氷帝学園で過ごす

□6月、練習試合にてA
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※よっち視点





『…向日ってあんなにすごかったんだね』
「跡部様なんて次元違うよ」
『眠りの慈郎もイメージと違ったし』
「芥川って30分以上起きてられたんだ」
滝に案内された場所で座り込んでテニスを観戦していたあたし達は、昼休憩の合図が聞こえても呆然としていた。強いのはよく聞いていたし、練習も厳しいことは向日から散々聞かされてもいた。けれど、まさかこんなにスゴいとはかなりびっくりだ
『なんか、これってどう見ても相手も凄いよね?』
「と思う」
『でも勝ったりしてたよね』
「いや凄いわ」
『ファンクラブ出来るのもわかるわ』
名前に大きく頷いて返事する。今まで試合を最初から最後まで見たことなかったからわからなかったけど、これは納得いくわ。コートに居た全員がものすごくカッコよく見えた。こう言う補正的なのって他の運動部を見てるときにもあったけど、テニス部は…なんだろう、さらにカッコよく見えるオーラみたいなのがあった。いやまあ、もとから顔の良い人達ばっかりなせいもあるにはあるけど
『なんて言うか…お腹いっぱい感がすごい』
「わかる。向こうに居るファンの人らが休憩に入っても動かない気持ちも今なら少しわかるね」
『…でもあの人だかりが動き出す前に行かないと、あたし達がこの辺うろついてる所を見られたら騒がれそう』
「あー、だね。この前行って美味しかったカフェは?」
『あ、いいね。喉乾いたし』
実際やっぱお腹は空いたよね、なんて笑い合って立ち上がろうとしたら遮るように大きな声で名前を呼ばれた

「苗字!関口!見てたか!?」
「まじまじどうだった〜!?」
直前まで走り回ってたのが嘘のように元気すぎる向日と芥川がテンション高くやってきたのだ
『見てたよお疲れさま!いやぁすごかったね』
「お疲れ!凄すぎてさ、なんか二人とも別人みたいだったね」
「なんだよそれ?でもそうか!へへん!なかなかやるだろ!?」
「俺たち強いC〜!」
試合を見ていた直後なのでこっちも思わず興奮気味に感想を述べれば、ドヤ顔で喜ぶ二人。本当に試合中と別人だ
『もうお昼でしょ?』
「おう、跡部が俺たちと青学の分まで弁当を注文してくれてんだ」
「跡部様発注のお弁当とかめちゃくちゃ豪華そう」
「すっげーうまいんだ!」
「だろうね」
『羨ましいわー。なんかソレ聞いたらすっごいお腹減ってきた』
「あたしも」
『パスタセットにしようと思ってたけど止めてドリアセットにしようかな』
「あーうん、お米いっぱい食べたいのわかる〜」
「はっ?お前らどっか行くの?」
『うん、あたしらもお腹空いたからご飯食べてから帰るよ』
「ウソ!?それじゃダメだC!」
『でも午後からは試合無いんでしょ?』
そうだけどっ!と前のめりな芥川に、ついジト目してしまう。なんかコイツ、テンション高いの試合のせいだけじゃなくない?向日よりぐいぐい来るじゃん。積極的に行くタイプなの
「跡部が苗字らも弁当食ってっていいって」
『えええー?それ向日が無理矢理取り付けたんじゃなくて?』
「ちっげーよ!練習試合観に来るって言ってあったから用意してくれてたんだって!」
『ほんとに?跡部ちょっと気ぃまわしすぎじゃない?できる男過ぎて恐縮しちゃう』
「ばっかンなもの気にしなくていーって!な、腹減ってんなら食ってけって!もう数に入ってんだからよ!」
『ジャマすぎない?』
「んなわけねーって!」
『…どうする?』
「ううん…用意してくれてるならまあ行ってもいいけどねぇ…」
行ってもいいけど、なんだか芥川の良いように事が運ぶのが釈然としないのはヤツの日頃の行ないのせいかなコレは





『跡部、あたしらの分まで用意してくれたんだって?向日のせいで気ぃ遣わせちゃったよね、ごめんね』
「いや、ふたつ増えるくらい何の手間もねぇからな。気にしないで食ってくれ」
『ありがとう。ってかスゴいね、超美味しそう!』
「そうか」
なんで俺のせいなんだよ!とあたしの横で煩くしている向日を無視して名前と跡部様は話し続ける。試合を観戦した後だと、跡部様が“跡部様”と呼ばれる理由がわかった気がする。名前が同じクラスになってから少しだけその人となりを知ったけど、それは名前から見た教室の中での跡部様であってあたしが実際に見たものじゃなかった。今回、テニスをする跡部様、今目の前に居る跡部様を自分の目で見ることが出来た。そうすると、やっぱりこの人は“跡部様”だった。上手く表現出来ないけどこれをカリスマって言うのかなって思う。人を惹き付ける何かがあって、それは跡部様だから成り立つものだ。名前から聞く跡部様像が無いままテニスする跡部様を見てたら、きっとそのカリスマ性は更に大きく感じられたはず
「関口も遠慮しないで食えよ」
「あっう、うん。ありがと…」
うっかり考えることに夢中になってたら跡部様に気遣われた。気配り出来すぎ。すごい
「なんだよ、まーたダイエットしてんの?どうせ意味ねぇんだから沢山食えって!」
「それに比べて向日は!」
『なんで向日がモテるんだろうね』
「迷宮入りだわ」
「なんだよお前ら!」
『いくらテニスしてる姿が良くっても、ねぇ…?』
「なんだよその目!」
あたし達の会話を聞いて芥川が笑うけど、この男も向日と同じくデリカシー無し男だと思う。宍戸と忍足が温い目で二人を見てるのが何よりの証拠でしょ。少し意外だったのが、こう言ったふざけた会話に割りと乗り気な滝だ。岳人だから仕方ないね、なんて冗談言って笑ってるのは、授業のときの雰囲気とはまた違う。テニス部って仲良いんだなぁ。向日があたし達には深入りして欲しくなさそうだったから今までわからなかったけど、みんなイメージしてたよりも良いヤツ感がある。あたしと名前をこの場に混ぜてくれるなんて、思ってもみなかったし

「あっ、あの…!」
『ん?』
「さ、さっき少し挨拶させてもらいましたが、俺、鳳って言います!」
『あ、うん、覚えたよ。宍戸と組んでるんだよね』
「はいっ!で、こっちが日吉です!」
「…どうも」
満開の笑顔を見せる鳳くんと、その隣の日吉くん、あと樺地くんは名前が先生と間違った2年生。名前だけならとっくの前から知ってたけど、顔をはっきりと知ったのは今日が初めてだ
「えっと、向日さんから聞いたんですけど、先輩方は今まであんまりテニス部の試合を見たことがなかったって」
「そうそう。ほら、全校応援も3年生しか行けないし」
『だから今年はけっこう楽しみにしてたよ〜。こんなに早く観れるのは予想外だけど』
生徒数の多い氷帝高等部は全校応援には基本的に3年生しか出られない。だから名前の言うように今年は楽しみな年だった
「苗字先輩は跡部さんと同じクラスで、関口さんは宍戸さんと同じなんですよね?」
「一応、芥川も一緒だよ」
「一応って!?俺もちゃんとC組だよ鳳!」
「あっ!す、すいません!」
「鳳は亮のことばっかだからな!」
なんか向日の言い方がこわいけど、芥川なんて寝てるか食べてるかだから、教室間違えてても本人気が付かなさそう。だからそんなにアタフタ謝らなくても大丈夫だよ。日吉くんなんて溜め息吐いちゃってるし
『てか鳳くん達2年生なのに凄いよね。レギュラーだもんね。試合も凄かったし』
「思った思った。さすが何百人も居る中から選ばれてるわけだよね」
「いえ、そんな!俺なんてまだまだです。今日の試合も負けちゃいましたし…」
「でも向こうの3年相手にすごい粘ってたじゃん」
『あたしら詳しくわかんないけど、何回もエース決めててソレってすごいよね?見ててわかったよ』
「そうだぞ、やるだけやって負けた分はまた練習だ!な?長太郎」
「は、はい!ありがとうございます!」
しゅんとして恐縮気味だったのが宍戸の喝で元気良く返事する鳳くんはちょっと犬っぽい。宍戸って、部活中でも兄貴肌なんだ。そりゃ教室でも芥川の面倒見る羽目になるわけだ。そして鳳くんは日吉くんに「少し落ち着け」と言われて恥ずかしそうに笑ってまたお弁当を食べ始めた。日吉くんは対照的にクールだ。それでもこうして皆でお弁当食べるんだもん、可愛いわ

「そうそう、試合さ、鳳だけじゃなく皆すごかったろ?」
『そうすごかった!』
「ファンクラブ出来るのも納得だよねって話してたよ」
『もっとテニスのルールに詳しくなってから見たかった〜。そこがちょっともったいなかったな』
「調べてはいたけど観戦するとまた別だったよねぇ」
滝の言葉にあたし達は試合の白熱を思い出してちょっとテンションが上がる
『青学も強いから、本当に見応えあったわ!』
「ね!青学も強かったから余計に見入っちゃった」
『あとさ、フェンスの側にあれだけ人居たのにみんなマナー良く見てるのに少しビックリした』
「ね。ラリーの最中は静かにしてるんだもん、えらいよね」
「中等部のときは騒ぐこともあったけどね。高等部に上がったら落ち着いてきて、今はこんな感じだよ」
「へえ」
滝の満足そうな顔を「ファンはファンとして正しくあるべき!」と力説してた滝ファンに見せてあげたい。喜びすぎて卒倒しそう
『だからあたし達も小声で応援してたよね』
「跡部がんばれ跡部がんばれってずっと言ってたよね」
『そしてサックリ勝つっていうね』
「応援してくれてたのか?」
『とーぜん!』
少し驚いたふうの跡部様に名前は力強く返事した
『何度も言うけどほんとすごかったよ。跡部なんてなんかフォームがキレイ?って言うの?あんなに走り回ってるのにそう見えるってすごいなって思った。次はルールしっかり覚えて観るね』
「…ありがとな」
ありがとな、の一言がスマートと言うかクールなんだけど、わりと嬉しそうなのがこれまたちょっと意外だ。嫌味とかじゃなく、実際リアルに持て囃されまくりの跡部様だから、名前には失礼だけどもっと雑に受け流されててもなんの疑問も沸かなかったと思う。跡部様って優しいんだな。それもそうか、宍戸と同じく芥川の面倒見るくらいだもんな
「苗字先輩、ルールなら跡部さんに教わったらいいんじゃないですか?同じクラスなんですよね?」
黙々とお弁当を食べてた日吉くんがふいにそう言う。続けてあたしのほうを見た
「関口先輩だって、宍戸さんに聞いたら早いですよ」
『たしかに。ネットで調べて、わからなかったら跡部に聞こうかな。いい?』
「ああ。いつでも教えるぞ」
「じゃああたしもそうしよっかな。宍戸、そのときはよろしくね」
「お、おう」
日吉くんの提案をそれぞれお願いする中、なぜか鳳くんが笑顔全開で頷いていた































終わりなき友情



(やるねー日吉)(ありがとうございます)




















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