Black Jack

□08
1ページ/1ページ







最近の知世の様子がおかしい。

おかしいというか

完全に避けられている。

何かしただろうかと考え

何度も思いなおしてみても

原因らしい原因には思い当たらない。

ただ、一つ言えるのは

避けられ始めたのは

あの夜以降ということだけだ。







「はぁ・・・

まさか、私の気持ちに気づいたのか?」







彼女の求める安心する居場所

家族としての愛ではなく

一人の女に対する愛。

恋情というにはこの短い期間で

深く、濃くなりつつある。

だが、それを彼女へ伝える気など

さらさらない。

彼女は今なお眠りの中で魘されている。

日中は穏やかにしているが

夜になると包まれる闇に

思い出すのだろう。

そんな不安定で心細いだろう彼女に

私のこの想いを受け止めろなど

どうして言えようか。







「しばらく、時間を置くしかない、か

・・・・・・はぁ」










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





コンコン・・・



ノックの音にはっと気づけば

いつの間にか居眠りをしていたらしい。

手元には書きかけの書類。

自分で思う以上に

知世に避けられていることが

ショックだったとは。

大きく一つ溜息を吐くと

再度ノックが聞こえ

返事をしながらドアを開けた。







「はぁ・・・ピノコ

今日は仕事が終わるまでは

そっとしといてくれと言っただろ」



『あ・・・』



「・・・知世」







開けた先には今朝まで逃げ回っていた

知世がいた。

最近、まともに彼女の姿を見ておらず

久しぶりにその姿を見下ろした。

ここに来た時よりも顔色も良く

見上げて来る黒曜石のような瞳は

光の加減でキラリと光るようで。

長い黒髪は今日は後ろで結いあげている。

あまりにも病的に細かった体も

見た目に分かる程健康的に肉付いてきて

・・・と、そこまで考え

己の邪まな心に嫌気がさした。



ふと彼女の手元を見ると

両手で持たれたトレイの上に

コーヒーと大きめのケーキ。

生クリームなどが綺麗に添えられている。

彼女の手作りだろうそれを見つめ

再び彼女に視線を戻すと

照れなのかなんなのか

頬を一瞬で赤く染めていく。

泳ぐ視線さえ愛しくなる。







『あ・・・先生、あの・・・』



「入りなさい。

私に持ってきてくれたんだろ?」



『は、はい・・・』







彼女を招き入れながら

果たして彼女と二人きりとなる

この空間にて

私はどこまで自分を抑えられるのかと。

悟られないよう静かに考えていた。









to be continued・・・


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ