Black Jack

□03
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腕に抱いた少女を覗き見ると

緩やかな寝息を立てていた。





仕事も一段落し

寝る前に知世の様子を見ようと

部屋を覗いてみると

ベッドはもぬけの殻だった。

リビングやキッチンなど

隈なく探してみたが

全く姿がなく

自分でも珍しく焦りを感じた。

すると、ふわりと冷えた空気が流れ

玄関が少し開いているのが見え

まさかと思いつつも

扉を開いて外を見てみると。

そこに知世はいた。



声をかけようとしたが

暗い空を見上げる彼女の横顔が

悲哀を滲ませたもので

一瞬躊躇われた。

しかし、その格好が

私のシャツだけという

薄着で・・・前傾姿勢をとる

その裾が少し上がり

夜目にも白く滑らかな太股が見えて

その美しさに見惚れてしまった。

はっと我に返った時には

傍に近寄り声をかけていたが・・・。





熟睡している知世の

頬にかかる髪をそっと払い

滑らかで柔らかな肌を撫でる。

その心地よい感触に

繰り返し手を動かしながら

昼間の彼女を思い出す。

実の親から受けたという

体中の目を背けたくなるような

幾つもの傷跡。

中には昨日今日にできたような

真新しい傷もあった。

だが・・・私も今まで

数多くの患者を診てきている。

彼女以上にひどい扱いを受けている者

無残な状態となった者

様々な患者がいた。

それなのに・・・何故かは分からないが

彼女には強く同調してしまい

強く惹かれるものがあった。

守りたいと、強く思ってしまった。



この感情は・・・いつぶりだろうか。

私にはもう無縁のものだと思っていた。

家族はピノコがいて

大切なものはそれで十分だと。

そう思っていたはずだ。

だが、彼女と決して長くはない時間に

交わした僅かな会話

僅かな関わりの中で

彼女の強い心と

相反する脆い精神を垣間見て。

そして、両親の彼女への接し方を

実際に目の当たりにして。

私は己の元へと彼女を

置くことを決意した。



傷ついた体と心を癒してやりたい。

できることなら

己がその源となれたならいいと

そう願ってやまないのは

私の心が彼女を求め始めているからか。







「ふっ・・・この私が

普通の男と何ら変わりないな」







思わず零れた自嘲の呟きと笑みは

抱きしめる彼女には

届いていないようで

ほっと安堵を感じた。

彼女の体が癒えるまで

彼女の心が安らぐまで

それまでは、この想いを

感づかれてはいけない。

知られないように

心の奥の奥へと

自制という名の幾重もの鎖をかけ

頑丈に抑えつけなくては。





今この瞬間でさえそうだ。

甘い香りと温かな抱き心地に

邪まな気に囚われないように

ひたすら睡魔を呼び寄せようと

そのことだけに集中した。












to be continued・・・



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