薄桜鬼

□新妻の必殺技
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「歳三さん、そろそろ休憩に

されてはどうですか?

お茶を淹れなおしましたので」



「ああ・・・ありがとう」



「いいえ。お茶受けに

先日近藤さんからいただいた

水羊羹をご用意しました。

糖分を適度にとられた方が

お仕事も捗ると思います」







リビングのガラステーブルに

先日の小テストとノートパソコンを

乱雑に広げている。

小テストは思いのほか

皆できが良く

俺がラインとしていた点数以上の者が

ほとんどだったので安堵した。

まあ、テスト前に赤点者への

鬼のような補習内容と

追加のペナルティーで

脅したことが相当効いているんだろう。



それでも、今回は2年に向けたもので。

それはつまり、アイツも対象者であり

案の定アイツは、いつものように

やらかしてくれた。

白紙+落書き、そして・・・

俺の可愛い嫁への思いの丈を

ツラツラと書き綴っている。

俺の苛々は頂点を優に超えて

もう、苛つく気力さえない。

この答案を最後にまわしたことで

他の仕事は滞りなく済んでいた。

これは吉を意味するのか

果たして凶を意味するのか。

目の前の答案を睨みながら

教師としての怒りと

夫としての苛立ちと

両方の憤りが溢れて来る。



そんな俺を見かねたのか

仕事に行き詰ったと思ったのか

可愛い嫁がいつものように

俺好みの茶を淹れてくれた。

昔からのこの絶妙なタイミングと

心配りに俺の心がスっと晴れていく。

ニコニコと愛らしい笑みを浮かべ

ちょこんと俺の隣りに腰を下して

愛くるしい瞳で見つめられ。

茶をズズっと啜りながら

どうにも押し倒してしまいたい

衝動に駆られてしまう。







「歳三さん?大丈夫ですか?」



「ん?何がだ?」



「お疲れのようですが・・・

お仕事はまだかかりそうですか?」



「・・・いや、この答案の

採点が済めば・・・」







そう。この答案の

むかつく答案の採点が済めば

俺の仕事は終わりだ。

だが、これをどう採点する?

っつうか、こんなもん

どうしようもないだろ。

嫁への他の男の想いなんざ

これ以上見たくもない。

いっそ丸めて捨ててしまいたいが

教師としての俺がそれを良しとしない。



この行き場のない感情に

大きな溜息が零れ落ちた。

すると、ふいに頬に温もりを感じた。

気づけば先程まで隣りに居た

嫁が細い手を伸ばして

俺の頬に触れていた。







「千鶴?」



「あの・・・私ではお手伝いは

できないと思いますが

せめて、疲れを癒せたらいいなって」



「・・・・・・」



「私にできることは、ありませんか?」







昔から・・・そう、昔からだ。

いつもコイツはそうだった。

俺の役に立ちたい、俺の為に

俺を支えたい、俺の傍に

それだけを考えて

それが己の望みだと言って。

そんなコイツに俺は

いつだって惹かれて、魅了され

欲しているんだ。

ああ・・・愛しい、と

何度告げれば良いのだろうか。

この溢れる気持ちをどうしたら良い。



無意識に俺の頬に触れる手を掴み

そのまま強く抱きしめた。

この甘い香りと温もりと感触と

全てが俺の癒しであり

また、活力でもあり。

柔らかな頬に触れると

朱色に染まる肌が堪らなくて

唇を寄せて熱を感じる。







「はぁ・・・・・・千鶴」



「んっ・・・くすぐったい、です」



「我慢しろ」



「っ・・・あの・・・

私にできることは・・・」



「お前はそのままでいい」



「え?」



「お前が傍にいるだけで

俺は癒されてるっつってんだ。

だから、黙って俺の腕ん中にいろ」



「っ、でも・・・」



「今、お前を愛でて疲れをとってんだ。

お前でも邪魔はさせねえからな」



「・・・でしたら・・・」



「ん?」



「・・・歳三さんの良いように

・・・私を好きにして下さい」







潤んだ上目使い。

より赤く染まった頬。

震える唇。

腕の中におさまった愛しい嫁。

こんなご馳走が目の前にあって

手をつけねえなんざ男じゃねえ。



可愛い、可愛い新妻の誘惑に

抗えるはずもなく。

俺は千鶴を抱きあげると

さっさと寝室へと向かった。





仕事はアレで終わりにして現在14:30。

夕食は遅めに二人で食べれば良いし

たまには外食も良いだろう。

今はゆっくりと千鶴を味わいたい。










〜終〜

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