氷帝学園で過ごす

□7月、期末考査直後にて
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※忍足侑士視点
※ニセ関西弁注意


今日が期末考査最終日、学校は午前で終わるが午後から部活が始まる。ようやく体を動かせるから楽しみだ。弁当を部室で食べるため教室を出たところでなんとなくA組を覗いてみたくなった。A組は特進なだけあって、テスト直後は生徒達で答え合わせやわからなかった部分を聞きあったりするから他のクラスより出てくるのが遅い
「(跡部と苗字さんが話してるとこ見れんかな)」
よこしまな期待をするのは仕方ない。なにせ小説のようで小説よりも面白い恋の行方をリアルタイムで見られるのだから。まあこんなん考えてるのは跡部にはぜっったいにバレんようにしなければならないが

「(おった…ふたりで話しとる…!)」
A組のドアの窓から中を覗いたら、タイミングの良いことに跡部と苗字さんがふたりで話していた。跡部がノートに何やら書いているのを苗字さんが見ている形だ
「(しかも距離近ない?)」
おそらくテストの話だと思うが、ノートに集中するふたりは顔が近い。ただ、ふたりとも真剣な顔でいるせいでまるで仕事の話をしてるように見えるのはいただけない。もう少し笑い合ってる姿を期待してたのに。希望としては跡部のデレてる顔が見たかった。普段からは想像つかない優しい顔で好きな人を見るって、恋のセオリーだと俺は思ってる
「(勉強してるならムリか。ふたりともマジメやし……お?おお!)」
ふたりが話し込んでる所にクラスの男子が声を掛けてきた。声に反応してふたり同時に顔を上げ、距離が近いことにようやく気づいた跡部が一瞬動揺したのを俺は見逃さなかった。苗字さんの顔を見て少し眉間にシワを寄せパッと逸らしたのは間違いなく照れ隠しだ
「(そうや、こういうのが見たかった!)」
俺はうっかりにやけてしまいそうな口もとを手で隠した。跡部達は三人で話し始め、先ほどまで何か書いていたノートを今度は三人で見始める。あーなるほど、アイツも跡部に教わりたかったのか。跡部は中学の時からあまり教室に居るイメージが無かったし、実際すぐ出てたはずだからこうやって教室でクラスメイトと交流する姿を見るのは不思議な感じだ。教室に居たって話し掛け難いだろうに、こうして声を掛けてくるヤツが居るのも感慨深い
「(あの跡部がクラスに馴染んでる…)」
それもこれも苗字さん効果なのだから恋ってすご過ぎない?

『…ん、あっ忍足!』
「(あ、バレた)」
苗字さんにバレ、こっちを見た跡部の顔がこわい。好きな子の前でそんな顔はよくない、なんて恐ろしくて言えないが。恐ろしいがバレてしまったので教室の中に入り跡部達のところへ行く
「なんやまだ勉強してるん?」
「…忍足」
白々しい、と表情で訴える跡部を前に心はしっかり閉ざしておく
『もしかして跡部待ち?』
「待ってるってほどでもないで、まだ教室に居たら一緒に部室行こうかーって思って覗いてみたんや」
『あっそうだよね、今日から部活始まるもんね。ごめん跡部、長々質問しすぎた』
「いや、気にするな。時間はまだある」
「せやで、今やっと学校終わったばっかりやん」
『そう?でもお昼食べるんでしょ?丁度キリ良いから、ここまでで大丈夫だよ。ねえ?』
苗字さんは一緒に居た男子に同意を求め、男子もそれに首を縦に振る。あれ、俺コレせっかくの楽しい時間を壊してしまったかな。マジか、すまん跡部…。そんなつもりじゃなかったんだが
『お昼ってお弁当?』
「ああ。カフェテリアはやってねえからな」
『あーそっかそっか。え、じゃあ跡部もお弁当?』
「そりゃあな」
『跡部のお弁当って想像出来ない…いっつもカフェテリアでしょ?』
「普段はそうだが場合によっては弁当だって持ってくる。想像出来ねえって言われてもな…あぁ、この前の練習試合の時に食った弁当みてぇなもんだ」
『え!?あのお弁当が跡部のお弁当なの!?』
「違いはあれど作るシェフは同じだからな」
『ええ〜…じゃあめちゃくちゃ豪華なお弁当ってことじゃん。向日に狙われないの?』
「向日?…そうだな、そう言えばジローと一緒に毎回うるせぇな」
『リアルに想像できるわ〜』
何コレ苗字さんさすがすぎる。帰り支度しながらも好きな子ととりとめのない話をする…青春か!というか跡部の楽しそうな顔に俺が胸キュンなんですけど?跡部って存在そのものが取っ付きにくいせいもあってか、知識も話題も豊富なのにこういう身の無いお喋りってあまりしたことがないはずだ。まあ俺の知るかぎり学校では、の話だけど
「(楽しそうな顔しちゃってまあ)」
言ったらキレられそうだから黙っとくが、やっぱり好きなこの前だとどんな人間でも変わるもんなんだなとしみじみ思う

「俺もA組がよかったわ…」
「…何だ急に」
すっごい嫌そうな顔された
「なんやめっちゃおもろいかな〜って」
「……」
からかってるわけじゃないけど、もう常にこの二人を見ていたい。楽しい。いやからかってるわけじゃない。跡部が人殺しみたいな顔してくるけど。からかってない
『A組楽しいよ〜。ね、跡部』
「…まあな」
「……」
俺は今なら仏になれる。本当に楽しそうに笑う苗字さんに吊られて跡部も自然と笑顔になるとか、俺この二人で小説書けそう。医者目指してる場合じゃないかもしれない
『じゃあ二人とも部活頑張って!また明日ね〜』
「ああ。気をつけて帰れよ」
「おおきに〜」
荷物をまとめた苗字さんが手を振って教室を出て行く。跡部は軽く手を上げ、俺はゆるく手を振った
「……ったく、面白がってんじゃねえよ」
「いやいやいや、おもろ…いけどな、そうじゃないて」
「何がそうじゃねえんだ」
苗字さんがいなくなって、跡部が怒りよりも呆れを表情に出して俺を睨んだ。溜め息まで吐いて、カバンを手に取り俺を置いて教室を出ようとするのを追い掛ける
「まあな、二人の様子が気になるな〜てA組まで来たんやけど」
「そらみろ」
「茶化す気はないで、けどな、ほら俺って恋愛小説好きやんか」
「知るか」
「二人見とると胸キュンしてたまらんのや」
「…忍足お前気持ち悪いぞ」
「苗字さんってほんまええ子やね」
「……そうだな」
跡部はもはや俺を見ることもなく足早に歩くが、気にすることなく問いかけた俺の言葉でほんの少し遅くなった。ほらな、こういうところが胸キュンするのだ

「合宿頑張らなな」
「その前に関東大会だろうが」
「わかっとるよ」
合宿のことを考えると関東大会も今まで以上に全力を尽くせそうだ























恋する風景



(そう言えば跡部は苗字さんの連絡先知っとるん?)(…この前、滝のも含めて交換した)(ほほう)(お前もうA組来るな)



























ーーーーー
たぶんレギュラーは滝以外ぽんこつ

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