氷帝学園で過ごす

□7月、合同合宿にて@
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『滝、出来上がったドリンクひとまずココにまとめて置くね』
「うん了解」
『あとさっきの外周のタイム書いたヤツは榊先生に渡したから』
「ありがとう」
『じゃあスコアボード取ってくる』

滝がもう一度ありがとうと言う声をバックに倉庫へ向かった。走るほどでもないけどなんとなく早歩きになる。まだ午前中なのにけっこう疲れてきたと思っちゃうのは、明らかに普段帰宅部の弊害だろうな…

合宿初日、榊先生所有の別荘でやることもあり開催校のような形になってる氷帝は他校より一足先に現地に着いた。そんな、いくらテニス部の限られた生徒だけとはいえ何校もを集めて宿泊させるってどんな別荘なのかとわくわくしていたのだけど、想像以上の豪華さでちょっと引いた。個人の所有する別荘でどうして何十部屋も必要だったの?どうして自分のものにしようと思ったの?音楽教師なのにテニスコートが三面もあるのはなぜ?しかも榊先生自身、此処へ来るのは久しぶりだと言う。きっとアッチコッチに別荘があるせいだ。絶対そう。すごすぎない?って向日に言ったら、榊監督と跡部は別格だと返された。あーなるほど。跡部はわかるわ。なんならもっと凄い別荘を持ってそうだし。あと滝もなんかわかる。ついでに鳳くんも、本人の事はよく知らないけど良いとこのお坊っちゃんって雰囲気がある。なんか氷帝ってすごいねって改めて向日と噛み締めたわ

まあそんな事はどうでもよくて、荷物を置いてすぐにあたしは滝と一緒に忙しく駆け回ることになった。ざっくりと何処に何があるか確認するだけでもそれなりに時間が掛かり、そうこうしてるうちに他校の人達が来たからそれぞれに部屋の場所・集合場所を伝え、合宿開始の挨拶があり、その後は休むことなく練習が始まった。そんな感じでマネージャー勢は練習内容に合わせてアレコレ動き続けている
「苗字さん!手伝います!」
倉庫でスコアボードを取り出そうとしているあたしに声をかけてきたのはあたしと同じくこの合宿限定でマネージャーを務める青学の二人、桜乃ちゃんと朋ちゃんだ。桜乃ちゃんが、青学中等部の監督さんの孫でその繋がりで手伝うとかなんとか。桜乃ちゃんは中学の時テニス部で、朋ちゃんもよく観戦してたらしく、あたしより遥かにテニスに詳しくて頭が下がる
『ありがとう、じゃあそっちのヤツ持ってってくれる?』
「はい!」
「はい!」
しかも良い子達なんだぜ。ニコニコして手伝ってくれる二人と一緒にテニスコートに戻ると、滝が榊先生や他の監督達と何やら話していた
「あっ苗字達、ちょうど良かった。予定より早いんだけど、キリが良いから昼休憩に入ろうかって話してたんだ」
『あ、そうなの?了解だよ、食事は全部用意してもらえるんだもんね?』
「ああ、俺たちがやる事は無いよ。…では監督、この練習が終わったら集合お願いします」
「あぁ」
頷く榊先生はとっても凛々しい。ほかの学校の監督達は昼ごはんが楽しみだと会話してる。その気持ちわかります
「苗字、慣れないことばかりで疲れたろう」
呑気に盗み聞きしてたら榊先生に話し掛けられた
『えっ!?…あ、いえ、仕事内容よりも自分の体力の無さが問題ですね』
ダルさが残る腕を掴みながら応えたら、榊先生は真顔で頷いた
「なるほど。休憩に入る前にストレッチを行うから苗字も参加するといい」
『えっ』
「体をほぐせば後に響きにくい」
『そ、そうですね…』
え?あたしだけ?部員に混じってストレッチをやれと?照れるだろそんなの。榊先生からの有難いお言葉に狼狽えるが、先生は至って真面目だ。え、ちょっと滝、助けて
「…俺もやるよ」
「あ、わ、私達も!ね!朋ちゃん!」
「う、うん!やります!」
『…ありがとう』
視線だけで滝に訴えたら桜乃ちゃんと朋ちゃんも乗ってくれた。良い子達過ぎない?この瞬間 確実にマネージャー勢の絆が深まった。ちなみに、榊先生を“ 先生”と呼ぶのはただのクセである。監督と呼ぼうとしてもどうしても『榊せん…監督』となってしまい、四度目に榊先生直々にそのままでよいとのお言葉を頂いた。監督って言葉に縁がない人生だった上に、よっちがいつも榊先生と呼んでるのを聞いてたので先生で馴染んでたし

「集合!!」
ブザーの音がして榊先生が声を上げた。部員達は素早くこちらへ集まってくる
「少し早いがキリが良いので今から昼休憩を取る事にした。ストレッチをしたら午前の練習は終了とする」
ほとんど皆、昼休憩に反応して顔が明るくなる。ひたすら体動かしてるもん当然だよね。このままストレッチを始めるらしいのであたし達マネージャー勢も四人、部員達の端っこに集まる
『いだだだ!滝痛い!』
「苗字、体硬すぎ」
前屈で背中を押してもらったら絶望するほど体が硬かった。隣では朋ちゃんがぴったり体を折り曲げていてツラい
『ぃいったあ〜…!…ちょ…コレ以上押されたら滝のこと殴っちゃいそう…』
「いいから深呼吸して」
『滝は鬼だったのああぁぁ〜…!』
訴えは全て却下され、滝の言いなりとなったあたしは言われるがまま従うしかなかった
「苗字さん…大丈夫ですか…?」
『…大丈夫じゃない…皆なんでそんな柔らかいの…』
心配してくれる桜乃ちゃんもぴったり体を折り曲げている。部員達は当たり前にこなしてる。スポーツマンすごい。向日と芥川があたしを見てゲラゲラ笑うのを跡部が叱ってくれている。いいぞ跡部、もっと叱ってくれ
「苗字顔下げる」
『ハイ』
「コレ午後もやることにしたから」
『え…!?』
鬼と化した滝は容赦なくあたしを攻撃したいようだ。え、まさか合宿中ずっとやらす気かな…?

この合宿を最後までヤリ切る自信が無くなってきた























飛べないあの子のじょうずな言い訳



(滝聞いて、あたし実は体が弱かったような気がしてきたイタイイタイ!!)




























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滝はスパルタ

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