Black Jack

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『これ・・・って・・・』



「ろうちたの?知世」



『っ・・・』







ピノコちゃんと一緒に

買い物に出かけた帰り道。

ピノコちゃんお気に入りの

可愛いお店があるということで

そのお店に寄ってから

帰ることになった。

そして、そのお店に向かう途中。

私は分かりながらもあえて何も言わず

黙って小さな背中を追いかけた。

進む道は私が以前住んでいた家の前を

必然的に通ってしまう。

それでも、ピノコちゃんに

いらぬ気を使わせたくなくて。

ただひたすらに足を動かしていた。

そして、バクバクと激しく打つ

鼓動を意識しながらも

見覚えのある家の前へと来てしまった。

けれど・・・。







「ここ・・・売られてる?」



『・・・どうして・・・』



「あれ・・・あんた・・・

もしかして、知世ちゃん?」



『え・・・』







かけられた声にビクつきながらも

咄嗟に振り返ると

隣家のおばさんがいた。

向こうも驚きながら

私へと近づいてきた。







「しばらく姿が見えなくて

どうしたんだろうって・・・

近所の人達と話してたんだよ?」



『そう、ですか・・・』



「今、どこにいるんだい?

まさか、あの両親とまだ一緒に

住んでるなんてことは・・・」



「知世はあたちと先生と

一緒に暮らしてるのよさ」



『あ・・・』



「誰だい?この子は・・・」



『・・・私の家族です』







そう・・・ピノコちゃん

それから、先生は私の家族。

私の家族といえる人達は

ここに住んでいた人達ではない。

ピノコちゃんと先生だけなんだ。

何のためらいもなく口から出た言葉。

それが何よりの証拠。







「そうかい・・・

元気にやってるんだね」



『あのっ・・・どうして・・・

ここ、売りに出されてるんですか?』



「知世ちゃんを見なくなって

半年程経った頃にね・・・

夜逃げするかのように

急に引っ越して行ったんだよ。

誰も詳しい事情は知らないんだけどね

たぶん、奥さんが亡くなったことと

関係があるんだろうね・・・」







体が固まってしまって

上手く呼吸ができない。

ううん、今の自分の状態が

よく分からない。

奥さんって・・・それって・・・

つまり、私のお母さん、ってこと?



隣りでピノコちゃんが呼びかけて

おばさんが何かを言ってるけど

何も、何も私の中に入ってこない。

ただ・・・心の中で、ずっと、ずっと

先生を浮かべ、先生を呼んでいた。

何故かは、分からないけども。









to be continued・・・


 

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