牛蒡夢

□Do not love me
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『この鮮やかな茜色を贈ろう』





チルドを葬ってから

どれほど経ったのか。

日数ではまだ2〜3日ってとこか?

何故、過去へ来てしまったのか。

何故、俺だけがここにいるのか。

何故、何故、何故・・・。

尽きない疑問にいい加減嫌気がさす。

それでも、どうしようもない。



ベリーは大丈夫だったようで

未だあの洞穴を棲家として

過ごしている俺の元へと

食料を持ってきている。

まあ、そのおかげで

わざわざ手に入れなくても良いのは

楽で助かってはいるが。

変わった奴だという認識は変わらない。







「・・・全部、失くなっちまったな」







ポツリとらしくない呟きを吐いて

その現実をよりひしひしと感じた。

仲間もいない。

俺のいた惑星ベジータもないだろう。

それ以前に、過去にいるが

元の時代へと戻れるのか。

それとも戻れないのか・・・。

戻ったところで、結局は

何もないのだから

ここだろうと、どこだろうと

同じことなのだろう。



アイツらを守れなかった。

星を制圧していたくせに

守ることさえできなかった。

そして・・・そして・・・

何よりも大切だったものを

俺は、手離すことができないまま

失くしてしまった。







「・・・ミルク」







思い出すのはあの笑顔。

馬鹿みたいにへらへらして

俺の全てを信じきっていて。

そのくせ変なところでするどくて。

俺を失うことを只々恐れていた。

俺を・・・愛してくれていた。

本当に、何よりも大切だった。

あの笑顔を守りたくて

ひたすらに戦って、勝ち続けて。

アイツの元へ帰ることを

いつも胸に置いていた。



だから、あの時・・・

俺はアイツを手離すことを決めた。

ずっと傍で守ると誓った

その誓いを破ることになるが

それでも・・・ミルクには

生きて欲しいと、そう思った。

だから、無理やり宇宙船に乗せ

惑星ベジータから送り出そうとした。

だが・・・それは叶わなかった。

俺は仲間も、星も、大切なものも

何も守れなかった。







「くくっ・・・本当に、情けねえ」







今更、こんな力を手にしたところで

一体何になるってんだ。

金色に光る、この現象。

溢れかえるパワー。

何で今更・・・。

このパワーがあの時にあれば。

こんな過ぎ去ったこと

後悔なんて意味がねえ。

でも・・・それでも・・・

何であの時にこのパワーを

引き出せなかったのかって

そう思っちまうのは仕方ねえだろ。



ふと何気なく外を見れば

茜色に染まる景色に目を奪われる。

いつだったか、ミルクが

好きだと言っていた。

俺を思い出す、と

俺に似ている、と

そう言って笑ってやがった。

赤い光が辺りを柔らかく包んで

これから来る闇夜を教えてくれる

不安を少しずつ和らげてくれる

そんな優しさが俺のようだと

そう言っていた。

全く馬鹿げたことを抜かしやがる。

でも・・・そう言った時の

アイツの柔らかな表情は

今でも鮮明に覚えている。



いつも何が楽しいのやら

夕日だけは欠かさず見つめ

雨の日はしょぼくれてたな。

そんなアイツに今のこの景色を

この茜色を、見せてやりたかった。

きっとガキみてえにはしゃいで

喜んでたんだろうな。



そんな妄想、意味のないことだ。

分かってるが・・・それでも

口に、言葉に出さなくても

想うことくらいは許されるだろ?

いつまでも女々しいって

んなこと、俺が一番分かってる。

それでも・・・

この見たことがない程の茜色が

遥か遠くのアイツにも届くように。

せめて俺の目に焼きつけようと

只々、沈んでいく

その姿を見つめていた。









to be continued・・・


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