Black Jack

□09
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『ぁ・・・あの、ね・・・先生』



「・・・座ったらどうだ?

一緒に食べるんだろう?」



『え・・・』



「その為に二人分

用意してきたんじゃないのか?」







どこか戸惑いを見せる知世に

有無を言わせずにベッドへ座らせた。

だが、その直後に激しく後悔した。

知世が自分用にと持ってきた

紅茶のカップを両手で包みながら

私のベッドに腰をかけている姿。

塞がる両手では抵抗らしい抵抗なんて

できるはずもなく。

今の彼女なら私の自由に

触れることができる。

そんな考えが浮かんでは消え

また、新しく浮かび上がる。







『・・・先生・・・

・・・あの・・・ごめん、なさい』



「・・・何がだ?」



『ずっと・・・先生を避けちゃって。

先生は何も悪くないんです!

なのに・・・悪いのは、私なのに』



「知世」



『・・・はい』



「・・・私を避けていた理由を

聞きたいんだが

教えてくれないか?」







ずっと知りたかったことを

敢えて直球で尋ねた。

目を見開く彼女の零れ落ちそうな瞳は

煌めいて宝石のように美しく。

こんな状況でも見惚れる程だ。



驚き戸惑う知世をよそに

隣りに座り顔を覗きこんだ。

絡み合う視線と染まっていく頬。

視界に入る彼女の全てが

この心と体を蝕んでいくように

深く、深く浸食されていくようだ。

知世の傷が癒えるまで。

知世の心が安らぐまで。

そう心に強く誓ったはずなのに。

駄目だ・・・

この空間で、この距離で。

触れずに、近づかずに

感じずにはいられない。

私は、そこまでできた大人ではない。







「・・・知世」



『・・・っ・・・』



「顔をあげなさい」



『ぇ・・・』



「知世」



『・・・ぁ・・・っ・・・』



「知世、私の言うことが

聞けないのか?」







語調を少し強めて言うと

恐る恐るというように

ゆっくりと顔を上げ

上目使いで見上げてくる。

怯える様子は

猛獣を前にする小動物のようで

好ましく思えてならない。

そんな己の欲まみれな考えが

苦々しいことこの上ないが

仕方のないこととも思えている。



見上げてくる彼女の白く滑らかな頬に

そっと手を滑らせると

その何とも言い難い心地よさに

思わず喉を鳴らしそうになる。

欲しい、という

純粋な欲求が溢れだす。







「・・・理由を、聞かせてくれるか?」



『・・・っ・・・だ、め・・・』



「どうしてなんだ?」



『ふ、ぇ・・・っく・・・

だ、だって・・・せ・・・せん、せ、の

ひ・・っく・・・め、わくぅ・・・』



「・・・迷惑かどうかは

聞いてから私が判断する」



『で、も・・・ぅ・・・

言え、ません・・・ぅ、ふ、ぇ・・・』







涙を零す彼女は

そんな姿さえ美しく。

こんな彼女でさえも

ずっと私の傍に置いて、閉じ込めて

私だけのものにできたらと。

そう、思えてならない。









to be continued・・・


 

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