氷帝学園で過ごす

□7月、関東大会後にて
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一昨日でテニスの関東大会が終わったらしい。…らしいっていうか終わりました。一昨日の話だからね、もう二日も経ってるわけ。結果は言い難いんだけど、跡部達は優勝を逃してしまった。全国大会には出場するけど優勝を目標にやって来た人達からしたら悔しい結果になってしまって、向日からは当日に《 優勝逃した!スゲー悔しい!》とLINEが来た。全校応援があったのでテニス部の試合に行った友達からも連絡が来てみんなそれぞれ悲しんでいた。あたしはテニス部の応援に行っていない。同じ日に女子バスケの全校応援もあって、どちらか選べるようになっていたんだけど去年同じクラスだった女子バスケ部キャプテンの酒井ちゃんが観に来てほしいと言うから、よっちと一緒にそっちに行った。テニス部合宿に参加するしテニス部の応援に行きたい気持ちもあったけど、弱小女バスが全国大会への切符を手に入れるかもしれない大一番を取った。酒井ちゃんが頑張ってたのを去年同じクラスで知ってるから。もちろん向日や跡部だって頑張ってるのは当然だけど体はひとつしかないからこればっかりは仕方ない。だけど、酒井ちゃん達もギリギリのところで負けてしまった。酒井ちゃんは歯を食いしばって泣くのを堪え、泣いているチームメイトを励ましていてそれがあたし達の涙を誘ってやばかった

けどあたしは運動部に入ったことがなく、ずーっと帰宅部だったせいもあってかこんな時になんて声をかけたらいいのかわからないのだ。どうしても、何を言っても薄っぺらく感じてしまって言葉に詰まるしその気はなくても相手を傷つけることを言ってしまわないかとドキドキして、情けなさで自分にガッカリする。悩んだ結果 向日には、観に行った友達が惜しかったと言ってたこと、それでも全国大会があること、合宿で精一杯サポートすることなんかをツラツラ綴り、だから頑張ろう的な感じで締めた文章を送った。向日へのLINEでこんなに悩んだのは初めてだ…。今考えれば1年2年の時は異常なくらい向日とはテニス部の話題を避けていたから勝っても負けても何も言ったこと無かった。その分まで今悩まされてる感はある。よっちにも向日から連絡が行って、彼女もまた今更何て言おうと悩んでいた。あれ?向日に関してはこんなに悩まなくても良かったかも?なにせ向日だし

酒井ちゃんには試合当日に顔を合わせることは出来なかったからその日のうちにあたしから先にLINEした。すごく良い試合だったことと3年間の労いを短くまとめて送ったら、その日の夜にバスケ部みんなが写った写メとお礼の返事が来た。みんな目を赤くしてたけど笑顔で、仲良しなのが伝わってきてなんかちょっと泣きそうになった。部活って楽しそうだなって羨ましくもなる。ほっこりすると同時に3年生にとって部活動はどの部でも大きな意味を持っていて、気安くテニス部に足を突っ込んだことに不安が募る。別にあたしがちょっとお手伝いしたからって何がどうなるわけでもないだろうけど、多少なりとも関わるからには絶対悪影響を与えてはいけない。大丈夫だと思う、けど、なんか急に自信なくなってきた…。しかも関東大会終わってからまだ跡部とまともに話してないし。うーん、こんなんじゃよくない

『跡部』
「…どうした?」
帰りのSHRが終わってすぐ跡部のもとへ行く
『あのさ、合宿…』
……じゃないって〜!まず先に言うことがあるでしょうよ!あたしのバカ!
「ああ、まだ榊監督と煮詰めてる最中だからもう少し待ってくれ。はっきりしたら滝も交えて説明する」
『あ、うん…』
こんな誤魔化しで尋ねたことにさえ跡部は丁寧に答えてくれる。いやまあ誤魔化しだとは気づいてないだろうけど。それにしても、関東大会が終わったばかりで思うところがあるはずなのに跡部には落ち着く暇も無いんだなぁと話をしていて思った。関東大会前から合宿に向けての準備はずっとしてるみたいだし、全国大会の事も考えないといけない。跡部と話してると自分の悩みが小さく思える…実際小さいんだけど
『はあぁあぁ〜…!』
「な、なんだ…?溜め息かそれは?」
わざとに大きな声を出した溜め息に跡部がぎょっとした。跡部をぎょっとさせるとか、なかなかじゃない?チラッとそんなことが頭を過ぎりつつも決意を固めて跡部と向き合う

『跡部、あのさ、あたし部活動ってやってこなかったから何をいわれたらイヤかとかあんまりわからなくて…ムカついたらすぐ言って欲しいんだ、謝るから…』
「…?なにを…」
『…関東大会…』
「…!」
『…きっと跡部達には悔しい結果だったんだろうけど、でも、おめでとう。全国大会が…じゃないや、えーと、なんて言ったらいいかな…その、…あたし全校応援で女バス観に行ってさ、ギリギリで負けちゃったんだよね…』
「……」
『それで思ったんだけど…関東大会がどんな結果だったとしてもさ、これからもまだ皆でテニス出来るってすごく幸せなことだと思う。だから…あー…ほら、なんだ、今度の合宿、あたしがんばるよ…って話!』
話してて訳が分からなくなってしまって強引に締めた。跡部に声を掛ける直前まで不安でしたとはさすがに言えない…と言うか跡部と話してたらそんな事で悩んでる場合じゃないと吹っ切れたっぽい。跡部は会話するだけで人の心を浄化させることが出来るのか?
「苗字」
『あ、はい』
謎の話を聞かされていた跡部があたしを呼んで、つい敬語になる。跡部は怒るでも呆れるでもなく、至って真剣な表情であたしを見ていた
「苗字は真面目だ」
『えっそれは跡部でしょ』
「俺も…まあ言われるが…苗字もだろ」
『それは…どうだろう…?』
「そうだ。俺は苗字のそういうところが……、…、…好感持てる…」
『そうなの…?あたし、真面目だったんだ…?』
「…あぁ」
跡部が真面目なのはわかりきってきるけど、あたしも真面目か。そうか。ここで違うと言っても跡部のことだから否定するだろうし素直に受け取っておこう。あたしは真面目な人間だよ
「…それもそうだが、ありがとうな」
『ん?なにが?』
「アイツらとまだテニスが出来るのは当然だと思ってたがそうじゃねえって気づかされた。確かに俺達は幸せだ」
真剣な表情のままでそう言う跡部はきっと女バスや、関東大会で幕を閉じた他の部活のことを考えているんだろう。ただでさえ頭がいい上に生徒会長をやってる跡部なら全部活を把握してるに違いない。あたしはやっぱり酒井ちゃんのことを一番に思い出すけど、悔しい思いをした人はいっぱいいるに決まってる

「一日一日の練習も大事にしねえとな」
『跡部ならやってるでしょ』
「いや、今日は部活を始める前に部員全員に喝を入れることにする」
『おう…』
ぎらっとヤル気に満ちた眼をした跡部を前に、なんとなく向日達に謝りたくなった
『じゃ、じゃあ、今日も頑張ってね』
「あぁ。苗字は帰るんだろ?気をつけろよ」
『うんありがとう、じゃあまた明日ね』
これ以上時間を取るのは申し訳ないからサッと話を終わらせて手を振って教室を出た。たった二日だけどネガティブに悩んでいた思考は今やすっかり晴れて、少し前までのわくわくが戻ってきた。夏休みに入る前に酒井ちゃん誘って放課後遊びに行きたいな。部活やっててなかなか出来ないでいたことを一緒にやりたい。そしてお疲れさまってちゃんと言おう






























何処にでも転がっている美しい風景



(ぜェ…ぜェ…あ、跡部のやつ今日めちゃくちゃ厳しくね…?)(…ぜェ…、何があったんや…)
































ーーーーー
そういうところが好きだよって言えない

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