Black Jack

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泣きじゃくる彼女の体を抱きしめ

じわりと滲む温かい滴を感じる。

それが彼女が今曝け出す

気持ちそのものなのだろう。



しばらくは落ち着きそうにない彼女。

一旦、部屋を離れた私は

ピノコに知世が体調不良であると

そう告げ消化に良い料理を用意させ。

後は私が見ると告げると

私の分の食事も一緒に受け取った。

深くは聞いてこないところを見ると

ピノコも多少なりと

分かっているのかもしれない。



知世の部屋へ戻ると

私が出た時と変わらず

ベッドに座りぼんやりとしていた。

涙は止まったようだが

頬を伝っている滴はそのままで

拭う気力もないのだろうか。







「・・・食事だ」



『・・・ピノコちゃん・・・

一人で、作ってくれたんですね』



「お前さんが来るまでは

あの子が一人で家事をしていた。

気にする必要はない」



『・・・・・・先生』



「・・・・・・何だ?」



『・・・私・・・あの人を・・・

家族、だなんて・・・

思ってなかったんです』







あの人、が誰をさすのか等

聞かずとも分かる。

母親だろう。

とりあえずテーブルに食事を置き

私は先程と同じように

彼女の隣りに腰を下ろした。

すると、ぎこちなく

私に寄り添おうとしてきたので

これも先程と同じように

抱え上げ膝に座らせた。

今度は横抱きのままだが。







『・・・ぁ・・・』



「・・・続き話せるか?」



『・・・私にとって、家族は・・・

先生と、ピノコちゃんなんです。

血の繋がりはあっても

あの父親と母親と姉は・・・

私を捨てて、音信不通で・・・』



「・・・・・・」



『もう、何の関係もないって

私はここで、先生とピノコちゃんと

三人で新しい家族として

新しい私の生活をしていけばいいって

そう、思っていたんです』



「・・・そうだな」



『だからっ・・・・・・

今日、あの人が死んだって

・・・聞いても、ぴんとこないし

何とも思わない・・・

悲しくもない、って・・・

そう思ったのに・・・思ってるのに』







きつく私のシャツを掴むその手は

白くなる程に力が込められ

また、その表情が歪む。

そこで、彼女の心の葛藤が

ほんの少し垣間見れた。

彼女は未だ耐えているのだろう。

もう、耐える必要などないというのに。

もう、抑える必要もないのに。



そっと彼女の冷たくなった頬を

包むように撫でてやると

ぱっと顔を上げてきた。

堪えるなと、先程言ったばかりなのに

案の定だな・・・。







「知世」



『っ・・・違うのに・・・

何も、思ってないはずなのにっ・・・

何で・・・っ・・・こんなに・・・

涙が、止まらない・・・』



「・・・例え、お前さんの母親が

どんな仕打ちをしようと

もう、何の関わりがなかったとしても

・・・血の繋がりは一生消えない。

それは、どんな形であろうと

あの人がお前さんの母親であることが

変わらないと、そういうことだ」



『っ・・・』



「この涙は・・・お前さんが

その事実を受け止めている証拠だろ?

お前さんは否定しようとしているが

あの人が母親である事実は

変わらないことを

しっかり理解しているはずだ」



『・・・せん、せぇ・・・』



「だから・・・

お前さんは、今、悲しいんだ」



『っ!?・・・ちが、ぅ・・・』



「いいや・・・悲しんでいるさ。

この涙と、知世が今感じている

その心の痛みと苦しさが

何よりの証拠じゃないのか?」



『・・・かな、し、ぃ・・・』



「そうだ・・・

たった一人の母親が亡くなった

・・・悲しくて当然なんだ。

お前さんは断ち切ろうとしていたが

断ち切れるはずはない・・・」







呆然と私を見つめていたが

次第にその綺麗な瞳から

滴がポタポタと零れ落ちてきた。

心の綺麗な優しい知世のことだ

捨てられた悲しみを抑える為

憎もうとはしないまでも

関係ない、関係ない、と

必死にそう自身に

言い聞かせていたのだろう。



ぐっと抱き寄せ閉じ込めるように

きつく抱きしめてやると

恐る恐る、というように

彼女の手が背に回された。







「・・・辛かったな」



『ぅ・・・う、ぅ・・・』



「今、お前さんが感じる気持ちを

大事にしなさい・・・

お前さん自身の為に」



『っく・・・わたし、の為・・・?』



「そうだ・・・泣いて、泣いて

そうやって悲しみを自覚して

自分自身で認めて受け止めて

そうして溢れた涙と気持ちは

全部私が受け止める・・・」



『・・・・・・』



「言っただろう?

何の為に私がいる・・・

お前さんが言うように家族であり

そして・・・恋人じゃないのか?」



『っ・・・恋人、です』



「だったら、私に分けるといい。

悲しいこと辛いことは

一人で抱え込むんじゃなくて

私と半分ずつ持てばいい」



『・・・は、いぃ・・・』



「嬉しいことや楽しいことは

私とお前さんと分かち合うことで

二倍になるだろう?」



『っ・・・ぅ・・・はい』



「ピノコもいるんだ、三倍だな

・・・お前さんには、今

そうして分かち合える家族がいる

だから・・・一人で

抱え込むんじゃない」







泣き続ける彼女が

ごめんなさい、と

ありがとうございます、と

そして・・・

悲しいです、と。

そう呟いた声音は小さいものだが

確かに私の耳に届いた。



やっと、彼女は自分を

受け入れられたのか。

それは、私にも彼女にも

分からないのだろうが・・・

それでも、少なくとも

彼女は今自分の心に素直に

涙を流している。

それは今の彼女には

必要なことなんだ。








to be continued・・・



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