Black Jack

□04
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ふと目が覚めると

窓からは眩しい光が差し込んでいる。

光の射し方からして

まだ朝間もないのだろう。

呆ける頭を支えながら

ゆっくりと上体を起こして

気がつけば、隣りには空間がある。



昨夜抱きしめて眠りについた

あの柔らかく甘やかな彼女の姿が

そこにはなくて。

あれは自分の欲望が見せた夢かと

そう思ったのだが・・・。

ぽっかりと空いたその空間の

シーツを手繰り寄せれば

ふわりと彼女の甘い香りが微かに香り

やはり夢などではなかったのだと。

その事実に喜んでいる己を

しっかりと理解して

何とも言い難い

複雑な感情に見舞われた。

大きく盛大な溜息を一つ吐いた所で

部屋の扉が豪快な音をたてて開かれた。







「先生〜!!

起きるのよさ・・・って

もう、起きてゆ・・・」



「はぁ・・・ピノコ

朝くらい静かにしたらどうだ」



「らってぇ、ちぇっかく

知世が朝ご飯作ってくれたのに」



「!知世が?」







つい先ほどまで考えていた

彼女の名を出され

不覚にも動揺しそうになった。

急かすピノコも変な鼻歌を歌いながら

部屋を出て行ったのを確認して

再度溜息を一つ。







「思春期の子供じゃあるまいし

・・・はぁ・・・馬鹿馬鹿しい」







混ざりに混ざった思考を振り捨てて

動きが鈍いながらに

身支度を整え部屋を後にした。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





『あ・・・あの・・・先生?』



「何だ?」



『あの、ね・・・無理にこの体の傷

治さなくても大丈夫です、よ?』







朝食の後、知世を呼びつけ

再度体の傷を確認する。

確かに酷い傷で

放っておけば確実に痕が残るが

治せないものではない。

私が治療するのだから尚更だ。







「無理なんて一言も言っていないだろ?

私が治療するんだ。

必ず消してやるから安心しなさい」



『・・・消える、んですか?』



「ああ。綺麗にな」



『・・・』







体の傷は私の手で

綺麗に消すことができる。

だが、心の傷は

そう易々と消せるとは思っていない。

彼女のこれからの生活と

彼女のこれからの環境とで

大きく違ってくる。

無理だとは思うが

今までをリセットして

新しい人生を歩むことができたならと

そう願ってやまない。







『先生』



「・・・何だ?」



『何か、変わるわけじゃないのは

ちゃんと分かってます。

傷が消えても、一番深い部分の傷は

きっと消えないから・・・』



「・・・・・・」



『でも!・・・私のこの傷を

消して下さい。

お金は頑張って働いて払います。

だから・・・私の傷を消して

新しい私にしてほしいんです』



「・・・お前さんが言ったように

傷が消えたからといって

新しい自分になれるわけじゃない。

だが・・・きっかけにはなるだろう。

それと、お前さんはもう私のものだ。

金を払う必要はない。

私のものを私が勝手に

治すだけなんだからな」







私の言葉に瞬時に表情を明るくした

彼女の変わりようが可笑しくて。

ころころと表情を変えて

こんなにもいろんな感情を表に出せる

そんな娘だったとは。

もっと、もっと隠しているだろう

彼女の顔を暴いてみたい。

できることなら

私にだけ見せて欲しい。

そんな浅ましい望みを抱きながら

満面の笑顔を向ける知世の頭を

優しく撫でてやった。










to be continued・・・



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