薄桜鬼

□紫陽花
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薄暗い室内。

天井を見上げながら

耳に入るのは

外から聞こえる

微かな雨音。

ぼんやりとする意識と

身動ぎさえしない体とで

己の身に何が起きたのか

ゆっくりと頭の中で繰り返す。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





所用ででかけられた土方さんが

そろそろ戻られるだろうと

皆の夕食の片づけの後に

摘めるような軽い食事を

こっそりと用意していた。

汁物やお茶も後は入れるだけで

いつ帰られても大丈夫。



自室に一旦戻ろうとすると

漂う湿り気を帯びた空気と

特有の香りにふと空を見上げた。

僅かもしない内にポツリと

天から雫が幾つか落ちて

サァっと降り注ぎ地を濡らしていった。







「・・・雨」







月明かりさえない廊下は

暗く足元さえよく見えない。

そんな状態なのに

視線を庭先へと移すと

片隅に咲いている花は

はっきりと捉えることができた。

淡い青、桃色、紫と

咲いている場所によって

色の違うその花は

色を変えていく。

その身の色が移りゆくことから

「移り気」を象徴する花とされている。



移り気・・・

私の心もいつか

誰かから誰かへと

移ってしまったりするのだろうか。

この人だけと、そう思っても

また、他の誰かにも

この人だけと、そう思うのだろうか。

私は・・・

あの人以外を想うことが

あるのだろうか。



ザァっと急に強くなった雨音に

はっと我に返ると

慌てて自室へと戻った。

土方さんを待つ間

繕い物をしていると

遠くに微かな物音が聞こえ

襖の隙間から見やると

待ち人の部屋に明かりが見えた。

戻られたことを知り

知らず表情が緩んでいた。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「・・・あの、土方さん?」



「!・・・千鶴?」



「はい・・・

あの、今少しだけお時間

大丈夫でしょうか」



「・・・ああ、構わねえよ」



「はい、失礼します」







返された声の柔らかさに

胸の奥が少しツキンと痛んだような

そんな気がした。

それでも気づかないフリをして

静かに障子を開けると

文机の前にはいるのだが

珍しく机上には何もなく

コチラを見据えていた。

視線を感じながら

ほんの少し体に緊張が走った。













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