薄桜鬼

□あなたは誰のもの?D
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チラチラどころか

ジッと一点を見つめる藤堂。

友達の声も、授業中でさえも

他のことは一切無視で

今日半日見つめていたのは。

この学園の紅一点

誰からも愛される自分の幼馴染。

幼馴染である自分は

他の誰よりも彼女のことを

知っている、と

そう思っていた藤堂だが・・・。







藤「なあ・・・最近さあ

何かおかしくない?」



沖「・・・君の頭の中が?

今に始まったことじゃないんだから

そんな心配、無意味だと思うよ」



藤「違う!!ってか、俺のどこが

おかしいってんだよ!!」



斎「総司、いちいちからかうな

・・・後が面倒だ」



藤「一くん・・・それ、一番キツイ」



山「はぁ・・・それで?

一体何がおかしいというんだ?」







昼休み。

屋上でいつもの面子での昼食。

藤堂からの突然の発言に

意識を戻して、話題の修正を行い。

いよいよ本題へと移る。







藤「千鶴なんだけど、さぁ」



山「雪村くん?」



沖「ああ・・・・・・なる程ね」



斎「最近、俺達といることが

少なくなってきいるが・・・」



藤「そう!そうなんだよ・・・

学校だけじゃなくってさ

放課後も一緒にいないだろ?」



沖「それで拗ねてるってわけ?」



藤「べ、別に拗ねてねえよ!!

・・・ただ、さ・・・

あいつ、何か俺達に隠してるような

言えないことでも

あるんじゃないかなぁって、思って」







しゅんと目に見えて落ち込む藤堂に

三人は小さく溜息を吐く。



そう、藤堂は知らなかった。

千鶴が確かに

隠しごとをしていることを。

そして、この三人は

その秘密を知っていて

沖田は不本意ながらにだけども

斎藤、山崎は率先して

秘密を口外しないように。

また、知られないように

協力していたりする。

そんな事情を知らずにいたのだと

今この瞬間、三人は

『ああ・・・そういえば

まだ言ってなかったのか』

と、思い出したのだ。



忘れられていた男、藤堂平助。

一人、もんもんと

心配していたのだろう。

だが・・・果たしてこの秘密を

教えてしまっていいのだろうか?

余計に心労が増えるのでは?

と斎藤、山崎が考えていたのだが

あの男はとても楽しげな表情で

ついと言葉を滑らせたのだ。







沖「実はね、僕も少し

気になることがあるんだ」



藤「え?」



斎「・・・」



山「・・・・・・」



藤「なあなあ、気になることって?」



沖「昼休みも放課後も

千鶴ちゃん、一緒にいないでしょ?」



藤「うん・・・」



沖「千鶴ちゃんさぁ

決まってある場所へ

行ってるみたいなんだ」



藤「え・・・ある、場所って?」



斎「総司・・・」



山「それ以上は賛成しかねます」



藤「え、え?

二人も何か知ってんの?」



沖「まあね・・・でも

平助も自分で見た方が良いと思うよ。

僕達が言ったことよりも

自分の目で確かめた方が

実感できるだろうしね」










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





三人に(主に沖田に)言われるがまま

教えてもらった場所へと来た藤堂。



校舎の端っこで

この部屋の責任者が責任者なだけに

ほとんど生徒がやって来ることのない

静かな部屋、場所。

国語準備室。



一番近い角から覗いて見たが

部屋の前にはもちろん

この廊下には人の気配が感じられず

もしかして、騙されたのか?

などと、あの三人(主に沖田)を

疑い始めた・・・その時。

廊下の向こう側から

気に病む原因である幼馴染が

小走りでかけてくるのが見えた。







藤(ホ、ホントに来た・・・

しかも、何か嬉しそう?

良いことでもあったのかな・・・)







幼馴染の様子に疑問を持ちながらも

息を潜めて見つめていると

国語準備室の前で足を止めた。

そのまま入るかと思いきや

小さめの手鏡を出して

髪の乱れを整えたり

リップを塗り直したり、と

身なりへ集中していた。



身だしなみを気にするのは

女の子なら当たり前だが

あれではまるで・・・

これから恋人にでも会うかのような

恋する乙女ではないか。

藤堂は自分の考えに軽く頭を振り

何を馬鹿なことを、と

思いを遠くへ放り投げ

幼馴染へと視線を向けた。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「失礼します・・・」



「おう、入れ」







短く返された声音に

されど鼓膜を震わす低音に

胸までも震わせながら

ゆっくりと入口のドアを開ける。

そっと室内へ身を滑らせると

音を立てないように閉めた。

別にこそこそすることもないのだけど

どうしても周囲に気をつけてしまう。



ドアにへばりついていると

急に後ろから伸びて来た手が

カチャリとドアに鍵をかけた。

ぱっと振り返ると

思いの外間近に迫っていた彼に

体がピシリと固まってしまった。







「いつまで突っ立ってんだ?」



「ぅ、え・・・っと・・・」



「お前なぁ、今日は部活もねえし

日直でもなかっただろ。

こんなに俺を待たせやがって・・・」



「あ、ごめんなさい・・・

あの、永倉先生にクラス皆の

プリントを集めて持ってくるように

言われていたので・・・」



「ほう・・・あいつは

お前に頼んだのか?」



「え・・・あの・・・」



「・・・・・・・・・はぁ」







見下ろされる菫色に

あわあわと焦る私に対して

お馴染みの溜息を吐いた彼に

ピクリと体を揺らすと。

気づけばひょいっと肩に担がれて

窓際にあるソファーに下された。

いつも、彼が体を横たえている

あのソファーへと。







「お前はお人よしにも程があんだろ。

自分からわざわざ面倒事を

引き受けてんじゃねえよ」



「でも・・・誰かがしないと

いけないなら

出来る人がすればいいのかと」



「ああ、出来るヤツがやりゃあいい。

だがな、そう言って毎回毎回

お前が引き受けるってのは違えだろ。

他のヤツらを付け上がらせるだけだ」



「そ、そうでしょうか?」



「そうなんだよ・・・だいたいなぁ

俺との時間を割かれてるってのが

一番気に食わねえ」







教師らしからぬその呟きに

少々驚きつつも

この逢瀬を楽しみにしていたのが

自分だけではなかったと分かり

嬉しさを隠せない。

隣りに腰かけ未だ不機嫌さを

全面に表している彼に

ぎこちなくすり寄ると

向けられる視線に

思わず頬が熱くなる。

真っ赤であろう顔を見られたくなくて

ふいと下を向けば

彼の長い指が私を捕えて

視線を合わせられてしまう。

緊張や恥ずかしさや照れから

泳ぐ視線が彼にばかり辿りつき

よけいにパニックになる。







「くくっ・・・お前・・・

いい加減慣れねえのか?」



「む、ムリ、ですぅ・・・」



「ったく・・・

いちいち、んな可愛い反応されちゃあ

抑えが利かなくなんだろ?」



「ぇ、ふ、ぇえ?」



「今すぐにでも喰っちまいてえんだが」



「ぅ、えぇ・・・あ・・・あのっ」



「まあ、今は勘弁しといてやるよ」



「っ・・・・・・」



「俺は、好きなもんは

一番最後に食うタイプだからな。

食べごろになるまで待つってのも

悪かねえよな?」



「っ、ぇえぇ!?」







身の危険を感じるような

発言ばかりをされて

頭の中は真っ白になって。

そんな私を楽しげに見つめる彼が

何だか恨めしくなり

何のダメージも与えられないと

分かりつつも

勢いをつけてあの広い腕の中に

飛び込むように抱きついた。

瞬時に薫る彼の匂いにキュンとして

熱くなる体に比例して

もっとくっつきたい想いが

どんどん溢れてくる。



すると、ぐいっと

ソファーに押し倒され

見上げる彼は何故か困った顔。

不思議に思って見ていると・・・。







「・・・・・・お前って奴は」



「え・・・え・・・?」



「・・・煽った罰だ。

味見ぐらいさせろ」



「!?あ、味見って・・・きゃっ!?」







耳元での甘い囁きから始まり

耳朶への甘いキス

頬への触れるだけのキス

首筋をてろりと舐め上げられ

項に甘い痛みを伴うキス。

決して広くはない室内に

淫靡なチュっという音が

小さくもはっきりと響いている。

体の全てで感じる彼に

本当にこのまま溺れてしまいそう。

そう小さく告げると

『俺は前からお前に溺れてんだよ』

と、返されてしまい

今度こそ本当に、息が詰まる程に

溺れてしまった。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





沖「で?どうだった?」



藤「う、ぇ・・・っく・・・

うるせぇよっ!!」



斎「はぁ・・・平助

男がそう簡単に泣くものではない」



山「まあ、気持ちは分かるけど、な」



藤「っ・・・ひでぇよ、総司!!

知っててなんで、確かめてこいなんて」



沖「だって、僕らが何言っても

結局「俺は信じねえからな!」とか

何とか言ってずるずる引きずって

結果後で現実を突きつけられて

何倍ものダメージ受けるんでしょ?

だったら、傷は浅い内に、っていう

僕らの優しさなんだよ」



藤「そうかも、しんねぇけど

・・・っつうか、総司の場合

単に楽しんでるだけだろっ!!」



斎「平助・・・総司に何を言っても

無駄だぞ」



山「この人はこういう人なんだから」



沖「随分な言われようだけど・・・

まあ、概ね間違ってないし?

でも、良かったでしょ?

幼馴染の抱えてるものが知れて

これで今日からは

ぐっすり眠れるんじゃない?

あ、でも、別の意味で眠れないか

・・・くす、大変だね」







何故にこうも人の苦しみに

楽しみを見出すのか・・・。

っていうか、先程の幼馴染と

この学園で有名も有名の

鬼の教頭との甘い睦言が

今もなお脳裏をよぎり

俺にチクチクとダメージを

与え続けている。

目の前の楽しげな総司と

両隣から憐れむ視線を向ける

一くんと山崎くんに

ほんの少し慰められながら

ぐいっと涙を拭った。



橙色に染まる帰り道

茜色の空を見上げた。

俺の淡い初恋が

儚く散ってしまった、初秋。









〜終〜


 

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