華鬼

□彼の災難〜麗二の場合〜
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*麗二×もえぎ前提





「あ・・・」



「・・・・」



「まあ・・・」



「神無さん、と、華鬼も買い物に

来ていたんですね」







もえぎさんから

買い物に付き合って欲しいと言われ

こうして街中へ出てくると

しばらく二人で出かけることが

なかったと気づかされた。

日頃物腰が柔らかくも

自分の意思をはっきりと告げる彼女。

だが、心の奥はぐっと秘めたまま。

ちょっとやそっとでは

吐露することがない。

そんな彼女に少し寂しさを覚えるも

そうさせているのは

他でもない自分自身と分かっている。

言葉にはされていないが

きっと、こうした二人の時間が

欲しかったに違いない。

自分の願望抜きにしてもそう思う。



そして、街中でどこか楽しげな

彼女の横顔に満足しながら

歩いていると・・・。

前方よりよく見知った二人と

ばったり出会ってしまった。

そのまま数秒、沈黙が流れるが

まだ寒さの残る外気に触れていては

彼女達が冷えてしまってはいけない。

ということで、今は・・・。







「あの・・・ありがとう、ございます」



「いいえ、いいんですよ?

私達の方こそ

二人のお邪魔じゃないかしら?」



「いえ・・・特に予定はなくて

華鬼と、散歩がてら

今日の晩御飯のお買い物をしようって」



「そうなんですか」







近場のカフェに入って

もえぎさんと神無さんがほのぼのと

会話を楽しむ光景は

なんとも微笑ましい。

だが・・・一方のこちらの空気は

如何なものか。

向いに座る華鬼と私は

まだ言葉を交わしてはいない。

三翼に対する攻撃的な空気はないが

今の華鬼を見る限り

目前の私は無視されているのだろう。

というよりも、神無さんにしか

意識が向いていないとも言える。

現に、会話に夢中の神無さんを

見つめる華鬼の表情はとても穏やかで。

運ばれてきた紅茶も

神無さん自身より早く

砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。

砂糖もミルクも彼女に聞かなくとも

好みをよく理解しての華鬼の行動。

その様子を見て、どこか安堵を覚えた。







「ありがとう、華鬼」



「熱いから気をつけろ」



「うん」



「・・・・・・」



「・・・どうしました?」



「いいえ。麗二さんは

して下さらないのかしら、と

思いまして」



「・・・砂糖なしで、ミルクたっぷり

でしたよね?」



「ふふ、はい」







普段、彼女から言われなくとも

率先して、まあ華鬼のように

振る舞う私だが

今日は目前の若い恋人達に

気をやり過ぎていたようで。

彼女への注意の仕方が

疎かになってしまった。

ミルクをたっぷり入れたコーヒーを

彼女の前へ差し出すと

綺麗にはにかんだ彼女から

謝礼の言葉を述べられた。

ほっと、満足して視線を前に向けると

思わず目を見開いて固まってしまった。

内心では大きく驚いているも

表面には出さないように。







「神無、苺食べるか?」



「え、でも、華鬼のケーキに

ついてるものだから・・・」



「俺はいい。ケーキの方だけでいい」



「・・・ありがとう」



「ああ・・・ん」



「え・・・」



「口を開けろ」



「っ・・・う、うん・・・あ〜ん







華鬼が自分の皿のケーキから

苺をフォークで刺して

神無さんにあ〜んをしている。

この衝撃的な光景に

驚かずにいられるはずもない。

そもそも、華鬼がケーキセット

というのもミスマッチであるが。

それは、神無さんが

二種のケーキで迷っていた為

華鬼も一つを頼むことで

二つとも食べれるようにと

配慮してのことだ。

そこまではまだ大丈夫だったのに。

目の前で照れながらも嬉しそうに

華鬼から差し出された苺を

パクリと口に入れた神無さんは

何とも少女らしく愛らしい。

そんな様子に華鬼も

普段私達には見せない

柔らかい笑みを浮かべていた。







「はぁ・・・あてられる、とは

こういうことを言うんですね」



「あら、微笑ましくて

良いじゃないですか」



「・・・そうですか?

でしたら、私にもしてくれますか?

あ〜・・・」



「麗二さん。

良い大人が何を言ってるんですか?」



「・・・・・・冷たいですね」



「時と場合と人によるものですよ?

ああいうことは」







ばっさりと切り捨てられてしまい

彼女の頬笑みに逆らうこともできず。

自分達より年若い目前の恋人達を見つめ

羨ましく思いつつ、小さく溜息を吐き

ブラックのコーヒーを啜った。









〜END〜


 

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