華鬼

□揺れる花弁
1ページ/1ページ







シンシンと降り続く

真っ白な綿。

見たことがない程に

降り積もっていくその様子を

飽きることなく

窓にへばりついて見つめている。



そんなに面白いものなのか、と

華鬼は神無の後ろから

ギュっと抱きしめながら思った。

華鬼としては

こうして抱きしめさせてくれるから

問題ないといえばない、が。

せっかく二人でいるのだから

もう少し自分に

構ってくれてもいいのでは?と

少々ムスっとしてみせる。



一方神無はといえば

外の雪を見ていると思いきや

実はそうではなかったりする。

実際に雪を見ていたのだが

こうして華鬼に抱きしめられてからは

窓ガラスに映る

自分を見つめる華鬼に戸惑っていた。

その表情はとても優しく

愛しげに自分を見つめている。

そして、その瞳の奥に秘められた

チラつく欲にも気づいた。

そんな華鬼に鼓動は速くなるばかりで

どうすれば良いのか

分からなくなっていたのだ。

それでも・・・止めてほしい、とか

離してほしいという

そんな拒むようなことは

全く考えていない。

むしろ受け入れようとしているが

如何せん神無は饒舌な方ではなく

こういう時何と言葉にすれば良いのか

自分から、などはしたないのではと

グルグルと考え込んでいた。







「?・・・神無?」



「っ・・・は、はい!」



「・・・声、裏返ってるぞ。

・・・どうした?」



「え・・・あ、あの・・・え、と」



「・・・ん?」







戸惑う自分に対して

激しく甘く問いかける華鬼。

そんな蕩ける優しさに

全身が熱くなっていく神無に

抱きしめる華鬼は気づき

優しさから一変し

その笑む表情は

艶を帯びたものへと変わった。

窓越しにその変化に気づき

神無はピクリと体を震わしたが

それは、先への期待から。







「・・・神無?」



「っ・・・あ、の・・・」



「・・・神無」



「っ!?・・・ん・・・ふ、ぁん」







くいっと顎を掬われ

後ろから覆うように口づけられた。

急な深い濃厚な口づけに

未だ慣れない神無は

息を苦しげに漏らしながらも

甘い音を奏でることしかできない。

神無の声音に耳から煽られ

感触と熱とで

唇と体からも煽られて

立ち香る芳醇な香りに煽られて

正に神無の全身に煽られる。

華鬼はいよいよ理性という枷を

外そうか・・・

そう考えた時。





−ピンポーン−





聞こえるインターホンに

二人同時に固まった。

だが、華鬼はいち早く動き出し

口づけを再開する。

突然の来客に神無との甘い時間を

邪魔されてたまるか、と。

しかし、神無にしてみれば

扉があるとはいえ

すぐそこに誰かがいるわけで

訪問を知らせるチャイムが鳴ったのなら

すぐにでも出なければと

そう思うわけで。

だが、神無の弱々しい抵抗で

中断してくれる程

華鬼の欲というのは甘くはない。



更に抱き寄せ深くなる口づけ。

このまま呑まれてしまっても

いいのかもしれない・・・

そんな風に神無も呆ける頭で

考え始めた。

そんな神無の変化に気を良くした華鬼は

傍にあったソファーへと

神無の体を横たえた。

荒ぶる欲に任せず

決して乱暴にはせずに。

優しく神無を扱うその優しさに

キュンとときめいてしまう神無も

華鬼が大好きで堪らないらしい。



さあ、これから二人だけの甘く

めくるめく官能の世界へ・・・。

と、行きかけたその瞬間。







光「おい、いるんならさっさと・・・」



水「珍しく鍵、開いてた・・・よ」



麗「二人とも、どうしたん・・・で、す」



「・・・・・・」



「・・・っ・・・!?」







突然開かれたリビングのドア。

そこから入ってきたのは

光晴、水羽、麗二の三人。

普段なら鍵をしっかりとかけている。

だが、今日はたまたまというのか

運悪くというのか

鍵を開けたままにしていた。

己の失態に

それ以上に、礼儀のないこの三人に

怒りが最頂点へと達した華鬼が

今まさに爆発させようとした。

その時・・・。







「ち、ちち違うんです!!

あ、あの、えと・・・

ち、違うんですぅ!!」



「!?」



光・水・麗「へっ!?」







急に体を起して『違う』と繰り返し

言いわけを涙ながらに始めた神無。

その慌てっぷりも

その大きな声も

いつもの神無からは考えられず。

余程見られて恥ずかしかったのだろうが

その、初めての姿に

唖然とする三人への怒りが

若干減少した華鬼は

密かに苦笑を浮かべると

再度怒りを露にして向き直った。







「・・・殺されたくなかったら

今すぐ出て行け」



光「んな!?おまっ・・・

真昼間から神無ちゃんに何を・・・」



水「はいはい、光晴。

面倒なことになる前に退散するよ」



麗「すみません、神無さん・・・

華鬼。ほどほどに、ですよ?」



「・・・・・・ちっ」







あっという間に去っていった三人に

ほっと胸を撫で下ろした華鬼。

未だグスグスと俯きながら

涙ぐむ神無をそっと抱き寄せ

柔らかく頬を包み顔を上げさせた。







「神無」



「っく・・・華、鬼ぃ」



「すまない・・・

俺のせいで恥ずかしい思いをさせた」



「え?・・・華鬼のせいじゃない。

私が、今朝ゴミを出した後

鍵を閉め忘れたから・・・」



「いや、俺が確認していれば

良かったんだ。

・・・いや、そもそも

人の家に勝手に上がり込んでくる

アイツらが悪い」



「そ、んな・・・」







そんなことはない、とは言いきれず

思わず口を閉ざしてしまった。

神無の髪を優しく梳きながら

濡れた頬に口づけを一つ。

伝う雫を辿るように唇を這わせ

綺麗に拭っていく。

最後にと目尻に口づけると

華鬼はペロリと自身の唇を舐めた。

その様が酷く妖艶で

神無は体の熱を再燃させてしまった。



再び官能的な雰囲気に包まれ

今度こそめくるめく世界へと

互いを誘うように

激しい口づけを交わす。

が、その前に、と。

急に立ちあがった華鬼に

小首を傾げる神無。







「華鬼?」



「・・・また、邪魔されたら

たまらないからな。

鍵、閉めてくる」



「あ・・・うん」







鍵をしっかりと閉めた後

確認を行って

リビングへと戻った。

華鬼がドアを開けるよりも先に

神無が開いたようで

入口には神無が立っていた。

驚きつつもその華奢な体を抱きしめ

少し急かすように寝室へと導いた。







「こっちの方が落ちつくだろ?」



「で、でも・・・」



「何だ?」



「もうすぐ夕食の準備を・・・」



「・・・後で俺も手伝う。

だから・・・」







もう限界とばかりに

そのまま神無をベッドへと

押し倒してしまった。

そこからは、神無も

思考も体も蕩ける程に愛されて。



そんな二人の熱を冷ますかのごとく

外では未だ振り続ける雪が

白く、白く染めていた。











〜END〜


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ