Black Jack

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涙を零す彼女が

私を見つめ微笑んだ。

そう、いつもの笑顔だ。

きっと、今いるこの家の者達には

見せたことがないのであろう

その笑顔を目の当たりにして

思ったとおり驚いている。

特に父親と姉は。

曲りなりにも家族だというのに。







「ブラック・ジャック先生・・・

でしたね?」



「・・・はい」



「知世がお世話になったようで

感謝いたします。

しかし、先程の家の者達の

反応をご覧になったとおり

アレが世間での反応だと思います。

私も含め」



「・・・おっしゃるとおりです」



「・・・先生。

貴方にお伺いします。

知世のこと、知世との関係

貴方はどうお考えなのでしょうか」







問われたことへの答えなど

私の中では決まっている。

だが、彼女へ告げるべきか

ずっと悩んでもいた。

ソレを口にしてしまえば

彼女を縛り付けることになる。

やっと呪縛から解放され

飛び立つ準備をしているのに、だ。

そこへ新たな鎖で繋いでしまうことは

私自身本意ではない。

それでも・・・私は、放したくない。







「信じては頂けないかもしれませんが

私と知世は、今の関係は恋人です」



「・・・」



「はぁあ!?」



「えっ!?」



「くくっ・・・先生

冗談だろ?」



「そうですよ・・・

恋人という名の愛玩人形?ですよね」



『っ・・・先、生・・・』



「・・・そう言われることは

想定していた。

私は別に良い。

日頃から散々な言われようを

しているからね。

まあ、慣れてはいる。

但し、知世は違う。

彼女を傷つけないように

守りたいと思っている。

だからこそ、この関係は

言う必要がないと判断したんだ」







そう。

あえて、傷つけてしまうことを

する必要はない。

この関係も私と彼女が理解していれば

それで十分だ。

だが、彼女の祖母が望む言葉は

コレではない。

だから、はっきりさせよう。

何よりも・・・知世の為に。

私の覚悟も決まった。







「私は知世の両親から

買い取るという名目で

彼女へ自由を与えたかった。

多少強引だろうと、正規の方法では

ないことも十分理解したうえで

私は彼女を引き取った。

それからは・・・私と私の助手と

知世、血の繋がりはないが

それでも、家族として過ごしてきた」



「・・・」



「だから、私は彼女を縛りたくはない。

だが・・・手放すことも考えてはいない。

・・・知世」



『っ・・・は、はい』



「私と、本当の家族になろう」



『え・・・』



「・・・私の妻になってほしいと

そう言っているんだ」



『ぇ・・・えっ・・・』







唐突な私の発言に

言葉が出ず固まっている。

そんな姿に思わず笑みが浮かぶ。

真っ赤なその表情と瞳の奥を見る限り

拒否はされないだろうことは

確信できた。

周りであの4人が何やら喚いているが

それはどうでも良い。

私は彼女と彼女の祖母に対して

告げたんだ。

私の想いと決意と覚悟を。







「貴方の考えは分かりました。

・・・知世、貴女はどうですか?」



『え・・・ぁ、う・・・え、と・・・』



「・・・落ち着け、と言っても

無理そうだな。

まあ、深呼吸でもしてみれば

多少落ち着くだろ」



『は、はい・・・はぁ・・・

・・・・・・あ、あの・・・

・・・・・・私・・・・・・

私、先生のおかげで、色んなことを

知ることができました。

誰かの温もりとか、優しさも・・・

好きになることも』



「・・・・・・」



『誰かを好きになれたことだけでも

私には考えられないくらい

奇跡だったのに・・・

まさか、先生も同じ気持ちを

返してくれるなんて夢にも思わなくて

・・・この気持ちの意味も

想い合えることの喜びとか

苦しさとか、目に見えないからこその

戸惑いとか切なさとかもどかしさ

全部、教えてくれたのは先生です』







彼女の言葉が降り積もり

心が満たされていくのが分かる。

彼女の中に私が根付いていることを

実感できる。

彼女と同じように

私も彼女に教えられたのだ。

誰かをここまで深く愛するということを。

私は私自身とこの腕さえあれば

他は必要ないと思っていた。

あるいは彼女と同じように

諦めていたのかもしれない。

そんな私に、一つの光をくれたのは

他でもない、お前さんだよ、知世。







『だから・・・だから、ね・・・先生。

私・・・・・・私も・・・

先生と本当の家族になりたいです』










to be continued・・・


 

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