牛蒡夢

□無自覚の救済
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遠征から戻って

いつものように

トーマ達と飲みに行こうと

いつものバーへ向かっていた。

先に報告やらを済ませて

とうに出来上がってるだろう

アイツらを思い浮かべ

自然と小さな笑みが浮かんだ。

他の奴らじゃあ

こんな感情浮かびもしない。



部屋をでて廊下を歩いていると

急に小さな“何か”とぶつかった。

ぶつかったというには

軽すぎるその衝撃を

難なく受け止めて

その“何か”をついと見下ろした。







「・・・何だ?」



『ぁ・・・・・・』



「・・・・・・」







女。

しかもサイヤ人ではない。

水色というには薄い色の

流れるような長い髪が

ゆらゆら揺れている。

大きな瞳は薄い灰色だが

涙に濡れて銀光を放つようだ。

ようするに目を奪われた。

この俺が。



前方からバタバタと

何やら騒々しい足音が聞こえ

はっと我に返った。

また面倒事かと

眉間に皺が寄るのが分かる。

と、同時に未だ密着したままの

ぶつかってきた女が

更に俺に体を寄せて来た。

僅かに震えてもいる。







「・・・・・・・・・おい」



『っ、あ・・・す、すみませ・・・』



「・・・お前・・・」



A「どこ行きやがっ・・・バーダック!?

あ、テメェ!こんなとこに」







やってきたのは俺と同じ

下級戦士のサイヤ人だ。

名前は・・・忘れたが。

まあ、そんなに親しいわけでも

話したことなんかあったかなかったっか

その程度にしか記憶にねえ奴だ。

この男の姿を見た途端

更にびくつかせた女に

何となく状況が掴めてきた。

おそらくどっかの星の制圧に向い

そこに居たこの女を掻っ攫って

性欲処理にでもしようとしたんだろう。



はっ・・・くだらねえ。



俺は小さく溜息を吐き

しがみつく女の手を掴み

ぐいっと男の方へ押しやった。

男が女に触れると

女が俺を振り返り

ガタガタと震え今にも泣きだしそうだ。







「・・・てめぇのもんくれえ

しっかり管理しとけ」



A「言われなくてもそうするさ。

おい!さっさとしねえか!!」



『っ・・・やぁ・・・』







引きずられながらも

何故か俺を見つめる女。

縋るような、助けを求めるような

そんな表情と瞳で。

バカバカしい・・・。

俺がお前を助けてやる理由なんて

微塵もありゃしねえだろうが。



無性に苛々した俺は

さっさと酒でも飲んで

憂さ晴らしするに限ると。

当初の目的の場所へ向かうべく

踵を返した・・・はずだった。

だが・・・。







「・・・・・・」



A「なっ・・・なんだよ」



『っ・・・』



「悪ぃな・・・最近サイヤ人の女に

飽きてきたところだったんだ」



A「!?ふ、ふざけるな!!

こいつは俺が拾ってきたんだぞ!?

何でお前なんかに・・・」



「・・・その腐った脳みそ

吹っ飛ばされたくなけりゃあ

大人しくその女渡せ」



A「っ・・・!?」



『・・・ぁ・・・』







女の腕を掴んでいる男の腕を

骨が軋む程にねじあげながら

そう凄んでみせると。

あっけなくその女を置き捨て

「ふん!そんな餓鬼みたいな女

退屈凌ぎでしかなかったんだからな」

と、負け犬の遠吠えみてえな台詞を

吐き捨てて逃げ出して行った。



後に残った俺と女。

頭二つ分程小せえ女を見下ろしながら

我ながら何を面倒くせえことを、と。

より深く刻んだ眉間をそのままに

俺は女を肩に担ぎあげた。







『っ・・・え?!』



「おい、暴れんなよ」



『あ、あの・・・』



「うるせえ。殺されたくなけりゃ

部屋に着くまで黙ってろ」







はあ・・・ちっ。

酒はまだ飲めねえな。










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