薄桜鬼

□きっと、あつさのせい。
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「・・・あのぉ・・・」



「何だ?」



「どうか、されました?」



「何がだ?」







夏真っ盛りの暑い暑いある日。

いつものように土方さんに

お茶を淹れてお持ちすると



「ちょっとこっちに来い」



急にご自分の隣を指さして

私にもっと傍に来るように言われた。

不思議に思いながらも

言われた通り近寄ると

突然視界が反転した。

一瞬のことで何が起きたのか

すぐには理解できなかった。

気がつくと私は・・・

何故か土方さんの膝の上で

横向きに抱えられていた。







「あの・・・

私、そろそろ失礼・・・」



「駄目だ」



「でも・・・お仕事の邪魔に・・・」



「なっていない」



「・・・あ、あの!

今日はとても暑いので

こんなにくっついていたら・・・」



「気にならねえ」







先程からずっとこの調子。

何を言っても

却下されるか否定される。

そして、言葉を交わすごとに

抱きしめられる腕に少しずつ力が

加えられていることが分かる。

どうしても離してくれない土方さんに

私は恥ずかしながらに

思い切って口を開いた。







「・・・わ・・・わ、私

これでも結構重たいんです!

だから・・・」



「・・・そうだな」



「は・・・へぇっ!?」







思い切り肯定されてしまい

戸惑いと情けなさやら

いろんな感情が混じり合ったものが

ぐるぐると渦巻く。

間抜けな声を出し

自分から言っておきながら

土方さんにもそう思われていたことに

目が潤みだしてしまった。







「はぁ・・・馬鹿か、お前は」



「え・・・?」



「本気でそんなことを

思ってるはずねえだろう」



「そ・・・そんな

気休めなんていりません!」



「ったく・・・

お前、コレで重いなんてな・・・

もっと食った方がいいくらいだ」







そう言うと土方さんは筆を置き

私を抱え直すと抱きこむようにして

きつく抱きしめた。

腕の力強さと押しつけられた胸から

響く心地よい鼓動

焦がれる程の愛しい香り。

自然と体の力が抜けて行く。







「変なこと言ってねえで

黙ってココに収まっとけ」



「うぅ・・・

どうして、急に・・・?」



「ああ?・・・さあな」







そう囁くように呟いた

土方さんの表情は

とても穏やかで

思わず見惚れてしまった。







「まあ、今日は

えれえ暑さなんだろ?

だったら・・・」







ゆっくりと近づいてくる

土方さんの瞳を見つめ・・・

自分でも驚く程に自然と瞳を閉じた。

後から聞こえる甘く響く低音が

私の耳をも虜にする。







「暑さのせいってことでいいだろ?」











〜終〜


 

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