Black Jack

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ぼんやりとソファーに座り

思い出すのは

数分前にとても嬉しそうに

帰って行った両親のこと。



私を治療してくれた

この男の人にお金を払わなくていいと

その代わりに私を置いていけと

そう言われ・・・。

否定することもなく

快く受け入れた両親は

私に二度と顔を見せるなと

トドメを刺して帰って行った。

どうしようもなくて

もう、悲しいのか、悔しいのか

辛いのか、安心したのか

嬉しいのか・・・

何も分からない。



体が揺すられて隣りを見ると

男の人が座っていた。

これから、私は自分がどうなるのか

少し考えてみた。

分からないけど、それでも

家にいたときよりも

ひどくはないと

何となく、そう思えた。







「まだ、お前さんの名前を

聞いてなかったな」



『・・・知世、です』



「知世か・・・良い名だな」



『あの、貴方は?』



「・・・ブラックジャック、という名は

聞いたことがあるかい?」



『!はい・・・噂だけ・・・

とても腕のいい医者で

多額の治療費を要求するとか』



「ふっ・・・ああ、そのとお・・・」



『やっぱり、噂は噂ですね』



「・・・どういうことだ?」



『先生はお金は要らないって

言っていたでしょう?

私の体を治療してくれて

とっても優しいです』



「・・・・・・」







ブラックジャック先生の名前を聞いて

驚いたのは事実。

でも、私にとっては優しい

目の前の先生が真実なわけで

自分が感じたことを信じるだけ。

自然と笑みが浮かび

久しぶりに笑ったかも、と

自分でまた驚いた。







「はぁ・・・お前さん、本気で

そんなことを言ってるのかい?

私は治療費代わりにお前さんを貰った

いわば人身売買と大差ないんだぞ」



『でも・・・先生は

私を治療してくれました。

それから・・・私を救ってくれました。

だから、先生になら

私は全部、あげてもいいです』



「・・・・・・はぁ・・・

無意識なんだろうが

無邪気というのも厄介なもんだ」



『?え?』



「いいか、そういうことは

他の人間、特に男には言うんじゃない。

いいな?

これからここで住むにあたっての

ルールその一だ」







思わぬ言葉に驚いた。

家族の元から離してくれただけでなく

ここに住んでもいいと

そう言ってくれた。

戸惑いの方が大きいけれど

喜びをまた大きくて

大きく頷いて返事をした。

そんな私に苦笑気味な表情を浮かべ

先生の大きな掌が

私の頭を優しく撫でてくれた。



最初から感じた先生からの温もり。

これは、家族愛を知らない私には

正しくソレなのだと信じていた。

でも・・・私は知らなかった。

愛情というのは

一つではないということを。










to be continued・・・


 

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