薄桜鬼

□愛しい気持ち
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「・・・あれ?」







いつものように土方に

お茶を淹れてきた千鶴は

副長室の前で声をかけた。

しかし、いくら待ってみても

返事がなく

もう一度声をかけてから

襖を開き中に入った。

そこにはいつものように

書類が山積みとなった文机の前に

土方がいるのだが・・・

頬杖をつきながら

寝息をたてる姿があった。







「・・・土方、さん?

・・・・・・寝ていらっしゃる、の

ですか・・・?」







普段なかなか休もうとしない土方の

珍しい姿を目にしてしまった千鶴は

思わず動きを止めてしまった。

まじまじとその姿を見つめていたが

すぐに我に返った彼女は

文机の空いている場所に

持ってきたお茶を静かに置いた。



夜でさえ遅くに眠りにつき

就寝中も深い眠りにつかないので

少しの物音や気配でさえ

察してしまう。

その為、土方はほとんど

休むことがない。

そんな土方が千鶴の気配にも

気付かないのだ。





(起こさないようにしないと

・・・でも・・・)





千鶴は土方の傍らに座り

その寝顔を見つめた。

滅多に見られない土方の寝顔。

目に焼き付けるかのように

見つめ続け千鶴は想いを馳せる。

多分すぐに

目を覚ましてしまうだろうから

この些細な時間だけでも良い。

ゆっくりと休んで欲しい。

何度言っても

休んではくれないのだから。

せめて、今この時だけは・・・。







「・・・ん・・・」



「あっ・・・土方さん?

目が覚めま・・・えっ!?」







小さな声を漏らした土方が

目を覚ましたのだと思い

千鶴は覗きこむように

土方を見上げた。

すると、急に千鶴の方へと

倒れこんできた。

思わず体を引きそうになったが

それは叶わなかった。

土方が千鶴の膝の上に頭をのせ

そのまま今寝息をたてているからだ。







「あ、あの・・・

ひじ、かた・・・さん・・・?」



「・・・・・・」



「・・・寝てる」







膝枕の状態で戸惑っていた千鶴だが

変に動いてしまうと

土方が起きてしまう。

仕方なくそのまま

様子をみることにした。





(いつもの土方さんからは

考えられないなぁ・・・

ふふ・・・それにしても

よく寝てらっしゃいますね

普段休まないからですよ?)





千鶴が心の中でそう語りかけると

土方は少し身動ぎ

顔を千鶴へと向けた。

その拍子に前髪が目にかかる。

煩わしそうに

眉間に皺を寄せる様を見て

千鶴はそっと髪を払いのけた。

眉間の皺は消えたが

未だ目を覚ます気配はない。







「ホントに・・・大丈夫ですか?

誰か訪ねて来られても知りませんよ」







そう柔らかく呟きながら

優しく土方の綺麗な

黒髪を梳いていく。

滑らかで心地の良いその髪は

女である自身が

すごく羨む程に美しい。







「・・・他の誰かが来たら

すぐに分かる」



「ぇえっ!?ひ、土方さん・・・

す、すみません!!

起こしてしまい・・・」



「別に・・・

今起きたわけじゃねぇよ」



「えっ・・・?」



「お前に膝枕された時から

気がついてた」



「・・・だったら、もっと早くに

声をかけて下さい!!」







自分の呟きや行動を

知られていたと思うと

千鶴は見たことがないくらいに

頬を真っ赤に染めていた。

そして、土方の髪に

未だ触れていることに気づき

急いで手を離そうとしたが

その手を大きな温もりに

掴まれてしまった。







「・・・あ、あの・・・」



「・・・後、少し」



「えっ?」



「後、少しだけ休む。

その間・・・

膝、貸してくれねぇか?」







突然の申し出に驚くも

普段なら絶対にない

土方からの甘えるような頼み事。

千鶴は頬を染めたまま頬笑んだ。







「土方さんに・・・

ゆっくり休んで頂けるのなら

喜んで」



「お前が傍にいると安らぐ

・・・それと・・・」



「はい」



「さっきの“アレ”・・・

もう一度、してくれねぇか?」



「・・・“アレ”?」



「・・・ああ」







土方が何を言っているのか

分からなかったが

“アレ”が示すものが

ふと頭に浮かんだ。

そして、少し戸惑いながら・・・

千鶴は先程と同じように

ゆっくりと土方の髪を梳いた。

すると、安心したかのように

土方はゆっくりと目を閉じ

再び穏やかな寝息をたて始めた。



いつも他の隊士達を

怒鳴り目を光らせ

必要以上に

何でも背負いこんでしまう人。

鬼の副長なんて呼ばれているけれど

他の誰よりも

新選組のことを考えている人。

その人が普段見せない甘えと

無防備な姿を

自分に見せてくれている。



膝の上の土方をそっと見下ろし

いつもと違う位置から見つめる姿が

とても愛おしく感じた。







「・・・おやすみなさい

土方さん」







髪を梳いていた手を止めて

躊躇いがちに頬に触れてみた。

指先から伝わる温もりに千鶴は

土方との距離が近づいたことに

ひどく心が締め付けられるような

淡い想いを抱いた。











〜終〜


 

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