薄桜鬼

□大好きです!
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沖「ねえ、千鶴ちゃん」



「はい?」



沖「千鶴ちゃん

土方さんのどこが良いの?」







夕餉も終わり

後片付けも一段落した千鶴。

そんな千鶴に沖田が突然聞いてきた。

その問いを聞いた他の幹部達も

ワラワラと集まりだした。

沖田を咎める・・・というより

興味津々という表情で。







原「そいつは俺も

一度聞いてみてえな」



藤「・・・俺も。

なあ、千鶴・・・

土方さんのどこが良いんだ?」



「えぇ!?

な・・・な、何ですか?

急に・・・」



沖「泣く子も黙る新選組鬼の副長。

隊士や幹部に対しても

あの鬼の形相で

ことあるごとに、切腹だぁ!って

どこまでも追っかけて来る・・・

そんな恐〜い人、だよ?」



藤「なんか、最後の方は

総司だけのような気も・・・

まぁ、とにかくさ。

俺らでさえ

土方さんに怒られねぇようにって

気を使うくらいなんだぜ?」



原「お前みたいな普通の女が

俺達と同じように

あの人に怒鳴られて精神的に

まいってんじゃねぇか、って

思ってたんだが・・・」



藤「まさか、さぁ・・・

あんなにべったり、さぁ・・・」







若干拗ね気味な藤堂が

ぶつぶつといじけ出した。

何故、3人がこんなことを千鶴に

聞いてきたのかというと・・・。



なりゆき上、仕方なく

鬼の副長の小姓となった千鶴。

最初こそ土方の前で

ビクビクとしている千鶴を

何度も見かけた。

しかし・・・今ではどうだろうか。

土方に呼ばれる度に

「はい!」と明るい返事と

綻ぶような笑顔で

土方のもとへ駆けて行く。

土方が所用で出かけるときは

必ずお供について行く。

「鬼」の居ぬ間に

ゆっくりすることを

普通なら考えそうなもの。

しかし、千鶴は自分から

その「鬼」について行く。

しかもものすごく嬉しそうに・・・。



これは一体どうしたことか?

幹部の間でも皆不思議に思っていた。

千鶴が土方に怒鳴られている場面は

今でも見受けられる。

雑用が減ったとも思えない。

いや、むしろ自分から進んで

雑用を引き受けているようだ。

では、何故??







沖「・・・もしかして

土方さんに強請られてる?」



「な!?

そ、そんなわけないですっ!!」



原「じゃあ、あれか?

出かけた時に甘味でも

食わせてもらってんのか?」



「え?それは、たまに・・・

土方さんが近くに美味しいお店を

ご存じだとおっしゃって

連れて行ってくださるんです!」







そう言った千鶴の

何とも嬉しそうな表情。

その表情を見た3人は

だんだん面白くなくなってきて。

イライラの矛先を

土方に向け始めた。

いわゆる嫉妬。







藤「まぁ、そんなに無理してまで

土方さんにくっついてなくても

いいんじゃね?」



「えっ?」



沖「そうそう。

誰だってあんな

ガミガミうるさい人の傍に

好き好んで居たくないでしょう?」



原「・・・それはお前だけだろう」







3人の意見を聞いた千鶴は

急に何かを考えるように

小首を傾げ黙りこんでしまった。

そんな様子に気づいた3人は

視線を千鶴へと向けた。

どうしたのかと、問おうとしたが

それよりも先に千鶴が顔を上げて

口を開いた。







「あの・・・」



原「どうしたんだ?」



沖「土方さんの気配でも感じた?」



藤「だから、総司じゃねえっての!」



「土方さん

とても優しいです、よ?」



沖・藤・原「・・・えっ?」



「私が失敗してしまった時は

怒られてしまいますけど・・・

それでも私の為を

思ってのことだって伝わってます。



普段は優しくて

でも、たまに意地悪なこと

言われたりしますけど

そんなことも

私にとっては嬉しいんです。



それに、出かけた際には

いつもお土産を買ってきて

くださるんですよ。

あっ!この前は、私が

桜餅が食べたいと言ったことを

覚えててくださって

たくさん買って来て

くださったんです!

それから・・・」







千鶴の止まらない惚気ともいうべき

土方称賛の言葉。

もうイライラするのも

馬鹿らしくなった沖田、原田は

乾いた笑みを張り付けて

千鶴が話し終わるのを

待つことにした。

しかし、今まで拗ねていた藤堂が

そんな千鶴に気になっていたことを

問いただそうとした。







藤「千鶴!」



「え・・・なぁに?平助くん」



藤「あのさぁ・・・

もしかして・・・」



「おいっ、千鶴はいるか?」







藤堂が意を決して

問おうとしたが・・・

そこへ今噂をしていた

鬼の副長こと土方が入って来た。

どうやら千鶴を探しているようだ。







「はい?あっ、土方さん!」



「ああ・・・ここにいたのか」



「すみません、夕餉の

後片付けをしていたので・・・

何かご用ですか?」



「ああ・・・」







土方は千鶴から視線を外すと

沖田ら3人を見まわした。

若干・・・いやかなりあからさまに

殺気をこめた視線を向けた。

沖田は相変わらずだが

他2人は嫌な汗が背を伝うのを感じた。







「お前ら・・・

ここで何やってんだ?」



藤「えっ!?何って・・・」



原「俺らは

千鶴と話してただけだぜ?」



沖「別にやましいことなんて

してませんよ〜」



「お前が言うと

信憑性がねえんだよ!」



沖「やだなあ、土方さん。

そうやって何でもかんでも

人を疑うのって良くないですよ?」



「普段から

疑われるようなことをしてる

お前が言うことじゃねえだろ!」







土方は本来の目的を忘れつつ

沖田の相手をし始めた。

いつものことながら

どうしたものかと

間に割って入って被害を被ることは

避けたい藤堂と原田。

突っかかる沖田と怒鳴る土方を

傍目に見ていると

2人とは別の声が

遠慮がちに聞こえてきた。







「・・・あ、あのぉ・・・」



「なんだ!?

・・・っ・・・どうした?千鶴」



沖「土方さん

いきなり千鶴ちゃんを

怒鳴るなんて・・・

信じられませんね」



「うるせぇっ!!

誰のせいだと思ってやがんだ!」



「ぅ、あ・・・えっと・・・

ひ、土方さん!

あの、私への用というのは・・・」



「ん?ああ、そうだった・・・」







やっとここへ来た

否、千鶴のもとへ来た理由を

思い出した土方。

お前など相手にしている場合ではない

というかのように

沖田へ一睨み向けると

千鶴へと向きなおった。

そして、普段の土方からは

考えられないような・・・

優しい声で千鶴へと話かけた。







「今から俺の部屋へ

来てくれねえか?」



「・・・あ、はい!」



原「土方さん・・・」



藤「まさか・・・」



沖「こんなに堂々と

今から手出します宣言するなんて

さすが土方さんですね。

僕には真似できないですよ」



「んなわけねえだろ!

茶を頼みにきたんだよ!」



「あ・・・でしたら

お部屋へ伺う前に

先にお茶の用意をしてきますね」



「・・・ああ、頼む」







土方と千鶴が出て行ったあと・・・。







藤「はぁ〜・・・

やっぱ、千鶴って

土方さんのこと、好きだよな・・・」



原「丸わかりだな。

まあ、土方さんも

大概わかりやすいけどな」



沖「気に入らないな・・・

なんで土方さんなんだろうね」



藤「そんなの俺が

聞きてえっての!!」



沖「なんだろう、だんだん

腹立ってきちゃったんだけど」



原「はあ・・・千鶴しか知らねえ

土方さんが、あんのかもしれねえな」







そんな話をしながら・・・

気になる彼女を独り占めする

我らが鬼の副長へ

憎悪に等しい嫉妬を向けていた。










〜副長室〜





「土方さん、お茶をお持ちしました」



「ああ・・・千鶴、そこに座れ」



「え?・・・はい」



「茶は口実で

これを渡そうと思ってな」



「これ・・・わあ〜・・・きれい」



「昼間出かけた帰りに

馴染みの店の近くを通って、な。

・・・お前、桜が好きだって

言ってただろう」



「覚えていて

くださったんですか?」



「当たり前だ。

簪はつける機会ねえが

櫛なら普段も使うだろ?」



「で、でも・・・

こんな高価なもの

いただけません!」



「遠慮すんな・・・

だいたいそれをつっかえされても

俺が使うわけにいかねえだろ」



「でも・・・」



「いいから受けとっとけ・・・

俺が、持ってて欲しいんだよ」



「えっ!

あ、ありがとうございます!

・・・大切に、します」



「・・・ああ」









〜終〜


 

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