薄桜鬼

□あなたは誰のもの?
1ページ/1ページ







「・・・・・・」







昼餉も済み、溜まる仕事も

滞りなく減らしていける

実に有意義な時間を

土方は感じているのだが。

文机に向かう自分の左斜め後ろ。

無に等しい、しかし決して

無視はできないその存在。

室内の空気に溶け込みながら

こちらの動きに集中されているのは

嫌でも分かってしまう。







「・・・はぁ・・・」



斎「っ!」



「・・・はぁ・・・斎藤」



斎「はい」



「・・・あ〜・・・

いつまでそうしてるつもりだ?」



斎「副長の仕事が一区切りつくまで

・・・そのつもりですが」



「お前・・・疲れるだろ?

そう、黙って座ってるだけってのも」



斎「いえ、副長に用ができた際

すぐに動く為故

苦痛などありません」



「っ・・・いや、まぁ・・・

気持ちはありがてぇが

どうにも気が散って仕方ねえ」



斎「!?す、すみません・・・

ですが、近くにいないとなると

お手を煩わせるのでは、と・・・」







土方と隊務に忠実な目の前の男は

しかし、土方のこととなると

いささか頑固な一面を見せる。

なかなか引かない斎藤に

土方が再び溜息を吐きそうになると

軽快な足音が聞こえ

すぐさま襖が勢いよく開かれた。







スパンッ・・・!



「な、何だ!?」



「っ、斎藤さん!」



斎「・・・何だ?」



「斎藤さん、ズルいです!」



「はぁ!?おい、千鶴・・・」



斎「何のことだ?」



「とぼけないで下さい!

土方さんのお手伝いをするのは

小姓である私の仕事です!!」







いつにない剣幕で

びしっと自分へ指をさす千鶴に

呆然としてしまう土方。

何をそんなに必死になっているのか

理解に苦しむ土方を余所に

斎藤は千鶴の言葉を予想していたのか

涼しげな顔で答え始めた。







斎「書類や密書などの受け渡しなど

内密の仕事はあんたにはできないだろ。

ましてや、剣も扱えない」



「だからこそ、お傍で身の回りの

お手伝いをさせていただいているんです!

仕事を横取りしないで下さい!!」



斎「ドジなあんたよりも

俺の方がよほど副長の為になる」



「そ、そんなことないです!!」







突如始まった新選組一の無口な男斎藤と

新選組の紅一点の千鶴が

自分の手伝いを巡って始まった口論。

土方は目の前の事態に頭がついて行かず

今度こそ大きな溜息を吐いた。

自分を思ってのことなのだとは

分かっているからこそ

無下にはできない。

だが・・・こうしてる間に

筆を持つ手を止めているということに

果たして二人は気付いているのだろうか。







沖「くす・・・

何だか面白いことになってますね」



「・・・余計な口挟むんじゃねえぞ」



沖「何言ってるんですか

そんなことするはずないでしょ?」



「お前はっ・・・」



沖「まあ、これでも飲んで

落ちついて下さいよ」







そう言ってどこからともなく現れた

沖田が文机に置いたのは

湯気の立ち上るお茶。

淹れたてなのがすぐに分かるも

何かを企んでいるのかと

土方は僅かに警戒した。

ニコニコと・・・

いや、ニヤニヤと見つめる沖田に

嫌な予感がしたように思うが

只のお茶だと自分に言い聞かせた。







「・・・すまねえな」



沖「いえいえ。

お礼ならこの前の団子でいいですよ」



「何で茶ごときで団子を・・・」



「「ぁあああっ!!」」



「ぶっ・・・げほっ!」



沖「あはは!大丈夫ですか〜?」



「沖田さん!

土方さんにお茶を淹れるのは

私の役目ですよ!!」



斎「日頃から副長の気を煩わせながら

茶を用意する資格があると思うのか!?」



沖「ねえ、二人とも

意味が分からないんだけど」



「っ・・・てめぇら・・・

いい加減にしやがれぇっ!!!」







副長室から常よりも二倍、三倍もの

怒号が響き渡るのを

稽古中の隊士達が耳にし

身を震わしていた。



今日も屯所は平和らしい。









〜終〜


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ