薄桜鬼

□月の出る夜に・・・
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胸元にかかる温かい吐息と

甘い香りに目が覚めた。

開いた視界に入ってきたのは

外の光を受けているだろう

透き通るかのように

白く透ける障子。

眠る前に見た雲一つなかった

晴れ渡る夜空を

何気なく思いだした。

そして・・・

自分の腕、胸元が

温かいことに気付き

視線をすぐ傍へと移した。



温かいはずだ。

何にも代えられない

愛おしい存在をこの腕で

しっかりと抱き込んでいた。

まるで逃がさないと言わんばかりに

強く、しっかりと・・・。







「ふっ・・・どうしようもねえな」







苦笑気味に思わず漏らした呟きが

思いのほか柔らかいことに気付き

また苦笑する。

一度は手離したくせに・・・

もう一度自分の元へ

戻って来てくれたこの存在を

もう二度と

手離すことなんざできない。

いつ消えるとも知れない

己の身体を考えると

本当にこれで良いのか、と

未だに思い悩むこともある。



全く・・・

鬼の副長が聞いて呆れるぜ。



戦では迷ったことなんざなかった。

少しの迷いが命取りになる。

素早く的確に

判断しなけりゃならなかったし

実際そうしてきた。

だが・・・千鶴のことになると

てんで駄目だ。

幸せを心から願ってるくせに

幸せにできる保証もない

自分の元へ囲っている。

自分の中の矛盾と

欲まみれの願望とが

歪に混ざり合い俺の理性を

しきりに削ぎ取ろうとする。







「・・・ったく・・・

全部、お前が悪ぃんだぞ?」







胸中渦巻く黒い欲望を

千鶴の所為にしながら

穏やかな寝息を立てる

その唇を指でなぞる。

何度も触れているその唇は

しっとりと潤い

触れる指を押し返す弾力が

その柔らかさを伝える。

己のソレで触れた瞬間を思い出し

一眠りつく前の情事が蘇り

身体に熱が戻る。



ちっ・・・餓鬼じゃあるめえし

何考えてやがんだ俺は。



少し・・・ほんの少し

思い出しただけだってのに

身体は敏感に反応し

下腹部が熱くなるのが分かる。

だが、どうしようもねえ。

惚れた女がこんなにも密着して

無防備に寝てんだ。

これで何も感じねえ男がいるなら

見てみてえもんだ。







「お前には乱されて

ばっかりだな・・・千鶴」



「ん・・・」







唇が触れるかどうか

というような距離で

吐息を吹きかけながら呟くと

身を捩る千鶴が

甘い声を漏らしながら

こちらを向いた。

白く滑らかな肌に手を添えて

唇を重ねる。

意識のない無抵抗なヤツに対して

行う行為じゃねえことは

十分に分かっている。



だが・・・こんな風に触れて

止められる程

俺はできた大人でもない。







「ん、ぁ・・・

んっ・・・んん!?」



「・・・はぁ

・・・起きたか?千鶴」



「ぁ、はぁ・・・な、に・・・?」



「ふっ・・・お前が俺を

誘いやがるから

その誘いに乗ってやったんだろ」







意地の悪い笑みを浮かべて

言ってやると案の定

頬を真っ赤にしながら千鶴は

大きな瞳をより一層大きく見開いた。

いつまで経っても

こういった行為に慣れないらしく

初心な反応を見せるこいつが

たまらなく愛おしい。

めちゃくちゃに甘やかして

理性をなくすぐらいに

乱してやりたくなる。







「わ、私!

誘ってなんていませんっ!」



「ほう・・・無意識に誘うたあ

余程物足りねえみてえだな」



「な!な、何言って・・・

ひゃあん!?」







言い訳する千鶴の

色香漂う白い首筋に唇を近づけ

きつく吸ってやると

甲高い声をあげた。

妙に耳に残り腰にくるその声が

少しずつ削がれていた理性を

一気に壊した。

紅く印した所有の証。

あれこれ考えたところで結局は

こいつを手離してやるつもりはない。



浅瀬で息もできない程に

苦しむくらいなら・・・

いっそ深い深い奥底にまで沈んで

互いに溺れちまえばいい。

そうすれば

目の前の愛しい存在だけしか

考えられなくなるだろう?







「やあ・・・

とし、ぞぅ、さ・・・あっ・・・」



「・・・千鶴」







俺を求めるように

首へと回された腕の強さが

先程までの迷いへの

答えのように感じた。



そうだ・・・こいつが求める限り

俺を与えてやる。

例え求めなくても

俺が求め何度でも愛を囁いてやる。

いつだって・・・

こいつは俺を柔らかく照らし

導いてくれる。



俺の下で甘く喘ぐ千鶴に

口角がつり上がるのを感じて

今夜は眠れそうにないな、と

湧きあがる欲に

あっさりと呑まれていった。










〜終〜


 

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