Black Jack

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私と先生がお互いに

気持ちを伝えあって

それから・・・

ちゃんと、恋人になって。

一つ、大きく変わったことがある。

それは、先生の愛情表現、というか

私へのスキンシップが

前よりも減ったように思う。



今までなら、移動する時には

私を抱えてくれていた。

でも、今は私が言っても

「自分で歩きなさい」って。

少しでも先生を感じたくて

手に触れるだけでも

さっと避けられてしまう。



もしかして・・・

私の勘違い?

やっと通じたと思ったのは

私だけだった?

先生が分からなくて

不安で、寂しくて。

どうすればいいのか分からない。







『・・・・・・先生』



「・・・どうしたんだ?」



『・・・寝ても、いいですか?』



「ああ・・・もうこんな時間だ。

休みなさい」



『・・・先生と』



「ん?」



『・・・先生と、一緒が、いいです』







前みたいに先生とくっついて

一緒に寝たい。

夜くらい先生を感じていたい。

そう思って言ったのに。

先生の表情は変わってしまって

まるで、私を咎めるかのように

怒っているみたい。

びくっと体を震わせてしまい

それでも、先生からの言葉を

ただ待っていると・・・。







「・・・・・・はぁ・・・

自分の部屋に戻りなさい」



『っ・・・!?』



「・・・知世」



『・・・・・・っ・・・は、い』



「!・・・知世」



『っく・・・お、やすみ、なさい』







溜息混じりに返ってきた言葉。

最近の先生を思い返して

苦しくて、悲しくて、辛くて。

滲む瞳を見られたくなくて

くるっと背を向けて

早く自分の部屋へ戻ろうと思った。

先生に呼びかけられたけど

今は振り返られなくて

そのまま出て行こうとしたのに。

出来なかった。

させてもらえなかった。







「・・・知世」







先生に腕を掴まれて。

部屋に戻るように言ったのは

先生なのに・・・。

どうして今、引き止めるの?

せっかく涙、我慢してるのに。

どうして?

何で?

私に触れてくれないの?

想いが溢れてしまう。







「知世・・・

こっちを向きなさい」



『っ・・・だ、め』



「向くんだ」



『っ!・・・ふっ・・・ぅ』



「・・・どうして、泣いてるんだ?」



『・・・って・・・

先生、どぉして?・・・何で

私に、触れて、くれないんですか?』



「っ・・・!」







驚いたような表情で

私を見下ろす先生を見て

また、悲しくなって。

とうとう涙が零れた。

止まらなくて、止められなくて。

先生から離れようと

背にある扉を開こうとした。

すると・・・

腕を強く引かれて

そのまま抱え上げられた。

前まで移動する時にしてくれてた

あの抱え方で。

そのままベッドへ下されると

先生は床に膝をついて

私の視線に合わせてくれて。

同じ視線の高さで見つめ合う。



相変わらず止まらない涙に

先生は冷たい指先を這わせて

その滴を掬ってくれた。

久しぶりの先生の体温に

胸がいっぱいになる。

それ程に、触れてもらえてなかった。







「・・・知世を

泣かせたいわけじゃない」



『じゃあ・・・どうして?』



「・・・私は、お前さんのように

純粋な想いで傍にいるわけじゃない。

傍にいるだけじゃ飽き足らず

触れて、穢すことを望んでいる」



『けが、す?』



「・・・お前さんが考えるような

優しいものじゃない。

汚して、傷つけてしまいかねない。

大切にしたいと思っているのに」



『・・・私を傷つけないように

今まで、触れなかったんですか?』







私の問いには答えずに

どこか辛そうな表情で

私を見つめる先生。

そんな先生が全てを語っている。

先生は、いつだって私のことを

思ってくれている。

そう分かってたはずなのに。

でも、ね・・・先生。

私、そんなこと望んでない。

私がずっと思ってたことは

きっと・・・。







『違う・・・』



「知世?」



『・・・先生、分かってないです。

私・・・私だって、そんなに

キレイじゃない』



「・・・・・・」



『先生になら・・・私・・・

傷つけられても、いいです。

汚されたって、穢されたって

・・・先生なら、何だっていいです』



「やめるんだ・・・

そうやって・・・絶対的に

私を許さないでくれ」



『どうして?

私、恋も愛も、よく分からないけど

でも・・・触れたいって

ずっと思ってました。

これって、先生の言う

穢す、ってことと、同じでしょ?』







そう、同じですよね?

先生の穢したい

汚したい、傷つけたい

その気持ちと

私の触れたい

触れられたい

温もりを感じたい

その気持ちと。

同じなんですよね?

だから・・・私に対する

その抱えてる気持ちとか

全部、私にぶつけてほしいって

そう思うんです。



私の言葉に目を見開いていた先生は

すっと目を細めると

私の頬を大きな掌で包んで

空いたもう一方の手で私を

優しくベッドへと横たえた。

ギシっと軋む音と共に

先生が覆い被さってきて

いつもとは違う先生の表情に

ゾクリと何かを感じた。







「・・・止めるなら・・・」



『止めません!

・・・止めないで、ください』



「はぁ・・・もう、止められないぞ」



『・・・はい』



「・・・知世」







耳元で囁かれた私の名前。

熱い吐息混じりのその囁きは

私の中の何かを溶かして

トロリと溢れさせた。

間近に感じる先生の温もりに

私はやっと触れてもらえる

その喜びばかりを噛みしめていた。











to be continued・・・



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