薄桜鬼

□護り手
1ページ/2ページ







下校時間を知らせる

チャイムが響く中

一瞬止まった手を

再び動かす。

書類の束を左側の

山積みとなった書類の

一番上に置いて。

右側にある最後の書類に目を通す。

すると、コトリと机の端に

マグカップが置かれた。

視線を上げると

二コリと柔らかく微笑む

自身の想い人がそこにいる。







「悪いな、千鶴。

お前まで残らせちまって」



「いえ、気にしないで下さい。

私は会長のお手伝いができるので

残ることができて喜んでいるんですから」



「はぁ・・・そんなこと言うのは

お前くらいだよ」



「・・・他に、いらっしゃったら

困りますよ」







プクっと頬を膨らませる

可愛らしいその姿に

仕事のことをうっかり忘れそうになる。



生徒会長である俺と

生徒会の書記である千鶴とは

幼い頃から家族ぐるみで交流がある幼馴染。

そして・・・互いの両親が決めた

許嫁だったりもする。

まあ、そんなことがなくても

俺は千鶴に惚れていたし

千鶴も俺を想ってくれていただろう。

許嫁だかじゃなくて

俺と千鶴は心から想いあっている。

だから、こうして

変な輩に手を出させない為に

まだ一年の千鶴を生徒会に入れ

俺の傍に置いている。



俺がじっと見つめていたからか

ほんのり頬を染めて

こてんと首を傾げて・・・。

もう、これは襲ってくれと

言ってんじゃねえのかってくらい

可愛いくて仕方がない。

さっさと仕事を片付けて

千鶴とイチャイチャしたい。

今日はどっちの部屋に行くか・・・

などと、書類に目を通しながら

頭の半分ではこの後の千鶴と過ごす

時間のことを考えていた。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「よし、これで全部だな」



「お疲れ様です、会長」



「ああ・・・」



「?・・・どうか、されました?」



「・・・もう下校時間も過ぎて

今はここで二人きり」



「?は、い・・・」



「・・・名前で、呼ばねえのか?」



「っ!!」







学校ではけじめをつける為

俺は「雪村」、千鶴は「会長」と

呼んでいたりする。

だが、二人きりで

しかも下校時間もとっくに過ぎて

誰も残っていないんだ。

俺はずっと「千鶴」って呼んでんのに

千鶴の方は「会長」って・・・。







「・・・つれねぇな」



「っ・・・ここで呼んでしまったら

普段も思わず呼んでしまうかも

しれないじゃないですか」



「・・・いっそ、呼んでも

いいと思うけどな」



「えぇえ!?」



「別に隠してるわけじゃねえだろ?

ほぼ全校生、教員が知ってんだから

今更けじめも何もねえだろ」



「そんな風に言われても・・・」







と、その時。

急に教室の、窓の向こう側。

つまり外がまぶしいほどに光り

幾らもしない内に大きな音が響いた。

朝からの雨は知っていたが

まさか雷までとは思わず

空を見つめて。

あることを思い出し

千鶴をぱっと振り返ると

案の定、その場にうずくまり

カタカタと震えていた。

千鶴は、雷が大の苦手だ。







「千鶴」



「ぅ・・・歳さぁ〜ん!!」



「ほら」



「う・・・ふ、ぅうう」



「大丈夫だ」







半泣き状態の千鶴を立たせると

椅子に座った俺の膝に

千鶴を乗せてそっと抱きしめた。

気休め程度だが

なるべくその頭を抱き寄せて

音が聞こえないように耳を塞いでやる。

そして、背中もゆっくりさすってやると

すぐに落ち着いてくる。

雷の時はいつもこうしてやってるから

千鶴も雷の時、天気が悪い時は

必ず俺の所へやってくる。

千鶴には悪いが

それが少し・・・

いや、かなり嬉しかったりする。

惚れた女に頼られて嬉しいのは

当たり前のことだろ。



しばらくそうしていると

いつの間にか雷は遠のき

雨も止んでいた。







「千鶴」



「・・・ごめんなさい、歳さん」



「かまわねぇよ。

いつものことだろ?」



「でも、お天気が悪くなる度に

歳さんにご迷惑を・・・」



「んなこと思っちゃいねえよ。

どちらかってぇと・・・

お前を堂々と抱きしめられる

良い口実になってっから

俺としても助かってんだぜ」



「なっ・・・!?」



「んな怒る程でも・・・」



「・・・そ、そんな口実、なんて

・・・私は歳さんの許嫁、なんですよ。

抱きしめる理由は、それじゃあ

ダメ、ですか?」



「・・・」







つまり、アレか?

許嫁って理由で抱きしめて良いなら

いつでも、どこでも

抱きしめていいと

そういうことだよな。

自然と緩む頬は仕方がない。



ならば、と・・・

さっさと帰ってイチャつきたい俺は

千鶴の荷物もまとめて持って

千鶴の肩を抱き寄せつつ

帰路を急ぐことにした。

調度、今日は金曜日。

時間はたっぷりあるからな。

とことん「愛し合う」ことに決めた。












〜終〜

next.あとがき


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ