薄桜鬼

□あなたの優しさ
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「すみません、斎藤さん」



「あんたが気にする必要はない」



「でも・・・」



「良いと言っている」







今日は巡察のない斎藤さん。

最近はほとんど屯所を

空けていたのだけれど

久しぶりのお休みなので

ゆっくりしてもらおうと思っていた。

それなのに・・・。







「斎藤さん、せっかく

お時間があるんですから

ゆっくり休んで下さい」



「休養なら日頃から

充分にとっている」



「・・・これは、私の仕事です!」



「今日はこれだけでなく

夕餉の支度の当番ではないのか?」



「うっ・・・

そ、そうです、けど・・・」







私と斎藤さんが

言い合っているその理由。

私がいつものように

大量の洗濯物を取り込んで

畳んでいると

そこに斎藤さんが来られて・・・。

一人じゃ大変だろうからと

手伝うとおっしゃって下さった。

お休み中の斎藤さんに

そんなことお願いしていいはずもなく

私が何度もいいですと言っても

なかなか引いてくれない。

・・・意外と頑固?







「・・・くすっ」



「何だ?」



「いいえ・・・

ふぅ、分かりました。

斎藤さん

手伝っていただいても良いですか?」



「ああ・・・

初めからそう言っている」



「はい!」







本当は斎藤さんと

二人でいることが嬉しかった。

決しておしゃべり

というわけではないけれど

斎藤さんといる

この穏やかで静かな空気が

とても安心できて居心地がいい。

そんなことを思いながら

手近にあった洗濯物を

一枚掴もうとしたとき。

急に頬に何かが触れた。

驚いて顔を上げると・・・。



向かいに座っていたはずの

斎藤さんが何故か近くにいて・・・

何故か私の顔を見ていて・・・

そして、何故か

私の頬に手を添えている。



突然のことで

一瞬固まってしまったけど

我に返った瞬間。

こんなにも間近に

斎藤さんがいるから

顔と言わず全身が

熱くなってしまった。







「さ、ささ、斎藤さんっ!?

き、急に、どうして・・・」



「・・・髪にコレがついていた」



「えっ・・・?」







斎藤さんが言った

コレ、というのは・・・

一枚の葉っぱ。

多分洗濯物を取り込んでいる時に

ついてしまったのだと思う。

でも、斎藤さん。

葉っぱを取っていただいたのは

とても嬉しいんですけれど・・・

もっと普通に取って下さい。

こんなに間近で

意味ありげに触れられと・・・。







「・・・心臓に悪い、です」



「何か言ったか?」



「えっ・・・い、いいえ!

何でもないです。

葉っぱ取ってくださって

ありがとうございます」







まだお礼を言ってなかったと思い

さっきまで考えていたことに

気づかれないよう

自然を装い笑顔でお礼を言った。

すると、また斎藤さんは

ジっと見つめてきた。

今度は何だろうとわけが分からず

小首を傾げると

急に斎藤さんが立ちあがった。







「えっ・・・斎藤さん?」



「・・・悪いが

急用を思い出した」



「あっ、そうですか。

こっちは大丈夫ですので

ご用事の方を済ませてきて下さい」



「すまない」







言葉短に私へ告げると

斎藤さんは部屋を出て行った。

きっと優しい斎藤さんのことだから

急用を気にしながらも

私を手伝ってくださってたんだ。







「斎藤さん、優しすぎですよ」







心が何だか温かくなるのを感じて

その奥にある何か熱い想いには

気づかないふりをした。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「・・・あんな顔をされると

こちらの心臓がもたない」







部屋を出て言った後

斎藤さんが顔を真っ赤にしながら

何故か庭に立ちつくしたまま

ブツブツと独り言を言っていたと

屯所の方達から後で聞いた。



・・・やっぱり

斎藤さんはよく分かりません。

でも・・・

そんな斎藤さんのことが

何故か気になって仕方ない。



私がこの気持ちに気付くのは

もう少し後になってから。

とある日の出来事。

でも・・・私の心に刻まれた

大切な思い出の出来事。









〜終〜


 

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