字さんは今のようなかんじで、氷帝の中に居るとそれはとても珍しく、少し驚いたのを覚えている。後に判明したのは、岳人が俺のことを少し話してくれていたのと、苗字さんなりに気を遣ってくれていたからだった。それでも、騒ぎ立てたり色めき立てたりしないのは苗字さんのもともとの性格だったようで、氷帝に馴染んだ今でもこうしてごく普通に接してくれている

別に女子の全員が俺たちを囃し立てているわけではないが、学園全体の比率としてはかなり多いので、そもそも生徒数が膨大な学園内でこうした女子と関われるのはとても稀なのだ。委員会名義で生徒へ発行するプリントをまとめながら、手伝いを買って出てくれた苗字さんをチラリと見ると、一緒に手伝ってくれてる後輩と和やかに喋っている。急だったので3年は俺と苗字さんだけで、あとは1・2年生がチラホラ参加してくれた。岳人から聞いていた苗字さんの印象は、話しやすく誰とでもすぐに仲良くなれておちゃらけてる、と言うものだったがソレは自分の自己紹介ちゃうの?と思ったのは内緒にしてる。それに、実際に自身で接してみて抱いた印象は少し違う。確かに話しやすいしノリも良いが、誰とでもすぐに仲良くなれるようなタイプではないだろう。そうではないが、丁寧に相手の話を聞く人だから親しみやすいのだ。だから岳人との相性が良くて仲良くなったのだと思う。あの子は自分ばっかり話したがるもの。いま苗字さんと話してる2年の男子だって、去年から委員会を続けてるがこれまで二人が親しげに話していた様子はあまりなかった。でも苗字さんが話を振って、それに対して返答した発言に対してしっかり話を繋げていくので2年の男子(岡田くんやったか)が楽しそうにどんどん喋っている。なるほど、気になる女子がテニス部に夢中か…なんかスマン

『で、その子が推してるテニス部は誰さ』
「あ、はい、芥川先輩らしいです」
『ああ〜はいはい、眠りの慈郎ね』
「ブフッ!」
『えっ?なに忍足。どうしたの』
「…いや…っ、ね、眠りの慈郎って…」
『あー、友達が言ってたの。なんかいっつも寝てるんだって?向日からちょっとだけ聞いたことあったけど、実物はほんとにすごい寝てるんだってね』
「…あぁ…おん、せやで…」
『じゃあ岡田くんの好きな子はカッコ可愛い系が好きなんだ』
「…そうなんですかね?」
『てか、それなら岡田くんもイケそうじゃない?』
「ええっ!?ま、まじですか!?」
『うんわりとそうだと思うけど。目くりくりで身長高くて。ねっ忍足、岡田くんなかなかじゃない?』
「せやなぁ、なかなか男前やで」
「そ、そうですかね…!」
『おっ照れた』
「照れたなぁ」
この気さくさはきっと跡部に対しても変わらないのだろう。“氷帝学園の跡部景吾”ではなく“向日の友達”として跡部を見ている。目線を合わせて接してくれるから跡部も惹かれたのか。…いや、もしかしたら何かしらきっかけがあったのかもしれない。まあそれを跡部が話してくれるとは思えないが。どちらにせよ跡部はすでに苗字さんを好きになっている

「せや、苗字さんはテニス部の誰が格好いいとか普段話さへんの?」
「あ、それ俺も気になります。今だって向足先輩とすごく普通に話してますけど」
『えー?忍足が推しメンだよって言ったほうがいい?』
「それ言ったらアカンやろ」
『たしかに』
苗字さんは呑気に笑うが、俺としてはなかなか鋭い質問をしたと思う。岡田くんのアシストもナイスだ
「あ、苗字さんから見て芥川先輩はどうなんですか?」
『芥川はたいして絡んだことないからなぁ』
「中身とかじゃなくて今は顔ですよ、顔」
(岡田くんやりよるなぁ!)
『カッコ可愛いとは思うけどきゃあきゃあ言うのとは違うかな〜』
「ええー、じゃあやっぱり跡部先輩ですか?クラス一緒ですよね」
(岡田くんええ子やなぁ!)
『あ、うん。なんだかんだ言っても跡部が1番カッコイイでしょ』
「えっ!?」
『うわどしたの忍足。声裏返ってるよ』
「ほらやっぱりソコは忍足先輩が1番だって言わないと」
『ああ〜!そっか、失敗したわ〜!ごめん忍足、やり直す?』
「やり直すってなんやねん。ちゃうわ、苗字さんも跡部が1番とか思っとるんやなって」
まあそれだけの驚きではないですが
『そりゃそうだよー。跡部って本当にカッコイイじゃん』
(これ跡部に聞かせたいなぁ。どんな反応するんか想像つかん)
「クラス一緒で緊張しないんですか?」
『うーん、それとこれとは別かも。キレイな顔だなってジッと見ちゃいそうになるのを堪えはするけど』
「気にせんとジッとみてみたらええやん(どんな反応するか想像つかん)」
『いやいやさすがに出来ないって、失礼すぎでしょ』
「でも跡部先輩ってそういうのも慣れてそうじゃないですか?」
「慣れとるなぁ(好きな子相手は知らんけど)」
『ほーん、じゃあ今度やってみる』
「反応教えてな」
『忍足が知ってるのと変わらないだろうから面白みないんじゃない?』
「かもしれんけどせっかくやし」
絶対に面白いとは言えない
「でも俺も跡部先輩が1番とか言われてたら悩むヒマもなく撃沈してましたよ」
『ばかだね、そういう時こそ中身で勝負でしょ。まあ跡部は中身もいいけど』
「えっ!?そうなん!?」
『えっ、部活中は性格悪いの?』
「いやいや!ちゃうよ、ちゃうけど苗字さんやけに跡部を持ち上げるなぁ思て」
「もしかして好きなんですか!」
(岡田くん!!)
『いやいやそれはないって〜』
えええええ!
「えー?クラス一緒で顔も中身も良くて、今のところ好きになる要素しかないですけど」
(岡田くん頑張って!)
『そうなんだけどさ、ズキュンと一目惚れして好きになるやつがあたしの理想だし』
(えっ…)

岡田くんが苗字先輩って一目惚れ派なんですか〜と目をパチパチさせて言うと、苗字さんは頷いて見せた。うわ…苗字さんそうなん?え、なに?じゃあ跡部もうアカンやつやん。苗字さん、恋はフィーリング派やってん?跡部もうアカンやつやん。そうか、そうなるとここから苗字さんに跡部を意識させるのはかなり難しい。これは困った。仲良くなればこっちのものだと思っていたのに
『でも実際は一目惚れなんてなかなか出来ないよね』
おお…!
「あー、一瞬で好きになるとかやっぱりドラマとか漫画の世界の話ですかね」
岡田くん…!
『まあねー。会う人会う人を常にギラついた目で見てたら違うかもしれないけど』
「そんな苗字先輩イヤですよ」
ケラケラ笑う二人を尻目に、俺はホッと胸を撫で下ろす。あくまで理想であって、特別こだわってるわけではなさそうだ。いや、それよりも今は特に恋愛したいモードじゃないと言う感じか。だとしてもこれは跡部が頑張れば友達から始まる恋もありえるのでは?そう言えば少し前に読んだばかりの小説がそんなかんじの内容で、もどかしさがたまらなく話を面白くさせていた
(なんや小説よりよっぽどおもろいなぁ)

事実は小説より奇なりと言うが本当だ。しかも主人公が跡部で、ヒロインもすぐ側に居る。やっぱりこれはしっかり見守っていかないと駄目だ。この前は悪ノリが過ぎたかもと思ったが、俺はもう二人から目が離せない。とりあえず今日の事は滝にでも言っておこう






















きみが彼の人生の中にずっと居てくれたら嬉しい



(…なあ苗字さん、コレ…読んでくれへん?)(え?あっ、コレ読んだ!きゅん死にした!)(ほんまか!!)











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何かしら対人関係が良くないと跡部との恋愛まで辿り着けんからな!

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