Black Jack

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ぼんやりした意識の中で

ふと見渡せばそこは私の部屋。

そうだ・・・先生に出迎えられて

何だか気分が悪くて

休もうと思って・・・それから。



部屋の真ん中で

座り込んでみて。

頭の中をぐるぐる廻るのは

今日聞いた事実だけ。





「・・・奥さんが亡くなった・・・」





私とあの人達とは

もう家族ではなくて。

血の繋がりはあるけれど

私は捨てられた。

もう一年以上になるのに

今更聞かされたところで

何の感情も湧かない。

・・・・・・はず。

なのに・・・それなのに・・・。







「知世」



『・・・・・・』



「・・・入るぞ」



『!・・・え・・・』







ぼんやりと考え込んでいたせいで

先生が入って来るのに

気づくのが少し遅れてしまって。

今のこの表情を見られてしまった。

入って来た先生も僅かに驚いた表情で

必要以上に見られたくない私は

とっさに顔を背けることしかできない。



何も言わずに先生はドアを閉めて

ひょいと私を抱え上げると

ベッドへ腰かけた。

突然のことへの驚きは少しで

いつものこの接され方に

どこか安堵する部分もある。

先生の膝へ座らされて

向かい合う形にさせられて。

どうしたって見られてしまう顔を

何とか隠したくて

無駄だと知りながら俯いていた。







「・・・・・・」



『・・・・・・』



「・・・・・・」



『・・・っ・・・先生?』



「・・・何だ?」



『・・・聞かないんですか?』



「・・・話せるのか?」



『・・・・・・』



「・・・言いたくなければ

言わなくてもいい。

無理に聞き出したいわけじゃない。

ただ・・・こんな表情で

一人で耐えるのはやめなさい」



『っ・・・・・・でも・・・』



「何の為に私がいるんだ」



『っ・・・!』







顔を上げると・・・

真直ぐに私を見つめる先生の

優しい瞳とぶつかった。

先生は、ずるい。

初めて会った時から

こんな風に私を見ていて

私の心を見透かして。

私が欲しい言葉、欲しいものを

真っ先にくれたのはいつも先生だ。



情けない表情な私の頬を

スルっと優しく撫でられて

その掌の大きさと温かさに

とうとう心と涙腺が緩んでしまった。

ポタっと先生の手に落ちた滴。

一度溢れ出たその滴を

今は止められない。







『っく・・・ひ、っ・・・』



「・・・・・・」



『ふ、ぅ・・・せ、んせぇ・・・』



「・・・ああ」



『・・・う・・・ぅ・・・』



「・・・我慢しなくていい。

こうしてるから、思い切り泣きなさい」



『ぅ・・・ふ・・・っく』



「知世・・・」



『・・・お、母さん・・・

死ん、じゃった・・・って・・・』



「・・・・・・ああ」







先生の首にしがみつくようにして

声を懸命に殺しながら

それでも零れ出る涙と想いは

先生にぶつけていた。

そんな私を丸ごと包み込むような

先生の腕と力強さと温もりが

今の私には苦しい程に沁みていく。








to be continued・・・


 

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