氷帝学園で過ごす

□6月、練習試合にて@
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『うわあ…結構人居るね』
「うんすごいわ」
今日は氷帝でテニス部の練習試合がある。日曜で学校が休みにも関わらず、コートの周りには人が(女子が)集まっている
「え〜?なんかコレあんまり見えなくない?」
『どうするもっと前行く?でも立ち見つらいよね?』
「できれば座って見たいよね」
あたしとよっちはコートから少し離れたベンチに座っているけど、立ち見をしてる人達に遮られていまいち見えにくい
「向日いつ出るかとか何か言ってた?」
『いやなんも。てか、そもそも試合出るのかもよくわかんない』
「えっそうなの?」
『来い来いとしか言われてないんだよね。来い来いって言うくらいだから多分出るんだろうけど』
「ふーん。…しつこかったんだっけ?」
『そうだよ、別に練習試合をわざわざ見なくても公式試合で全校応援あるのにさ。レギュラー外されたのかと思って焦ったわ。跡部に聞いたら違うって言ってたけど』
「てか、自分から見に来いって言うの珍しくない?」
『珍しいってか初めてじゃない?向日うちらとテニス部の話するの避けてるもん』
「だよね」
テニス部ということで良くも悪くも注目を集めてきた向日は、多分あたし達とはテニス部の肩書き抜きで友達をやっていたいのだと思う。テニス部レギュラーの向日岳人を知らずに出来た友達を大事にしたい、と言うようなことを前に言われたことがある。いやもっと雑な言い回しだったけど。それを言われなくても、氷帝で生活していれば自然と向日の気持ちは汲み取れたので、あたし達は基本的にテニス部についての話題を向日に振ることはなかった。それが今更になって練習試合を観に来いとはなんなのか。さすがに最後の年くらい友達の勇姿を見るつもりではいたけど、練習試合まで来ることになるとは

『ん?よっち ケータイ鳴ってない?』
「あっほんと。え、向日だ」
『え、なんで』
「ちょっと待って…もしもし?…え?うん来てるよ、そう、二人で来た。…ああそうなの?…ねえ名前、向日が名前に連絡したけど出なかったって」
『えっうそ』
ケータイを確認するとLINEと着信が来てた。LINEには“着いたか?” “まだか?” “どこに居る?” “早く電話でろ” としつこく連投されている
『ごめん音消してた』
「音消してたって。…いや知らないよ…いま?コートの近く。…うん でも思ってた以上に人多くて」
『あ、向日に何時くらいに試合するか聞いたら?』
「向日は何時くらいに試合出るの?いまフェンスから少し離れてるんだけど、向日の時は前行くから…は?…はあ!?やだよ!なに言ってんの!?」
『ええ?なになに?』
「コートの中に入って見ていいから今から向かえに来るとか言ってる」
『いやいいよ、向日マジなに言ってんの?』
「名前もヤダっていってるし…ってちょっと!?」
『どした?』
「ここで待ってろって言って切られた」
『はあ〜?』
向日がなんだか凄くめんどくさい。誘った手前気を遣ってくれてるのかもしれないけど、余計なお世話すぎる
「…とりあえず待つ?」
『居なくなってるのはさすがに可哀想だしね…。あ、でもココだと目立ちそうだからアッチ行ってよ』
「そうだね」
仕方ないのでコートからさらに遠ざかって向日を待つ。3年目ともなると普段はあまり意識しないけど、こうやって外で全学年の女子が居る中では向日と言えどレギュラー。仲良く話してる姿を見られるのは抵抗がある。3年の間でも、レギュラーが居ないクラスのテニス部ガチファンはあっちこっちになかなか鋭い視線をぶつけているくらいだ。出来るだけ目立たないようにあたし達は静かに向日を待つことにした

「関口、苗字」
「…えっ?滝?」
『えっなんで』
待つ事少し、あたし達に声を掛けてきたのは予想していたテンション高いものではなく、優しく落ち着いた声だった。いやいや、なんで滝。滝はちらりとフェンス近くの女子達を見たあと、フェンスから出来る限り見えにくい位置にズレてあたし達と向き合う。気遣いがイケメン過ぎてやばい
「岳人に頼まれて。いま部員達だけでミーティングしてるんだ」
「え、滝は?抜けて来て大丈夫?」
「俺はマネージャーだからね。監督はまだだから問題ないよ」
『そうなの?でもわざわざごめんね』
「かまわないよ」
こうやって滝と話すのは初めてだけど、優しく笑う姿は本当に綺麗で、マネージャーなのにファンが多いのも頷ける。中学の時は選手として部活をやっていたけど、高校ではマネージャーをやっている。コレは一年のとき滝ファンに聞いた。もともとスポーツは中学までだと、親との約束だったらしい。でもどうしてもテニス部に所属したくてマネージャーと言う立場に収まったその話は中学からの熱烈な滝ファンの間では涙無しでは語り尽くせない歴史秘話ヒストリーになってるようだ。詳しくは知らない。ただ、よっちと同じく音楽を専攻していてピアノが凄く上手だと言う情報は知っている。男女共に人気があっていつも人に囲まれてるから話し事ないとよっちは言っていた

「じゃあ行こうか」
「あ、ねえ、わざわざ向日の代わりに来てくれたのに申し訳ないんだけど、あたしらココで見るからいいよ」
『そうそう。さすがにコートの中はムリだわ。ココからでも充分見れるしさ、向日にはちゃんと応援するから大丈夫って伝えといてよ』
あたし達を連れて来た道を戻ろうとする滝にすかさず意見する。滝みたいな良い人をパシリにする向日はあとでどうにかする
「ああ、それなら大丈夫。さすがにコートの中は部員しか入れないから、部室側に来てもらおうと思って。ココより見やすいし、他の生徒も基本的には来れないことになってるから静かだよ」
『基本的に入れないのにあたし達が行ったらまずくない?』
「部員の許可が降りれば大丈夫だから。部活に集中出来るように必要以上は近付かないって、跡部がファンクラブに向けて作った正式なルールなんだ」
「ファンクラブの正式なルール…」
『テニス部員の口から聞くと改めて凄いなぁって思うね』
「うん」
ファンクラブの会員から聞くのと対象となってる当事者から聞くのではまた違った感覚だ。秩序を守るために受け入れてるんだろうけど、大変だろうなぁ
「そういう訳だから、行こう?岳人がはりきってるよ、テニスしてるところまともに見たことないんだって?」
「…ああ、うん」
『まあ、さすがに今年は見ようかって話してはいたんだけどね』
「そっか。ならなおさら今日はしっかり見てってやってよ。岳人だけじゃなくてさ、ウチは全員強いから」
うん、と頷いてあたし達は滝に着いて行く。よっちが芥川と宍戸のことも応援しようと言うので、じゃああたしは跡部の応援するよと言った。ファンの声援に掻き消されるだろうけどそれはどうしようもない。跡部には心の声を聞いてもらおう。前を歩く滝がこっそりとガッツポーズを作って居る事にあたし達は気がつかない




















仕組まれた幸せ



(じゃあ二人を迎えに行ってくるぜ!)(ちょい待ち岳人、自分が行ったってちゃんと来てくれるかわからんやろ。ここは滝に任しとき)(俺?)(はよ行かんと跡部が戻ってきよる。なっ頼むで?)(仕方ないなぁ、まかせてよ)
















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跡部の居ない隙に近くに呼んで反応を楽しもうとしてる愉快犯

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