氷帝学園で過ごす

□6月、放課後の廊下にて
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『跡部、跡部、コレさ、最近お世話になること続いたからそのお礼。先に言っとくけどホールにあるストアで買った学校指定のタオルだから、部活の時にでも使ってよ』
生徒会室の手前で運良くひとりで歩く跡部を発見したので急いで駆け寄ってカバンからラッピング(自前)された袋を渡した。驚いた表情の跡部を見ながら、渡してる最中にも関わらずやっぱりもっと高貴な物を選べば良かったかと反省する




お疲れ様会で跡部が個人的にと皆にケーキを振舞ってくれて、よく考えたらここ最近跡部のお世話になりっぱなしだなと思った。ここ最近って言うか三年になってからなんだけど。ドイツ語の授業でお世話になってるし、練習試合を見に行ってお弁当貰ったし、今回もあるし。ドイツ語の授業に関しては完全にあたし個人が迷惑かけている。なのでちょっとしたお返しをしようと思い立ったのだ。ちなみにこれは誰にも言ってない。よっちにでも話せば良いのかもしれないけど、じゃああたしもと気を遣わせてしまいそうで黙ってる。そこで困ったのは何をあげようかってことだ。前にポッキーをあげたけど、あんなの芥川にあげたみたいなものだし、あそこまで軽すぎるものは今回のお礼の気持ちとしては渡せない。だけど跡部に贈り物ってハードモード過ぎるんだよなぁ…。お菓子って言ったってこの前のケーキを考えたらあたしが渡せる範囲で跡部の口に入れて許されるお菓子って存在しないんですけど。そもそも、あのとき跡部は自分の分のケーキは用意してなかったから甘いものをそこまで食べないのかも。甘くない物って…?ウチの近くにある和菓子屋さんに置いてるお煎餅とか?美味しいけど…ちょっと違う気がする。でも食べ物以外ってなるとさらに厳しい。跡部の身の回りの物なんて、言うまでもなく素晴らしい物ばっかりだし

何が好きかなんてほとんど知らないからなぁ。そんな相手に贈り物って無謀かも。でも貰いっぱなしってちょっとね。跡部はそんな気無く行動してるんだろうけど、嬉しかった気持ちを返すのは大事なことでしょ。どうしようかなーって悩んだ結果、学校指定の物なら無難に使えるし、あっても邪魔にはならないのでは?と閃いた。エントランスホールに指定用品を扱うストアがあるので、そこで何を買うか物色する。靴下…は使えるけどさすがに微妙かな。手袋やマフラーは季節外れか。悩む中目に止まったのはタオルだ。部活動とは無縁だったからすぐに思いつかなったけど、コレが一番良さそう。何枚あっても無駄にならないはず。ラッピングまではさすがにやってもらえないので、家に持って帰って自分でする。値段がモロバレするけど今どきどんな物も検索したら値段はバレるし、センスの有り無しも関係無いから我ながら良い閃きだと思った




「…俺にか?」
差し出してるのに受け取ってくれない跡部は、プレゼントを見詰めながら訊ねてくる。コレ失敗したか?そう言えば、ファンクラブに入ってる人達はプレゼントを直接渡さず決められた送り先に送るって聞いたな。一人につきひとつ、手作りはNGだったっけ。よく知らないけどファンクラブ関係無く直接渡すのはダメだったのかも。でも去年の向日の誕生日には普通にあげたけどな。跡部はやっぱり別枠で考えるべきだったのか
『…ねえ、もしかして跡部には直接プレゼントするの良くなかった?その辺のルールちゃんと覚えてなくて…念の為まわりに人が居ないタイミング狙ったんだけど…』
そう、念の為だれにも見られない配慮はした。おかしな誤解を生まないように気をつけたつもりだったけど、直接がNGならそれ以前の問題だ。だけど跡部はハッとしたように手を伸ばしてプレゼントを受け取った
「いや、確かにファンクラブにそう言ったルールはあるがあくまでファンクラブのルールだ。」
『そっかそうだよね、あーよかった。安心した』
「それより…こんな、わざわざ…。それに礼ってなんだ」
『いやほら、ドイツ語のとき助けて貰ってるしそれ以外でもお弁当とかケーキとか。そのお礼』
「礼を貰うようなことひとつもしてねぇぞ」
『跡部ならそう言うと思った。でもあたしは嬉しかったからその気持ちってこと』
「……」
煮え切らない顔する跡部は本当に出来た人だ。その気無くやった行ないにお礼を貰うのが納得いかないのだろう。これが向日なら飛び跳ねて喜ぶに違いない。あたしが跡部の立場でもウキウキしてしまうだろう
『と言うかさ、お礼って言うかちょっとしたプレゼントだから。ほらクラス一緒になってからわりと話すようになったじゃん?仲良くなってきた友達にちょっとしたプレゼントってことで受け取ってくれないかな?』

あたしの言葉に跡部はパチリとその切れ長の瞳を瞬かせた
「…友達からのプレゼントか」
『そっ』
これで友達じゃねぇとか言われたら泣くけど跡部はまさかそんな酷いヤツじゃないし、それなりに仲良い自信もある。跡部はプレゼントをもう一度まじまじと見てから顔を上げた
「そうか、それならありがたく頂くぜ。ありがとうな」
目を細めてふんわり笑う跡部って初めて見たかもしれない。普段見る自信たっぷりな笑い顔はもちろんカッコイイけど、今の顔だとますます美しさに磨きがかかったかんじだ。不意打ちだったからちょっとドキドキしてしまう
『…うん、あー、どういたしまして…?』
「タオルって言ってたな」
『あ、そうそう。部活で使えるかなって』
「あぁ、さっそく使わせてもらう」
『ほんと?嬉しいな。でも本当ならもう少し違うものが良かったんだけど、跡部が何好きかとかまだよく知らないしさ』
「嫌いなものを挙げるほうが難しいな。プレゼントなら尚更だ」
『あーまあ、プレゼントってそれだけで嬉しいものだよね』
「あぁ」
『あたしもこの前よっちが可愛かったからって言ってお揃いのボールペンくれてさ、全然可愛くなかったけど嬉しいから使ってるし』
「…あの目玉が付いたやつか」
『そう!よっちグロ可愛い系が好きなの』
今回くれたのはノック部分に血走ったリアル目玉が付いてるボールペンで、よっちは絶賛してるがあたしは納得していない
『でも誕生日でもなんでもないのに、可愛かったからって言ってあたしの分まで買うんだよ、嬉しいよね』
よっちのそう言うところが好きで、だからあたしも同じように何か気に入ったりよっちに合いそうなちょっとした物を見つけた時は買ってプレゼントしてる
「そうだな、いつでも自分のことを考えてくれてる気になるなそれは」
『でしょ?』
跡部のもそうだよとはさすがに言えないけど、プレゼントとは仰々しいだけではないと伝わったみたいだ

『これから部活?』
「あぁ。苗字は帰るのか?」
『うん帰る〜』
「外まで一緒に行くか」
『だね』
外に出るまでの少しの間、とりとめのない話をする。別れ際に改めてお礼を言う跡部はやっぱり普段と違う表情で嬉しそうにしてくれた。だからあたしは、もっと跡部のことを知っていたら今以上に喜ぶものをあげられたのになぁとちょっとだけ残念に思うのだった



















友よ明日また笑おう



(え、跡部なしたんその氷帝タオル)(アーン?何か文句あるのか)(いや文句無いけど…指定タオルなんて持ってなかったやん。買うたん?)(……)




















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誰の力も借りずに少しだけ距離が縮まった日

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