薄桜鬼

□ヒトヒラの緋色
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「わあ・・・キレイですね」



「この季節のここの風景も

悪くねえだろう?」







今日はいつものように

土方さんの所用に

付き添い少し遠出をしていた。

思いのほか時間がかかってしまい

今はもう夕暮れ時。

そして、土方さんと

今来ている場所は

今年の春に連れてきて

いただいた場所。

屯所から近いけれど

あまり人気がなくて

ゆったりとした雰囲気が

気にいっている。

春には桜が綺麗だと

皆には内緒で連れてきてくださった。

そして、今回は・・・。







「いつの間にかこんなにも

紅葉していたんですね」



「俺もこの前

出かけた時に気づいてな。

あの時はここまで

色づいてなかったけどな」



「夕日と重なって・・・

とてもキレイです」







辺りを橙に染めゆく夕日と

視界一杯の緋色の紅葉

少し離れた

イチョウ並木から舞ってくる

それぞれの色が重なりあって

幻想的な景色となっている。

橙、紅、黄色

ヒトヒラ舞うごとに

視界が染められていく。



これは、何度目の秋、なのかな。

新選組に身を置いてから

何度季節が廻ったのか。

気付けばもう

長い時間を彼らと・・・

彼と過ごしている。



最初は早く父さまを見つけたいと

思っていた。

それなのに・・・。

父さま、ごめんなさい・・・

私は、親不孝者、です。

こんなひと時が

ずっと続いて欲しい

なんて思っている。

そして、できることなら・・・

この人のお傍にずっといたい。

私に何ができるか分からないけれど

ずっと支えていきたいと

そう願っている。

でも・・・そんなこと

叶うはずがないということも

分かっている。

いつまでも、この人と一緒に

いることはできない。







「おい」



「!・・・はいっ」



「・・・何、考えてやがる」



「えっ・・・?」



「今にも泣きそうな顔

しやがって・・・

どうせまた、ろくでもねえこと

考えてやがったんだろ」



「なっ・・・

ろくでもなく、ない、です」



「じゃあ、言ってみろ」



「それ、は・・・」







言えと言われて

素直に吐露できるような

簡単な気持ちではない。

言い淀んでいると

急に嗅ぎ慣れた香りと

身体に馴染む温もりに包まれた。

私をその腕の中にすっぽりと

収めてしまう彼に

意思とは別に

鼓動が速くなっていく。







「千鶴」



「・・・ずっと・・・

この景色を見ていたいと

・・・思ったんです」



「・・・・・・」



「・・・土方さんと、一緒に・・・

ずっと、見られたら、って・・・」



「・・・千鶴」



「わ、分かってます!

そんな望みおこがましいって」



「何も言っちゃいねえだろ。

・・・俺も同じこと考えてた」



「えっ・・・」



「お前と2人でこのまま・・・

こんな穏やかな時を

過ごせたら、ってな」







腕の中からそっと彼を仰ぎ見ると

苦笑を浮かべていた。

腕に力が込められたが

その優しさは変わらず。



土方さんも私も分かっている。

何もかもを捨てて

互いのことだけを考えて

2人きりで生きていく。

そんな夢物語のようなこと

叶うはずがないということを。

それに、ソレは彼も私も

真に望むことではないから。



それでも・・・

この人が望む時代を

築くことができ

全てが終わった時に・・・。

もしも・・・

もしもその時

私がまだお傍にいられたなら

その時こそ

2人で共に生きてゆけたら、と。

そっと心で

思っていても良いですか?

それは現実味のない

ひどく甘い願いだけれど・・・。





今は・・・

夕餉までの、もう少しだけ。

貴方の温もりと・・・

この視界いっぱいに広がる

黄色と緋色を感じさせて下さい。 










〜終〜


 

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