氷帝学園で過ごす

□7月、部活にて
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※無理がある展開に発展しますがテニヌの魔法と言うことで対応してください
※滝視点




これまで使ったことの無い氷帝指定タオルを持っているところを忍足に目ざとく指摘された跡部は、渋々それが苗字からのプレゼントだと告白した。跡部本人は経緯はほとんど濁していたけど、岳人が「苗字ってそういうとこある」云々とペラペラ喋ったのでなんとなく把握した。得意げに話す岳人をすごく嫌そうな顔で見る跡部が印象的だった。それから跡部は指定タオルばかり使うようになったのだけど、それはまあ当然だろう。好きな子から貰ったものをいつでも使いたいと思うのはふつうのことだ。だけど、予想の範囲内というかなんというか…、跡部が使うようになって指定タオルが流行りだした。誰でも簡単に手に入れられるうえに価格も手頃だ。運動部以外も購入してるので品薄状態が続いてるらしい。さすが跡部、やるねー

「萩之介、いいか」
「うん、なんだい」
ミニゲームが始まって少し、俺の仕事もひと段落をむかえると跡部が声をかけてきた。ちょっと、と言われ部員達から距離を空けた場所まで移動する

「へえ、合同合宿」
「夏休みに入ってすぐ、3泊4日でやることが決まった」
首に指定タオルを引っ掛けた跡部が頷きながら説明する
「都合つけられるか?」
「問題ないよ」
「そうか」
言葉を区切って、跡部の視線が下がる。珍しいなと思った。跡部は人の目を見て話すし、決められた用向きを伝えるのにまごつくことはない
「なにか気になることでもあるの?」
俺の言葉を受けて伏せてた目を上げ、俺を見る。本当に律儀なやつだ
「今回の合同合宿は榊監督が所有してる別荘を使わせて頂くことになったからウチが招待校という形をとるんだが、そうなった場合、ウチから出すマネージャーが一人だけと言うのは負担が大きいと言う話になった」
榊監督は中等部と高等部、両テニス部を兼任してる。エスカレーター式の為にメンバーがほとんど変わらない分高等部に顔を出す機会は少ないが、合宿や公式試合には当然来て下さる。ちなみに音楽教員としても高等部の授業を受け持つことだってある。脱線してしまったが、今回、氷帝が招待校という事はウチが中心となって動かなければならないのだろう。そう考えると確かに、俺ひとりでは目が届かない
「なら、準レギュのほうから選ぶかい?」
レギュラーのマネージメントは俺だけだが、準レギュラー以降は複数のマネージャーが在籍してる。合宿期間だけ借り出すのは可能だろう。俺の言葉に、跡部はぴくりと眉間を動かした。うーん、やっぱりなにか変だ
「…それも考えたんだが、準レギュのマネージャーも多くはねぇからな」
「うん、それはそうだね」
「……」
口もとに手をあて眉間にシワを寄せる跡部はどうにも口ごもる
「跡部、何に悩んでるんだ?」
直球で訊ねた。他の部員に話す前に俺に言ってくるってことは、少なからず他のやつらには聞かれたくない話をしてるってことだ。今聞くべきなんだろう。じっと返事を待つと、跡部は目をつむり静かに息を吐いてから喋り出す
「…今から話すことを客観的に聞いて、偽りなく率直な言葉をくれ」
「わかった」

「苗字を、合宿時にお前のサポートにつかせるのはどうだろう」
「え」
「…全国大会が迫ってると言えど、準レギュの奴らの練習の質を下げたくはねぇ。だから…合宿期間だけテニス部の外から人を借りるのはどうかと考えた」
「…その候補が苗字ってこと?」
「…そうだ」
跡部の眉間のシワがさらに深くなった。…なるほどね、言い淀むのも納得だ
「うん、いいんじゃない?」
「…!」
意外だと言わんばかりに目を見開いて驚く跡部はちょっと笑える
「苗字なら出来ると思ったんだろ?跡部がそう判断したなら、俺はそれでいいよ」
「……どう考えても、公私混同だと思わねぇか」
「ああ、そこを悩んでたの?」
「…たしかに苗字なら問題無くやり遂げると判断した。だがそれは、俺が苗字に気があるから苗字をよく見て理解したうえでの話だ。そうでなけりゃ苗字の名前なんざ出してねぇ。他の人間を選ぶことも無く真っ先に苗字なら、と思ったんだ。あまりにも不公平で不純な決め方だろう」
「気があるってか好きなんじゃん」
「……」
いっそ人を殺しそうなくらい目付きの悪くなった跡部に、俺はちょっとどころか思いっきり声に出して笑った

「あっはは、跡部お前って本当に真面目過ぎる」
「…どこがだ。公私混同しようとしてんだぞ」
「別にいいんじゃない」
「アーン?」
「出来るって判断したんだろ?ならいいじゃん。だいたいさ、テニス部の外から誰か見つけるって、ランダムに誰でも良いって事にはならないだろ?ある程度どんなヤツか把握してなきゃ安心して任せられないんだから。そうなると俺らの友達とかから選ぶことに変わりはなかっただろうし、それが今回たまたま跡部の好きな子だったってだけなんじゃないの?」
「…そのたまたまに問題があるんじゃねえか」
「じゃあ苗字はやめて他探せば?だけど、跡部の中には居ないんだろ?レギュラーの皆に話して候補者を募ったって、結局みんな跡部がイチオシした人間が良いって言うよ。そんな手間かけるなら最初から跡部の決めた奴で良いんだよ。と言うか、なにを悩んでるんだ?苗字が合宿に参加して指揮が落ちたり練習に身が入らなくなるのか?」
「それは無え」
「だろ?だいたいさ、公私混同って言うけど跡部は合宿中に苗字とイチャイチャする気?」
「するわけねぇだろ」
「俺のサポート、問題ないんだろ?」
「あぁ。真面目だし、的確な対応が出来る人間だアイツは」
「そこまで言い切れるんなら決定だろ。俺も苗字ならやりやすそうだ」
「……」
無意識だろうが、首に掛けてるタオルを握りしめてる。こんなに所在無さげの跡部は滅多に見られないから俺はしげしげと見てしまう

俺から言わせればこんなの公私混同って言うほどじゃない。練習中はマネージャーの作業も多いから常に仕事してるし、選手とマネージャーだと立場も違うから例えば何か贔屓しようにも出来ることはほとんど無い。それは跡部だってわかってるだろうけど、どうしても自分が片思いしてる相手を選んでしまったことに後ろめたさがあるんだろう。あの跡部が苗字なら滞りなく仕事が出来るときっぱり言い切るなら、本当にそうなのだ。跡部の他者を計る審美眼は確かだ。本人だって自信を持っているのに、それでも揺らぐのだ。生真面目過ぎるって本当に可哀想
「ま、ここで話してたって苗字にはまだなんだよね?受けてくれるかもわからないし」
「まあな…」
「まずは苗字に頼んでみなよ。話はそれからでしょ」
「……、……そうだな…」
「らしくないねー、いつもの跡部様はどこに置いてきたんだよ」
いつもの不敵な笑みも見透かすような厳しい眼差しもなりを潜めて、口を引き結んで片眉を器用に上げ少し目を伏せているその表情は初めて見るもので、どんな感情を孕んでいるのかわからない。それなりに付き合いも長くなったけど知らないことってやっぱりあるよなぁ
「さて、そろそろ跡部の番が回ってくるんじゃない?コートに戻りな」
「…わかってる」
コートに目を向けこの話は終わりだと言外にほのめかす。あとは明日にでも跡部が苗字に話すだろう。もし断られちゃったら…そうはなってほしくないけど…うーん、その時は俺の友だちにでも声をかけようかな。ゲーム終了のブザーが鳴って、俺は跡部より先に足を動かした

「…、……か、…」
「え?」
跡部が小さく呟いたから、足を止めて振り返る。変わらず初めて見る表情のままでいる跡部が、視線を合わせずもう一度口を開く
「…公私混同、するつもりはねぇ…」
「わかってる。跡部はそう言う奴だろ」
「……ただ、やっぱり、学校の外でも一緒に居られるのは…嬉しいと思うじゃねえか…」
言い終える前に足早に歩き出した跡部は突っ立ったままの俺を置いてコートに入ってく。俺は跡部の背中を凝視していた
「……照れ顔だったんだ、へぇ〜」
これは全力で応援したくもなるよね






























花咲く足跡



(跡部さん今日調子良かったね)(下剋上だ…!!)






















ーーーーー
合同合宿に行かせようと思いました

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