氷帝学園で過ごす

□6月、昼休みにて
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交流会も無事終わって、今までやったことなかったけどお疲れ様会やりたいねって話になった。運動部に入ってる人達が揃って放課後時間を作るのはかなり難しいから、昼休みにみんなでご飯食べようよってことで話がまとまる。メンバーは海外交流委員会と校外活動委員会と生徒会の三年で、集まれる人達だけ。強制ではない。一・二年を誘うか迷ったけど打ち上げってほどじゃないから同学年のみでやることにした。開催場所はカフェテリア。だけどあたしはお弁当持参です。いやね、悩んだけどやっぱり少ないお小遣いを無闇に使えないっていうか…。日曜日によっちと遊ぶ約束もしてるし

『あ、神田と宍戸もお弁当なんだ!よかった仲間いた〜』
集まれる人だけって言ったけど、いざ集まってみたら全員いた。これはきっと、我らが跡部様がまさかの参加表明したからに違いない。同じクラスのはっしー(女子)と、意外だねって話してた。いつも忙しそうな跡部だから、昼休みくらいゆっくりしたいんじゃないかと思ってたけど。…いや、昼休みも忙しそうにしてるっけ。跡部が居るからか、あちこちから視線を感じる。そうだね、跡部が団体でお昼ご飯食べるなんて滅多にないもんね。しかも部活の集まりでもないし。委員会じゃないけど、生徒会の人達が結局いちばん大変なのだ。だから生徒会の人達も誘ったら、跡部がいちばんに返事をくれた。なんてことをつらつら考えながら、数少ないお弁当組のあたしは皆がランチの注文に行く中、さっさとお弁当を広げる
「せっかくカフェテリアに来るんだし、ランチ食いたかったけど俺今月もう金欠でさ」
『あたしも〜。遊びに行く分よけたらランチしてる場合じゃなかった』
神田の発言にホッとする。この学園はお金を湯水のように使える住人ばかりじゃないのだ
『宍戸も基本お弁当なの?』
「えっ!?…あ、おう。わざわざカフェテリア来るのもめんどくせえしな」
運動部らしくボリュームのあるお弁当を広げる宍戸の発言に、なんとなく宍戸の性格を垣間見た

「…隣、いいか」
『どうぞ〜』
ランチプレート組が戻ってきたのはいいけど、皆して跡部の隣に座るのを恐縮して立ち往生しだした。ほかのテニス部達の隣は先に埋まってしまい、それを見た跡部が少しだけ眉間にシワを寄せたけどすぐにあたしに声をかけてきた。忍足たちが跡部の隣に座らないのも意外に思いつつ、了承する。そして跡部の反対隣にはA組の中村くんが座って事なきを得た。ちなみにあたしの反対隣ははっしーだ。跡部の周囲をA組が陣取る形になってしまったけど、平静で居られるA組メンバーが跡部にとっても良いだろう
「名前ちゃんっていつもお弁当だよね、羨ましい。自分で作るの?」
『まさか〜お母さんが作ってくれてるよ。でも全然不満は無いけどカフェテリアをもうちょっと利用したい気持ちもある』
「そうなの?ウチはお母さんが朝早く仕事行っちゃうし、あたし自身も朝早いからお弁当が良くてもムリなんだ〜」
『はっしー陸上部のエースだもんね』
朝練あるもんね。そっかお弁当が良いのかはっしー。氷帝でお弁当組が少ないのって、親が仕事で忙しいせいもあるのかも。これもセレブ校ならではなのかな。なんか急にお母さんへの感謝が溢れてくるわ
『そう言えばさ、中村くん料理うまいよね』
「俺、家じゃ自分で作ったりするからな。まあコックやメイドが心配するからたまにだけど」
『調理実習でフランベはじめたときは笑ったわ』
「あれすごかったよね!」
中村くんの後半の発言は無かったことにさせてもらう。あたしは何も聞いてない。中村くんは調理実習で、牛肉をソテーするときに華麗にフランベしてクラスの視線をかっ攫ったのだ。これまたセレブ校ゆえか、自分で料理するのに慣れてない人が多い中でのフランベはなかなか刺激が強かった。隣のグループに居たあたしは突然の火柱に笑い転げてしまった。中村くんのドヤ顔とのダブルコンボはやばい

『そうだ、跡部も手際良かったよね。料理するの?』
あたしと中村くんに挟まれもくもくと食べ進める跡部にも話を振ってみる。フランベこそしなかったけど、跡部の手際の良さは料理慣れを感じるものだった
「ひと通り教えられただけだ……まあ、嫌いではねえよ」
ははあ、なるほど。この人はどこまでも世の男達を蹴散らすな。跡部ほどの人間なら自分で料理しなくたっていくらでもアピールポイントはあるのに、その上料理もそつなくこなせるとは
『今の時代、男女関係無く炒めるだけでも出来てないとね。ウチはお父さんがまったく出来ないから、お母さんがよく言うよ“炒めるだけでも出来る人と結婚しなさい”って。それかせめて洗い物くらいやってくれる人』
「……そうか」
『お父さん、洗い物もヘタなんだ〜。すぐお皿欠けちゃうの』
「あ、それ俺も。だから洗い物はさせてもらえないんだよな」
「中村くんってがさつって言うか力強いって言うかだよね…。しょっちゅうシャー芯折ってるし」
『なにそれウケる。ゴリラなの』
席が中村くんの斜め後ろのはっしーは、授業中すごく気になるらしい。午後からはあたしも気にして見てみよう

食後、跡部から皆に労いだと言ってデザートが振る舞われた。カフェテリアのものじゃなく、跡部自身が用意したものだそうだ。思わず、といった具合で皆一斉にはしゃいでしまった。しかも見るからに高級なケーキで、誰かがブランド名を呟いたけど覚えられなかった。聞いたことございませんわ。
「皆、ご苦労だった。今まで一度もこういった場を設けたことが無かったが…来年度からは正式な形で残してやろうと思う。今回はささやかだが、これで納得してほしい」
『いやいやいや跡部、こっちとしてはほんと軽くお疲れ様しよ〜みたいなノリだったから。逆に催促したみたいになっちゃって…』
ほとんど全員…特にお疲れ様会をやりたいと騒いだ元凶(あたしも含む)である数人は、あたしのセリフに高速で同意していた。いや、芥川は恐縮もせず素直に喜んでいる。こいつ特な性格してやがる…
「あぁわかってる。だから今回は俺が勝手に用意したものだ。個人の気持ちとして気軽に受け取ってくれ」
さすが跡部、気遣いの鬼…鬼じゃないな、聖人か?悟った人かな?感動するレベルなんですけど
「やった〜うれC〜!跡部サンキュー!いただきまーす!」
ケーキを凝視しながら跡部へ感謝の言葉を述べる芥川を皮切りに、皆それぞれお礼を言ってケーキを食べることになった。ここで遠慮してたら跡部の気持ちを踏みにじるもんね。断じて、名前も覚えられない高級ケーキを食べたい一心の言い訳ではない
『ありがとう跡部。なんかもう美味しい以外の言葉が出てこないくらい美味しいよコレ』
頭の悪い感想にも菩薩のような微笑みを返してくれる跡部に、下々の人間ながらお返しがしたいなぁとこっそり思った





放課後、帰る前によっちと少し話してたら、跡部様って料理得意なんだって?芥川が言ってたよ流石だねって言ってきた。え?得意とまでは言ってなくない?まあいいけど。結婚したらほんと安泰だよねって頷き合う。ちなみに中村くんはマジでシャー芯折りまくってた。それちゃんと字書けてる?



















君の前ではなんだって出来る魔法使いでいたいよ



(お前らな…こっちをジロジロ見過ぎなんだよ)(ええやん、それくらい許してや。苗字さんと楽しく昼を過ごせたんやし)(上手く隣にも座れたしな)(きっと跡部の好感度上がりまくりだC!)(…チッ)





























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打ち合わせ無く跡部を夢主の隣に座るよう誘導するレギュラー達

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