薄桜鬼

□大切なモノ
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注)土千の子ネタです!





お膳にお椀を伏せて置き

ご飯も煮物も後は装うだけ。

日が沈みかけ青かった空は

いつの間にか赤い色へと変わっていた。

そろそろか、と

何となく玄関口に意識をやると。

千鶴と同じく気になる様子の

小さな影を見つめ

微笑ましくてくすりと笑った。







「・・・おそいね〜」



「ふふ・・・もうすぐよ、きっと」



「まだかな〜・・・」



「そうね・・・」







二人並んで待っているのは

この家の主であり

千鶴の最愛の人。

この少女にとっても唯一無二の人。

すると、表から足音が聞こえ

二人揃って満面の笑みで顔を上げた。

ガタっと引き戸が開き

入って来たのはまさに待ち人だった。







「おかえりなさい!とうさま!!」



「ただいま、桜、千鶴」



「歳三さん、お帰りなさい」







日頃のような厳しさ、冷酷さは

今はきれいに隠れ

代わりに包み込むような

優しさを出している。

新選組副長、土方の別宅。

そこの主である土方の帰りを

待っていたのは

妻である千鶴と二人の娘の桜。

桜は今年で3つになる。

千鶴のような愛らしさに

土方のような聡明な部分が

見え隠れし二人の子供だと

よく分かる可愛らしい子だ。



初めは婚姻を結んだ後も

屯所で暮らすはずだった。

だが・・・千鶴に二人の子が授かり

もっと良い環境をと

近藤の協力の元この別宅が用意された。

あれからもう三年になるのだ。

月日が流れるのは早い。







「おっ、もう出来てんのか?」



「はい。あとは装うだけですので

すぐにご用意しますね」



「ああ」



「かあさま、さくらもごよういします」



「ふふ、ありがとう」







土方は二人の愛しい存在を見つめ

まさか自分がこんな幸せを

手にするなど想像もしなかった、と。

改めてそう感じていた。

新選組の、近藤の為にこの身を捧げ

その為にこの命が散ったとして

それでも構わないと思っていた。

いや・・・今もその覚悟は変わらない。

それでも土方は今、手にしてしまった。

この手離せない、己が生きたい理由を。

守りたいと強く思うものを・・・。

ならば・・・己はどうすべきなのか。

答えは最初から己の中で決まっている。







「とうさま、ごよういできました!」



「ああ、ありがとな、桜」



「はい!」







土方が桜の頭を撫でてやると

とても嬉しそうに笑った。

その笑顔は千鶴とやはり重なる。

なんとなく、千鶴の幼い頃は

この子のようだったのかと

そう想いを巡らせると

自然と優しい笑みが零れていた。



いつもの席へと座ると

土方の膝の上に

ちょんと桜が座った。

にこにこと座るその様は

本当に愛らしいのだが・・・。

千鶴は困ったように声をかけた。







「桜、またなの?」



「・・・だめ、ですか?」



「父様はお仕事でお疲れなのよ?」



「別に構いやしねえよ。

桜、ここで食うか?」



「ここがいいです」



「だそうだ」



「・・・そう、ですか」



「くくっ、そう拗ねんな」



「す、拗ねてません!」



「じゃあ、妬いてんのか?」



「っ、うぅ・・・」



「なんだ、図星か・・・

ふっ、どっちに妬いてんだか」







頬を膨らませながら拗ねるその様子は

本当に母親と言えるのか・・・

というような程、幼さがある。

土方は笑いながらも

そんな妻が可愛くて仕方がない。

すると、目の前の妻から

「どっちもです」

という小さな呟きが零された。

次には妻までもが

自分の隣りにぴたりとくっついて

これじゃあ食事にならない、と。

土方は己の大切な存在を

抱きしめてやりながら

その喜びに浸っていた。








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