薄桜鬼

□あの娘の心に住まう鬼
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今日も今日とて、ここ新選組屯所内は

穏やか、とは言い難いが

大した事件もなく

ゆったりとした時間が流れていた。

そんな今だからこそ

幹部達もまたゆとりがあり

自身の時間を持つことができる。

そうなれば、愛しのあの娘と

距離を縮めたい、と思うのは

至極当然なこと、なのかもしれない。



巡察から帰ってきた藤堂は

片手に持つ土産を

頬を緩ませながら見つめ

きょろきょろと何かを探している。

すると、前から着物を抱えた

千鶴がやって来た。

途端に藤堂はあからさまに

喜びを露にしていた。







藤「千鶴〜!」



「あ、平助くん、お帰りなさい」



藤「ただいま!今、時間あるか?」



「え?」



藤「お土産に団子買ってきたんだ。

一緒に食べようと思ってさ」



「ごめんなさい。

今から洗濯物を干すところなの」



藤「え?今朝干してなかったか?」



「うん、皆さんの分は干したけど

土方さんがね、徹夜明けで

さっき体を拭いて着替えられたから」



藤「ああ・・・そう・・・」



「だから、ごめんね?」







そう言って土方の物であろう着物を

どこか嬉しそうに抱えながら

廊下をぱたぱたと駆けて行った。

用事があるなら仕方がない、と

広間の方へ向かった藤堂。

そこには、原田、永倉がいた。







原「よぉ、今戻ったのか?」



藤「・・・うん・・・」



永「なんだ?えれぇ暗い顔してよ。

んな顔してっと、幸せが逃げちまうぞ」



藤「幸せ・・・・・・

なあ!!ち、千鶴、ってさ」



永「千鶴ちゃん?」



原「千鶴がどうかしたのか?」



藤「あ〜・・・いや、さ・・・

・・・ぁ・・・こ、これ!!

食いながら、聞いてほしいんだけど」







改まってこちらに集中されながら

すらすら話せるようなことではなく。

藤堂は千鶴へと買ってきたが

無駄となった土産の団子を

二人に差し出した。

とにかく何かの片手間程度で

聞いてくれたらと

そう思っての咄嗟の行動だった。

勘の良い原田は

団子を受け取ると早速食べ始め

永倉にも2〜3本渡して

食べるよう促した。







原「で?どうしたんだ?

千鶴に振られでもしたか?」



藤「ばっ!?ち、違ぇよ!!」



永「じゃあ、どうしたってんだ?」



藤「うん・・・

最近さ、千鶴変じゃないか?」



原「何が変なんだ?」



藤「だってさ!

前までは用事の合間見て

俺とか他のみんなとさ、話したり

団子食ったりって休憩してたのに。

最近、声かかえても絶対に

『ごめんなさい、土方さんが』って。

今日だってそうだよ。

土方さん、土方さん、土方さん・・・

何か土方さんばっかずりぃよ!!」



原「ああ・・・ようするに嫉妬か」



永「でもよ、俺も思うぜ。

最近やたらと土方さんに

べったりっつうか

土方さんが千鶴ちゃんを

離さねえってぇのか」



藤「だろ?」



原「・・・気になるんだったら

本人に直接聞いたらいいじゃねえか」



藤・永「直接?」







と、原田の一言で

三人は洗濯物を干しているであろう

千鶴の元へと向かった。

今日は良く晴れている為か

ずらりと干された洗濯物。

その合間に見慣れた着物が見え

ふわりと風に舞う衣類の陰から

目的の人物が見えた。







永「おっ、いたぜ、千鶴ちゃん」



藤「ホントだ。ちづ・・・」



「千鶴!」



「はい」







藤堂が呼ぶ前に重なった声。

千鶴を呼ぶその声はよく知った人物。

我らが鬼の副長こと土方だ。

廊下の角となっている為

向こうは藤堂達三人には

気付いていないようだ。

千鶴もまた気付いていないようで

機会を逃した藤堂は

声がかけづらくなってしまい

三人そろって様子を伺っていた。



そんな藤堂達三人に気づかず

土方は自室の障子を開き

空気の入れ替えを行っていた。

そして、縁に出て

てきぱきと洗濯物を干す千鶴に

小さく笑みを浮かべ声をかけた。







「悪いな、追加で洗濯させちまって」



「いいえ、土方さんこそ

お休みにならなくて大丈夫ですか?」



「大丈夫だ・・・って

言いてえとこだが

腹がすいちまって

仮眠もできねえんだ」



「ふふっ・・・

お食事も用意してますので

ここが終わったらお持ちしますね」



「ああ、すまねえ。

・・・なあ、千鶴。

アレ、付けてくれねえか?」



「アレですか?」



「ああ」



「くす・・・ちゃんとご用意してます。

きっとご所望だと思いましたので」



「ああ、頼む」



「はい!」







元気の良い千鶴の返事を聞いて

土方もまた笑みを返して。

自分が言う前に用意するという

千鶴の心配りに

気を良くした土方は

縁に座り込み千鶴の姿と

降り注ぐ温かな陽光を

堪能するのだった。










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