Black Jack

□02
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「ここが、知世の

部屋なのよさ」



『はい』



「わかやないことは

あたちに何れも聞いてね」



『ありがとうございます』







先生からここに住んでいいと

そう言われて数十分後。

何だか可愛らしい女の子が入って来て。

ただいま、と言ったところを見ると

この家の住人であることは分かった。

聞いてみると彼女はピノコちゃん。

私の二つ上で18歳。

彼女の姿にもいろんな理由があるみたい。

でも、敢えて聞かなかった。

私が知る必要があるなら

先生かピノコちゃんが

話してくれるだろうし

話してくれない今は

知る必要がないということ。

だから、私は深くは聞かない。

今目の前のピノコちゃんと

仲良くなれればそれでいいんだ。







『あの・・・ピノコ、お姉ちゃん?』



「へ?」



『あ、私よりも年上だから・・・』



「べつに気にしなくていいのに・・・

ピノコれいいのよさ」



『あ・・・じゃあ、ピノコ、ちゃん?』



「は〜い!」



『ふふ・・・あのね・・・

ピノコちゃんと先生って・・・』



「ぐふふ・・・あたちと先生は夫婦で

あたちは先生の奥しゃん!!」



『そうなんですか』







女の子も16歳から結婚できるっていうし

見ず知らずの私を受け入れてくれる

こんなに優しい女の子なら

先生とお似合いだと、そう思えた。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





ふと目が覚める。

夜中の2時。

深く眠ろうとすれば

体中の傷が疼いて

目を閉じると浮かぶのは

憎しみのこもった視線と言葉を

投げつける家族。

こうして離れていても

きっと、囚われ続けていくのかな。



眠れなくなった私は

誘われるように

そっと外へと出てみた。

先生からパジャマ代わりにと

先生の真っ白なシャツを借りた。

私にはとても大き過ぎるそれは

私の膝丈まであって

そのシャツ一枚で寝ていた。

今の時期、陽が沈めば

まだ肌寒さが残っていて

こんな格好のままでは

当然、とても寒かった。



それでも、眼前に広がる

真っ暗な闇に浮かぶ

散りばめられた数々の煌めき。

周囲に全く明かりがないから

とても鮮明に見える。

吸い込まれそうな程に惹かれるのは

きっと・・・私は初めて見たから。

夜空に星があるのは当たり前。

でも、そんな当たり前のことを

知識として知ってはいても

実際にこうして見上げて見たことなんて

きっと、今までなかった。



ここに来て、まだたった数時間。

その間に初めての経験を

たくさんした。

たくさん、くれた。

絶望の中、ただ根拠もなく

ひたすらに信じ続けた希望が

確かにここにはあった。







「お前さんは・・・

余程私の仕事を増やしたいようだな」



『!!・・・ぁ・・・先生』



「そんな恰好で外に出て

風邪をひいても文句は言えんぞ」



『ごめん、なさい・・・

でも・・・眠れなくて』



「・・・・・・そうだろうな」



『・・・先生・・・

ここは、いつでもこんなに

星が見えるんですか?』



「そうだな・・・この辺りには

この家しかないからな。

周りに余計な光がない分

はっきりと見える」



『・・・・・・先生・・・

私、ね・・・今日、初めて

星を見たんです』



「・・・・・・どうだ?

初めて見た、感想は」







言いながら先生は

そっと私に手を伸ばして

私の頬に触れた。

気づかない内にはらはらと

滴が幾つも零れていたようで。

でも、先生は何も言わないでいてくれて

そんな優しさに

また、熱い滴が湧きあがる。







『とっても・・・キレイで

何だか・・・たくさん、降ってきそう』



「ふっ・・・星降る夜も

その内、見られるかもしれんな」



『ホント、ですか?』



「ああ・・・

だが、今夜はこのくらいにしておけ

・・・行くぞ」



『あっ・・・あ、の・・・』







また、先生に抱え上げられた。

でも、今度は肩にではなくて

普通に横抱きで。

これって・・・

あの「お姫様抱っこ」っていうもの?



急な浮力間と視界の高さに戸惑い

つかまる所がなくて

思わず先生の首筋に

顔を埋めるように

ぎゅっとしがみついてしまった。

ふわりと香るタバコと先生の匂いと

小さく笑ったようで

温かい息が吹きかけられて

自分の行動にはっと気がついた。

でも、離れたくても

この状態では叶わないことで

ほんに気持ちだけでも

僅かな距離を取ろうとしてみた。

それも、ぐいっと

先生に抱き寄せられたことで

無駄な努力となってしまった。





連れて来られたのは

何故か私の為にと

用意された部屋ではなかった。

先生は何も言わずに

私を抱えたまま器用に扉を開け

そのまま体を使って閉めた。

室内にはベッドと大きめのデスクに

難しそうな本がずらりと並んだ棚と・・・

そこまで見て、ここが先生の部屋だと

ようやく気がついた。



先生は私をベットに下すと

自分もベットにするりと入ってきた。







『・・・先生?』



「今日だけ特別だ。

眠れるまで見ていてやる」







ふわりと腕の中に引き寄せられ

温かな布団に先生ごと包まれる。

先生の胸にそっと耳を当てると

トクンと穏やかな鼓動が聞こえ

それが何だか、とても安心できて。

そのまま幾らもしない内に

私はゆったりと微睡んでいくのだった。










to be continued・・・


 

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