薄桜鬼

□拍手(4月)
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特有の霞んだ青空に

ひらりと彩る薄紅を見上げながら

三年前の今日を思い出した。



これから始まる高校生活。

女子は私一人だけで

不安もたくさんあって。

それでも、昔馴染みの幼馴染と

いろいろと心配してくれる兄と

優しい先輩やクラスメイト

頼れる先生にも恵まれて

私の高校生活はとても充実していた。

それに・・・

私は出会うことができた。

この短い人生の中で

最愛と言える愛しい人に。

きっと最初で最後だって

胸を張って言える

そんな、愛しくて大好きな人に。







「千鶴」



「あっ・・・」



「なぁにやってんだ。

さっさとしねえと、陽が暮れちまうだろ」



「す、すみません!」



「・・・桜か?」



「はい。

今年の桜も、もう終わりだな、と

そう思って見てたんですけど

いつの間にか入学した時のことを

思い出してました」



「あれから三年、か。

俺にしてみりゃ長いこと

この上なかったけどな」







そう苦笑まじりにつげた

見上げる先の愛しい人は

私の体をいとも簡単に

その腕の中へと納めてしまった。

柔らかく、というには

少々力が込められたこの腕は

私の大好きな場所。

一番安らげて、落ちつける場所。

でも、ドキドキも最大級に

奏でる場所でもある。

現に今だって、嬉しくて安らげるのに

鼓動は早鐘を鳴らしている。







「くくっ・・・すげえ音だな」



「っ・・・先生の、せいです」



「おい」



「はい?」



「・・・それ」



「え?」



「はぁ・・・卒業したんだ。

いい加減、呼び方変えてくんねえか?」



「あ・・・」



「俺は、いつまでも

お前の教師でいるつもりはねえんだよ」







くいと持ち上げられた顎を

促されるままにして

奪われてしまったのは

吐息を漏れた唇と

視線を逸らせない瞳。

視界に広がる舞い散る桜の花弁と

鋭い紫暗の瞳に惹きつけられて

瞼を閉じることさえ惜しく感じてしまう。



長い口づけの後

案の定、目を閉じろと

小さく小言を受けて。

再度口づけが始まる。

今度はゆっくりと目を閉じて

その暗闇の中にも愛しい人と

はらり、はらり、と

舞い散る花弁が見え隠れする。







「は、ぁ・・・先生・・・」



「・・・呼び方」



「っ・・・と、歳三、さん」



「ふっ・・・何だ?」



「・・・もっと、下さい」



「・・・・・・ああ。

お前が望むだけ

いや、それ以上にくれてやる。

だから・・・お前もよこせ」



「はい・・・私は、私の全ては

・・・歳三さんの、もの、です」







最後は小声になってしまったけど

ちゃんと届いたみたいで

より引き寄せるかのように

ギュっと抱きしめられた。

その苦しさと痛みは

私に幸福感を与えるだけ。











〜END〜


 

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