薄桜鬼

□浅葱色に舞う薄紅の欠片
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薄紅の欠片が舞い散る中

澄み渡る青空を見上げた。

思い出すのは・・・

誠を掲げ己の信念を貫いた

あの・・・浅葱色の背中。

ただひたすらに前を見据えていた

あの横顔と瞳。

そして・・・

壊れ物を触るかのように

優しく触れてくれた大きな手。

私にだけ見せてくれていた

温かな笑顔。





貴方は・・・今、幸せでいますか?










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「あれ?少し早く来すぎちゃったかな」







今日は高校の入学式。

前日から興奮していた私は

あまりにも早くに

登校してしまったみたい。

今は入学式の1時間前。

高校生になるというのに

自分の子供っぽさになんだか笑えて

苦笑気味になる。

それでも・・・

早朝の爽やかな空気に触れるのは

とても心地よくて・・・。

私は校内を見て回ろうと思い

一歩踏み出そうとした。

すると・・・どこからか微かに香る。







「・・・この、香り」







何だろう?

・・・でも、この香り

私は知ってる。

この目の前を

薄紅に染めているもの。

私は先程から風に乗ってくる

桜の花びらに

惹かれていくかのように

辿っていった。

校舎裏に周ると

そこには大きな桜の木が一本。



満開の桜。

狂い咲き。

惜しみなく。

その欠片を散らしていた。



ああ・・・・・・

どうしていつも

急ぎ逝くのだろう。

薄紅に染まる中

その様に重なるのは・・・

あの人の生き様。



いつも追いかけていたあの人が

私の手を取り

同じ速度で歩いてくれた。

本当に僅かな時間だったけれど

今でも鮮明に残っている程に

幸福だった。

できることなら、もう一度・・・。

何度願っただろう。

でも・・・

こんな平和な世にいるのなら

あんな殺伐とした思い出なんて

ない方が良い。





貴方は・・・今、幸せでいますか?

貴方が幸せなら・・・

私はそれ以上、何も望まない。

あの人へのこの想いだけで

私は強く生きていける。

桜の中に紛れ消えていった

あの人を見送った時も

・・・そうだった。



ただ、願うのは

あの人が心安らかに

幸せでいてくれること。

たとえ今、私以外の誰かを

愛していたとしても・・・。

「今」いるのは

あの日々を過ごしていた

私達ではない。

あくまでも「今」を生きる

私達なのだから・・・。







「・・・本当に

ずるい人、ですね・・・」







「今」でさえこんなに

私を惹きつけるなんて・・・

いつまで経ってもずるい人。

でも、そんな貴方だから

私は「今」でも貴方のことを・・・。



桜を見上げながら思っていると

後ろから物音が聞こえた。

反射的に振り返ると

そこに男の人が立っていた。



黒のスーツ

白のシャツ

その瞳と同色のネクタイ。

その服装から

ここの先生だとすぐに分かった。

こんな時間から

こんなところにいて

怒られるかと内心焦り始めた。

そんな私を余所に

タバコをくわえたまま

その人は私に近づいてくる。

すぐ、目の前まで来て・・・

私を見下ろす。

自然と私も見上げ見つめていた。



真っ直ぐな鋭利さを持つ紫暗の瞳。

その口元。

醸し出される雰囲気。

無意識に名を口にしていた。







「・・・ひじ、かた、さん」










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