薄桜鬼

□あなたは誰のもの?C
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最近の土方陸軍奉行並は

大変穏やかになられました。

下っ端の下っ端である僕は

直接言葉を交わしたことなんて

ほとんど皆無と言っていいのだけど。

それでも、訓練中の指導してくださる

その口調というか雰囲気というか

厳しいのは変わりないけども

以前のような鋭い刃のような

来るものを凪ぎ棄てるような

そんな「壁」がなくなっている。

きっかけは・・・

あの雪村千鶴という小姓さんが来てから。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「脇が甘えっつってんだろ!!

もっと集中しろ!

周囲に気をやらねえでどうする!!」



『はいっ!!!』







相変わらずの怒号が響き渡る光景を

遠巻きに眺めていると

小さな影が視界の端に入り込んできた。

彼女は怒号を飛ばす

あの「鬼」を人間へと戻すことができる

唯一の人物であったりする。

遠巻きに、といっても

普通の声量で十分に聞こえて来る

範囲内だったりする。

何となく離れた方が己の為かと

そう思ったが、遅かったようだ。







「あ、すみません!

ひじか・・・きゃっ!?」



「!?千鶴っ!!」







彼に駆け寄る彼女が

何かにつまづいたようで

大きく体がよろめいて。

それに瞬時に反応した彼が

さっと彼女を正面から抱きとめるまで

ほんの数秒だった。

彼女のことに関しては

普段以上に敏感で素早くなる。

本当にこれで

公にしていない気でいるんだから

周りの人間にとっては・・・

特に下についている者からしたら

たまったもんじゃないんだよ?







「この馬鹿っ!!

急に飛び出して来やがって

危ねえっつっただろ!!」



「す、すみません!!

ご、ご迷惑を・・・」



「はぁ・・・だから

それも前に言ったはずだ。

お前のことに関しては

迷惑なことなんざ一つもねえんだよ」



「え?」



「・・・怒鳴っちまって悪かった。

だがな、心配で気が気じゃねえ

俺の気持ちもちったあ分かれ」



「っ!・・・は、はい」







うん。やっぱりこうなったか。

赤くなりながらも返事をする彼女を

「鬼」が人間の穏やかな表情で

ぎゅっと抱きしめてしまった。

っていうかね、君達。

周りの訓練中の彼らを放って

何を乳繰り合ってるんだい。

そもそも雪村君だって

用事があって土方君の所へ来たんでしょ?



凡そ予想していた事態とはいえ

周りで慌てふためきながらも

見て見ぬふりを懸命に心がける彼らが

あまりにも可愛そうで仕方がない。

ここは、やっぱり

助けてやらないといけないよね。







大「あ〜・・・お取り込み中悪いけど

そこのお二人さん?

仲が良いのは結構だけど

周りのことも考えてもらえると

ありがたいな〜」



「おっ、大鳥さん!?」



「ちっ・・・何か用か?

あんたが言うように今は取り込み中だ。

急ぎじゃねえんなら後にしてくれ」



大「僕だってさっさと退散したいんだよ。

ただ・・・後ろの彼らも

早く解放してあげてくれないかい?

上官としては見過ごせなくてね」



「ああ?・・・・・・あ」



「ひっ・・・!?・・・

す、すすみませんっ!!」



「なっ!?お、おい!!

ちっ・・・お前ら、今日はこれで終了だ!

大鳥さん、何か用事があんなら

後で部屋に来てくれ!!

おい、待て!千鶴!!」







土方君の腕から飛び出して

逃げ去って行った雪村君を

珍しく焦った表情で追いかけて行く

その後ろ姿を残された彼らと一緒に

ただ見送った。

まあ、これで巻き込まれなくて済むし

彼らを助けてやることもできたし

良かったのかな?







大「・・・じゃあ、訓練は終了みたいだし

今日は早めの昼食にするから

片づけて広間へ集まるように」



『はい!!・・・はぁ』







皆揃って溜息を吐いた

その気持ちはよく分かるよ。

本当にああいう上官を持つと大変だね。

まあ、僕も他人事ではないけど。

その場を後にしながら

昼食の献立は、と

食事の方へと無理やり思考を変える

そんな努力に勤しむことにした。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





大鳥陸軍奉行のおかげで

あの居心地の悪い空気から

逃れられることができた。



さっきの一連のやりとりを見て

改めて思った。

やっぱり、土方陸軍奉行並は

大きく変わられた。

いや、もしかすると

元々はああいう方なのかもしれない。

そして、あの土方陸軍奉行並を

先程のように焦らせるなんて

そんなことができるのは

あの小姓さんだけなんだって

それくらいは僕にも分かる。





僕はあのお二人の事情や関係なんて

ほとんど分からないけど。

それでも、お二人には

今のような関係でいてもらえたらと

そう思ってしまうんだ。

だからその為にも

僕はここで戦いたいと

そう強く望んでいる。









〜終〜


 

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