華鬼

□拍手(4月)
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よく晴れた空を見上げながら

洗濯物を干していると

ベランダのプランターに植えた

チューリップが視界に入った。

赤、ピンク、黄色

春を滲ませるその色どりに

思わず笑みが零れてしまう。

ふと、室内に視線を向けると

ソファーでくつろぐ華鬼がいる。

新聞を読んでいるその横顔に

トクンと大きく跳ねた胸を自覚し

急に熱くなる顔を

どうすることもできなかった。



なかなか治まらなかった鼓動も

洗濯物を干し終える頃には

静けさを取り戻していた。

ほっと安心した私は

先程見ていたチューリップに

水をあげようと室内に戻った。

そして、再度ベランダへ戻ると

丁寧に水をやる。

やりすぎに注意しながら

あげていると

背後から急に抱きしめられた。







「きゃ・・・」



「・・・綺麗に咲いたな」



「うん・・・可愛い」



「・・・ふっ・・・そうだな」



「いろんな色があって、春らしくて」



「・・・・・・」



「?華鬼?」



「この花も、まあ可愛いが・・・

お前の方が格別に可愛い」



「!?!!」







背後から、しかも耳元に囁かれた

その何とも甘い囁きに

全身が熱くなってしまった。

いきなり何てことを言うのだろう。

しかもこんなにも平然と。

眉根を寄せて情けなくも

懇願に近い視線を背中越しの彼へと

向けてみたけども。

やめて、という意思が

果たして届いたのだろうか。

私の顔をしばらく見つめてから

後ろの彼は微笑んでくれた。

でも、そこには意地悪な笑みも

多分に含まれていて

背後から顎を掬われて

されるがままに薄く、熱い唇を迎えた。



瞳を閉じる瞬間に視界に入ったのは

思いの外に柔らかな表情の彼と

その向こうには

先程見上げていた

晴れ渡る青空があった。










〜END〜


 

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