牛蒡夢

□電波でアイラブユー
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『うぅ・・・どうしよう』







じっとスマホを見つめ

刻々と時間が経過していく。

先程から凝視しているのは

1通のメール。

相手は、社会人の彼。

明日は土日だけども

急な仕事で会えないはずだった。

とっても残念で、寂しいけど

彼を困らせたくはないし

仕事なら仕方がないし。

精一杯の笑顔で了承した。

それなのに・・・

数分前に届いていたメール。





“今から迎えに行く。

出かける準備しとけ”





絵文字も何もない簡素なメール。

でも、自分の為に急いで

仕事を終わらせて

自分の為にここへ向かってくれている。

それだけで胸がいっぱいになる程

喜びが溢れだしてしまう。

で、困っているのは

あまりにも嬉し過ぎて

メールの返信がまだできていない。

というのも、仕方がない。

だって伝えたいことも

言いたいこともいっぱいあって

メールでは打ちきれなくて

それでもすぐに彼に届けたい。



準備もしないと・・・

あ、着替えもしなきゃ!

デート用にってこの前買った

ワンピースと・・・

あ、お泊りセットもだ。



あわあわと一人どたばた

部屋の中を散らかしながら

急いで準備をする。

それでもメールを、と。

伝えたい言葉

言いたい言葉

たくさんあるけど、あり過ぎるから

今はこれだけを返すから。

後は、きっといつもの車で

迎えに来てくれた時に

顔見て真っ先に自分の声で伝えるよ。



だから、この一言だけ。





“大好き!”





全部の言葉は結局この想いが

こもってるんだから。



着替えも済ませて

メイクも軽くして。

お泊りセットも何とか詰めて

大丈夫かな?と、思ったら

スマホが鳴って、慌てて見ると。

思わず笑みが零れる。

通話を押してそっと耳にあてると。







「ミルク、もう出て来られるか?」



『うん!もう、着いたの?』



「ああ」



『今から出るね』







荷物を持って急いで飛び出ると

いつもの車が脇に停めてあって

そこに大好きな彼が立っていた。

スーツを脱いで、ネクタイも緩んで。

着崩れているその姿が

とってもカッコよくて。

飛び出た勢いでそのまま駆け寄った。







『バーダックさん!!』



「ぅおっ!?・・・っち・・・

お前な、急に飛び出してくんな」



『・・・ありがとう、バーダックさん』



「馬鹿、お前の為じゃねえよ。

俺は俺の為に時間を作ったんだ」



『え?』



「俺の方が、お前と会えねえのは

耐えられねえんだよ」







私から伝えたいこと、言いたいこと。

たくさんあった私の言葉達が

一気に跳ね飛ばされてしまった。

何て破壊力のあることを言うのだろう。

そんな言葉でこれ以上好きにさせて

どうしたらいいんだろう。



私は抱きついたまま

このまま負けを認めるのは

あまりにも悔しいから。

照れからの真っ赤な顔で

とっておきの上目使いをプラスして

さっきメールで送った言葉を

お見舞いすることにした。







『・・・・・・バーダックさん』



「ああ?」



『大好きです』



「・・・・・・・・・ふっ」



『・・・?』



「ミルク、この連休中

寝られると思うなよ?」



『ふ、ぇ・・・!?』







がっしり抱えられ

ひょいと車に入れられて。

言われた言葉を反復するごとに

体がとんでもない熱を孕んで行く。

少しの不安と、大きな期待とで

私のドキドキは終始鳴りっぱなしだった。








〜END〜


 

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