Black Jack

□18
1ページ/1ページ







「じゃあ、先生。

確かにいただいて行きますね?」



「・・・二度と来るな」



「それでは、また」







軽快に閉められた扉を見つめ

あの女、愛菜から聞いた話を思い出す。



知世を私が引き取ってから

3ヶ月程過ぎた頃。

あの母親が徐々に

塞ぎこむようになったらしい。

原因は知世。

私の前でも投げつけていた、あの言葉。



“あんたなんてね・・・

私の子でもなんでもないわ”



そうは言っても

実際には血の繋がった親子。

ましてや自身の腹を痛めてまで

生んだ子供だ。

どんな言葉で痛めつけようと

どんな仕打ちで傷つけようと

親子である事実は変わらない。

だからこそ、その事実に罪悪感が

芽生えたのかもしれない。

母親は夫の言葉も、愛菜の言葉も

何も聞き入れようとせず。

たった一枚しかなかった

知世の写真を何も言わず

発狂などすることもなく

ただ毎日、毎日見ていたらしい。



それからさらに3ヶ月後。

知世を引き取ってから

調度半年が経ったその日。

母親は自殺したというのだ。

そして、父親と愛菜は二人

父方の実家へと移り住んだらしい。

元居た家は売りに出し

今では都心から離れた田舎暮らしで

父親は仕事も止め借金まで作る

落ちぶれ具合だと。

その為、姉である愛菜が

金をもらいに来たと、話していた。



どこまでが真実で、偽りなのか。

今の私には分からないが・・・

果たして、知世に

話すべきなのだろうか。

少なくとも、母親が死んだと

そのことだけは伝えた方が良いだろう。







「・・・ん?・・・雨か」







窓ガラスを微かに叩く音に

外を見てみると

雨が降り始め暗くなっていた。

ふと、時計を見れば

知世とピノコが

買い物に出かけてから

もう数時間経っている。

夕飯の買い物だけのはず。

例え寄り道をしたとしても

こんなに時間がかかることはない。

いつもならば。







「・・・いや、考え過ぎ、か」







私は知世に関しては

必要以上に過保護なところがある。

自分でも自覚する程だが・・・

今回も、私の杞憂であればいい。

だが・・・何だろうか

この何とも言えない嫌な予感は。

行き違いになっても困るからと

どうするか迷いに迷って

傘も持っていないだろうと

迎えに出ることにした。

車のキーと傘を3本手に持ち

玄関の扉を開けると・・・。







「たらいま〜」



「・・・帰ってきたか。

濡れただろ?」



「急にふってくゆから

いそいれ帰ってきたよのさ」



『・・・・・・ただい、ま』



「・・・知世?」



『っ・・・ごめん、なさい・・・

少し・・・休んできます』







部屋へ戻って行く知世後ろ姿。

声をかけた瞬間、泣くんじゃないかと

そう思う程に表情が歪んだ。

何かあったことは明らかで

それが何なのか。

これは予想でしかないが

多分、確信を持てる。

・・・家族絡みのことだろう。







「ピノコ」



「なぁに?」



「夕食ができるまで部屋にいる。

出来上がったら声をかけてくれ」



「は〜い」







ピノコは荷物を

キッチンへと持って行き

私は知世の部屋へと向かった。









to be continued・・・


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ