薄桜鬼

□寒い時には・・・
1ページ/1ページ





蝦夷に来てしばらく経ったある日。

今日は朝から雪がチラついていた。

窓から見える景色を眺めていると

室内にいるにも関わらず

背筋がひんやりとする。







「あのぉ・・・」



「なんだ?」



「・・・お茶、淹れなおして

きましょうか?」



「大丈夫だ」



「そう、ですか・・・

寒く、ないですか?」



「ああ」



「・・・えっと・・・あの・・・」



「さっきから、何なんだ?」



「・・・そろそろ

放してほしいんですけど・・・」



「駄目だ」







土方さんが机に向かい

仕事をされているのは常のこと。

ただ、常とは違うことが一つ。

それは、土方さんの膝の上に

私がいること。



そういえば・・・

前にもこんなことがあったような。



確か・・・まだ京にいた頃。

あの時もなかなか放してくれなくて。

その後、沖田さんが来られて・・・





「あ〜、土方さんが

千鶴ちゃんに厭らしいことしてる」





なんて屯所中に

聞こえるくらいに叫んで。

後で土方さんと私が

質問攻めにあいながらも

一人ずつに否定してたっけ・・・。







「くすっ・・・」



「どうしたんだ?」



「いえ・・・前にも、あったなぁって

思い出してたんです」



「・・・・・・ああ

京にいた頃だったか?」



「あっ、土方さんも

覚えていらっしゃったんですか?」



「当たり前だ。

総司の野郎がわけ分かんねえことを

言いふらしやがったからな。

勘違いした連中に

訂正するのに苦労した」



「くすくす・・・そうですよね。

私も思い出してたところです」



「笑い事じゃねえだろう。

・・・まあ、そのことがあったから

覚えてるんじゃねえぞ。

お前との思い出、ってのは

どんな些細なことでも覚えてる」



「・・・私も、土方さんとの思い出は

・・・全部覚えています」







ああ・・・どうしていつも

私をときめかせるようなことばかり

言うのだろう・・・。

いつか、ドキドキしすぎて

心臓が壊れてしまいそう。







「・・・土方さん、そろそろ・・・」



「まだ、駄目だ」



「お仕事、しづらいんじゃあ・・・」



「んなこたねえよ。

・・・もう少し、このままでいろ」



「・・・・・・はい」







本当は恥ずかしくて恥ずかしくて

今すぐ降りたいんだけど・・・。

こうしてくっついていられることが

嬉しいのも事実だから。

土方さんの温もりを感じて

広い腕の中で

穏やかな鼓動を聞きながら

その胸にすり寄った。







「土方さん・・・大好き、です」



「ああ・・・俺も、好きだぜ」



大「あのぉ・・・」



「「えっ?」」



大「お取り込み中

悪いんだけど・・・

僕もいるってこと

忘れてないかい?」







懐かしい思い出と愛しい温もりに

安らぎ過ぎて・・・

大鳥さんのことを

忘れてしまっていた。

用事があるとかで

土方さんを訪ねて来られたけれど

少し待ってくれという

土方さんの言葉に

ソファーに座り待っていた大鳥さん。

私が大鳥さんと土方さんに

お茶を淹れてくると

その後急に土方さんの膝の上に

乗せられてしまった。

思い出したら

全身が熱くなるのが分かった。







「すすすす、すみません!

ひ土方さん!降ろして下さいっ!」



「駄目だって言っただろうが」



「な、何で・・・大鳥さんが

いらっしゃるんですよ!?」



「その存在を忘れていたのは

どこのどいつだ?」



「そ・・・それ、は・・・」



大「ああ、いいよ。

急ぎの用ってわけじゃないし

出直して来るよ」



「・・・・・・」



「そ、そんなご迷惑を・・・」



大「迷惑じゃないよ。

それに・・・

土方くんに睨み殺されるよりかは

全然マシだからね」



「・・・へっ?」







大鳥さんが出て行った後         

最後に言われたことの

意味が分からず唸っていると。

急に視界が暗くなり

自分意外の力で

上を向かされてしまった。

気付くと土方さんの

大きな手によって

頬を包まれていた。







「ひ、じ・・・かた、さん?」



「やっと、邪魔なヤツが消えたな」



「・・・大鳥さんに

失礼、です、よ」



「うるせえ・・・

お前との睦言に

口挟んでくるヤツには

それぐらいの扱いで

構わねえんだよ」



「でも・・・

今日は大鳥さんを

待たせていたから、で・・・」



「・・・お前は

アイツの味方する気か?」



「いえ・・・

そんなつもりじゃ・・・」



「だったら・・・」







ああ言えばこう言う土方さんに

わりと真剣に睨まれて

思わず焦ってしまう。

睨まれたり怒鳴られることには

慣れているけれど

こんな密着した状態で、なんて

慣れることはない。







「あっ・・・」



「大人しく、抱かれてろ」







その言葉と共に私の唇に

熱い吐息が降りかかり。

次には視界一杯の彼と温かい唇に

今度こそ心臓が壊れそうなくらいに

鼓動は跳ね上がり

必然的に瞳をギュッと閉じた。





未だに慣れない

この行為だけれど・・・

それでも大好きな人に

触れていることに

幸せを感じている。











〜終〜



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ