薄桜鬼

□浅葱色に舞う薄紅の欠片
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「・・・・・・」







私が名を呼ぶと

途端に眉間を寄せた。

当然だ。

見ず知らずの人間が

何故自分の名前を知っているのか。

きっと、不審に

思っているに違いない。

私と同じように

前世の記憶を

持っているはずがない。



焦る私を見ながら

タバコを携帯灰皿へ

押し付けるように入れた。

何と言い訳をしようかと

考え始めた私に向かって・・・

とても懐かしく

ぶっきらぼうな声が降って来た。







「・・・おい・・・

何で、『土方さん』なんだ?」



「・・・えっ?」







言われた意味を

理解することができず

思わず俯いていた顔を上げた。

目の前にいる彼は

相変わらず眉間を寄せ

憮然としていた。

でも、この表情は・・・

私はよく、知っている。

いつもいじけてしまった時の・・・。







「聞いてんのか?

何で『土方さん』なんだよ」



「なんで、って・・・」



「・・・『前』は

名前で呼んでただろう?」



「!・・・ま、え・・・?」



「おい、まさか覚えてねえ

なんて言わねえよな?

俺を呼んだってのに

んなこと言うんじゃねえぞ」



「う、そ・・・だって・・・」



「・・・覚えてんのが自分だけ

なんて思ってんじゃねえだろうな?」







あの頃、何度も見せてくれた

頬笑みを浮かべ

私に向け両手を広げてくれている。

視界が滲むのも気にせず

その腕の中に飛び込んだ。



久しぶりの温もり、香り。

久しぶりの・・・。







「・・・歳三、さん」



「ったく・・・

最初っから、そう呼べ」



「だって・・・急に・・・

ひっく・・・ぅう・・・」



「・・・相変わらず

すぐに泣くな、千鶴」







苦笑しながら私の涙を拭ってくれる

その仕種の優しさ。

歳三さんが触れてくれていることを

実感させてくれる。







「私・・・歳三さんが

幸せにいてくれるなら・・・

会えなくてもいいって・・・

覚えてくれてなくても、いいって

そう思っていました」



「・・・・・・」



「でも・・・本当は

歳三さんと

また・・・一緒にいたいって

思っていました」



「当たり前だ。

・・・忘れたのか?

俺が幸せだと思えるのは

お前が幸せじゃねえと駄目だ。

お前が幸せで

尚且つ俺の傍にいねえとな」







そうだ・・・

私達は二人でいることで

初めて互いに幸せになれる。

前世と現世。

分けて考える必要なんて

なかったんだ。



初めてあった月夜・・・

あの日から、きっと

今この瞬間まで続いていたのだから。

そして、これからも・・・

ずっと、続いていく。







「歳三さん・・・大好き、です」



「ああ・・・愛してるぜ、千鶴」







変わらない

その優しい囁きを聞きながら

ゆっくりと瞳を閉じて

唇がかさなった。





貴方と私・・・

あの浅葱色と薄紅色の下で

これからもずっと

共に在り続けていきたい。

願わくば永久(とこしえ)に・・・。











〜終〜


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