Black Jack

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「ふぅ・・・どこに行った?」







決して狭くはない

だが、広くもないはずの

この家の中で目的の人物を探している。

そんな自分が可笑しくもあるが

今、どうしても探し出したい

・・・というよりも

目に映っていなければ

落ち着かない。

いつもというわけではない。

ただ、どうしようもなく

傍に置きたい衝動に駆られる。

そんな時がある。

まさに、今がソレだ。







『あ、先生』



「・・・知世」



『?・・・あ!

ごめんなさい、探してました、よね?』



「・・・何をしていたんだ?」



『ピノコちゃんに

今日はプリンを食べたいって

おねだりされました』



「そうか・・・で?

それはもう終わるのか?」



『これを片付ければ終わりです』







これ、と言って見せたのは

小ぶりのボール。

棚にしまったところで

彼女がこちらをくるりと向くと

以前プレゼントとして

調理器具と一緒に贈った

エプロンをつけていた。

白地の細かな刺繍が施された

フリルとレースで縁取られた

清廉なイメージを与えるソレは

私の彼女に対する印象なのかもしれない。

真っ白なものは無性に穢したくなる。



彼女もそうだ。

私を無条件に信用し

私に対して何の疑いも持たない。

信頼されるといえるのかもしれない。

ただ・・・私はそこまで

信用されるべき男ではない。

彼女が思う程に優しくもなければ

愛に溢れているわけでもない。

いつだって、彼女を穢し

私と同じ場所にまで堕としたくなる。

実際にはいくらこの汚れた手で触れても

一切穢されず、真っ白なままだ。

だから、本当の意味で

私のものにはできなのではないか、と

らしくもなくそんな考えが過ぎってしまう。







『先生?』



「・・・どうした?」



『どうしたって・・・

先生こそ、どうかしました?

・・・私に、用事なんでしょう?』



「まあ・・・な」



『?何か、ついてます?』



「・・・いや・・・

相変わらず、お前さんは

白が似合うな」



『ホント、ですか?

何か照れますね』



「私とは正反対、というわけか」



『正反対?

・・・あ、先生は白よりも

黒のイメージですね』



「・・・そうだな」



『うん・・・ふふっ』



「?どうした?」



『何だか嬉しくて』



「何が?」



『白と黒って

相反するようでいて

互いに互いがないと

本当の自分でいられない

・・・そんな風に思えませんか?』



「・・・どういうことだ?」







嬉しそうに話す彼女に

その言葉がいまいち理解できず

尋ね返すと。

ほんの少し頬を赤く染め

すりっとゆるく抱きつきながら

すり寄ってきた。

拒む理由などないものだから

自然な流れとして抱きしめ返し

話の続きを促した。







『もし白だけ、黒だけ

一つしかない世界だったら

白はその白さを知ることはないです。

だって、自分しかないのだから。

黒も同じですよ・・・

黒しか存在しないなら

“黒”であることを知る術はない。

黒と白が互いに存在し合うから

黒は黒として、白は白として

在り続けることができるんです。

私は、そう思います』



「・・・それなら

別に黒でなくとも

白であると認識できるんじゃないか?

黒であることも」



『そうかもしれませんが・・・

でも、一番黒と白をはっきりと

理解しあえるものって

・・・やっぱり白と黒なんですよ』



「・・・」



『・・・私がそう思うというより

そうあって欲しいという

希望なのかもしれません』



「希望?」



『・・・どちらにも染められなくても

隣り合って一緒に存在し合えたら

すごく嬉しいです』



「・・・そうか」







手に入らない、など

どの口が言うのだろうか。

何も知らなかった

愛さえ知らなかった彼女に

このような言葉を言わせているのは

・・・私の他に誰がいるのだろうか。

人の情を教えたのも

男女間にある特殊な情を教えたのも

ソレを芽生えさせたのも

手を伸ばす先が私であるように

そう仕向けたのも

全部、私に他ならない。

白く在り続けながら

黒の内に引き込まれている。

ただ、彼女が言うように

混じることはない。

そこに白と黒、互いが互いとして

存在しながら寄り添い合う。

それだけのことなんだ。







「ふっ・・・先日誓ったばかりなのに

・・・考え込み過ぎたのかもしれないな」



『・・・先生?』



「・・・知世

少し悩みがあるんだが

私を慰めてくれないか?」



『え・・・私で良いんですか?』



「お前さんが良いんだ。

いや・・・お前さんでないと駄目なんだ」



『!・・・答えは出せないかも

しれませんが・・・

一緒に考えて、先生を抱きしめることは

できると思います』







こういうところが

好ましくもあり心配にもなる。

私の言葉をその通りにしか

受け止めていない。

その裏にある私の渦巻く

黒い欲に全く気付いていない。

だが、それならそれで良い。

そのまま、真っ白なままで

私の隣りにいてくれるなら

それで良い。

他を求めることがないように

これからも彼女を私へと導くだけのこと。










to be continued・・・



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