薄桜鬼

□夢よ、現よ
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「千鶴」



「はい」



「・・・」



「?・・・あの?」



「・・・千鶴」



「・・・はい」







目の前に居るのは

愛してやまない彼女。

俺が心底惚れた女は

今日もいつもと変わらず

こうして俺の身の周りの世話を

嬉しそうに行っている。



常日頃から思っていた。

他の連中にもその優しさを見せ

与えて、振りまいて。

おまけに愛らしい笑顔付きで。

そんなもの、俺にだけでいい。

俺にだけその笑顔を向け

俺にだけその優しさを見せ

俺にだけその鈴の音のような声で

囁いてくれればいい。

要するに嫉妬と独占欲の塊だ。

自分でも嫌になる。

鬼の副長などと言っても

アイツらと変わりやしない。

こんな子供じみた欲塗れで

自分だけのものにしたいと

心が騒ぎたてるなど。



手を伸ばせば触れられる権利を

俺は彼女からもらっている。

だが、その権利だけで縛るにも

限界というものがある。

それに・・・

彼女の笑顔を曇らせたくはない。

ただでさえ、その身を預かり

不自由を強いているというのに

これ以上、彼女を縛りつけるなど

本当ならしたくはない。

それは俺の僅かな良心からくる本音。

それでも、この溢れる想いは

彼女の全てを手に入れたい、と。

ただその欲しかない。







「?あの、土方さん?」



「・・・千鶴」



「はい・・・」



「・・・もし・・・」



「?」



「・・・もし、俺が・・・

お前が欲しいと言ったら、どうする?」



「え・・・」



「もし、お前の全てが欲しくて

どうしようもねえんだと

そう言ったら、お前はどうする?」



「どうすると言われましても・・・

わ、私と土方さんは、こ、恋仲で

・・・も、もう、私の全ては

土方さんのものですよ?」



「ああ・・・それでも、だ。

お前の全てを手にできるわけじゃねえ。

俺はな、お前の身も心も・・・

これから先の時間も

お前が携わる全てのもの

お前の全てが俺と繋がってほしい。

お前の全ての行きつく先が

俺であってほしい」



「っ・・・」



「・・・そう言ったなら・・・

お前は、その重みに耐えられるか?」







自分との年齢差を考え

置かれている状況や立場を考え

今言った己の願望は

彼女への負担に他ならない。

こんなにも重い気持ちを

彼女へ与えてしまうのは

本当なら避けるべきことだと

分かりながらもどうしようもない。

そもそも恋情というのは

理性でどうこうできるものではない。



言葉につまった千鶴の頬に

その温もりを確かめるように触れ

そのまま包み込んだ。

この温もりが

俺にとってどれ程愛しくて

どれ程支えられているか。

きっと彼女は思いもしないのだろう。







「・・・だめ・・・です」



「・・・そうか」



「・・・っ・・・

そ、そんなお言葉・・・私なんかに

言っては、いけません、よ?」



「千鶴?」



「恋仲になれて、とても幸せで

これ以上なんてないという程に

・・・とても、満ち足りているのに

それなのに、あんな風に言われたら

・・・私・・・期待して、しまいます」



「期待?」



「・・・あんなっ・・・

あんな、風に・・・私が欲しいなんて

まるで・・・まる、でぇ・・・」







涙を浮かべながら必死に耐える千鶴を

そっと抱き寄せれば

しがみつき顔を埋める肩に

溢れているだろう雫の温もりを感じた。

彼女のコレの意味することは

はっきり言って分からない。

予想どおり、受け入れられなか。







「千鶴、すまねぇ・・・」



「私っ・・・で、よろしいんですか?」



「あ?」



「私は、特別秀でたものもなく

ましてや普通の人でもない。

そんな私で・・・」



「千鶴」



「っ・・・」



「俺は、お前が良い。

いくらお前でもな

俺の惚れた女を蔑むようなこと

言うんじゃねえ」



「・・・すみません」



「他の誰が何を言おうが

俺にはお前しかいない。

お前以外、いらねえ・・・

だから、千鶴」







ほんのり赤く染まる頬を

幾重にも伝う涙を拭いながら

唇を重ねる間際に告げた。

俺の望む、その一言を。







「・・・俺の嫁に、なれ」












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